B面人気1位曲を作詞した売野雅勇とのタッグが1作に終わった理由は?

 攻めた作風と言えば、このシングルのB面に収録された「PRIVATE RED」も、シリアスな雰囲気の中、マイナー調に突き進むアップテンポの楽曲で、デビュー1年目にはまったく歌っていないタイプだ。作詞は、当時すでに中森明菜やチェッカーズなどでメガヒットを飛ばしていた売野雅勇だが、意外にも岡田有希子への提供はこの作品のみ。しかしながら、Spotifyでは第10位と、彼女のシングルB面で最大の人気となっている。

「売野雅勇先生とはいっぱい仕事をさせていただいたので、有希子ちゃんに関しては1曲だけだったとは、自分でも意外でした。(堀)ちえみちゃんと有希子ちゃんの制作が同時並行だったので、なるべく重ならないようにと気をつけていましたから、タイミング的にこれだけになったんでしょうね」

 当時、同じ所属レコード会社だった別のアイドルのボツ曲を流用するなどということも一切なかったという点も申し添えておきたい。

國吉たち制作陣の本気度がわかるエピソードの数々に、胸が熱くなった 撮影/山田智絵

「哀しい予感」のような世界観も、岡田有希子には確かに必要だった

 なお、人気曲が多い一方、Spotifyでの再生回数が伸び悩んでいるのが、竹内まりや作詞・作曲で6thシングルの「哀しい予感」第18位)。'02年のファンリクエストでも唯一選ばれていないシングル曲で、また、岡田の生涯と重ねてしまうといった声が聞かれることも少なくない

「哀しい予感」のジャケット写真は短くした髪が新鮮!

 これについて國吉は、

「『哀しい予感』は一部のファンの方から、“この曲は、失敗だったのでは?”という話があるというのを聞いたことがあります。でも、デビュー2年目になって大人びたマイナー調の楽曲が歌えるというのを出したいと思って作りました。

 確かに私も、散歩中に『哀しい予感』は聴かないので、もしかして、気分に合わせたプレイリストには向いていないこともこの順位の原因かもしれませんね。アルバム全体、岡田有希子のすべてを通して聴いていただければ、こういう世界も確かに必要だったということがわかっていただけると思います

 と、終始穏やかに説明してくれた。何より、どんな楽曲にもたくさんの愛情をかけて作られていることが、話の節々からも伝わってくるので、改めて聴いてみると、自分の人生経験も相まって新たな気持ちを呼び起こしてくれることだろう。

 最終回となる次回は、ブレイク前の小室哲哉や、歌謡曲と縁が遠かった、かしぶち哲郎を起用した経緯などにも触れていきたい。

最終回でも秘話が続々と! お楽しみに♪ 撮影/山田智絵

(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)


【PROFILE】
國吉美織(くによし・みおり) ◎クリエーター。イギリス留学後、上智大学軽音楽部でバンド結成。EAST WESTなどさまざまなコンテストで最優秀キーボーディスト賞、作曲賞、バンド賞などを受賞。卒業後ミュージシャンの道を親の猛反対で断念、ポニーキャニオンに入社し
女性第一号の音楽ディレクターとなる。が、上司の「あなたらしい生き方を!」というアドバイスで退社、念願だった創作&演奏活動を再開し、現在に至る。クレジットは、 ディレクター、プロデューサー、ボーカル、コーラス、キーボード、ピアノ、リコーダー、ベース、ティンウィッスル、葦笛、ゲムスホルン、タンバリン、プログラミング、レコーディングエンジニア、ミキシングエンジニア、レタリング、イラストレーティング、フォトグラフ、映像制作、作詞、作曲、編曲、などなど。

◎國吉美織 公式HP→https://miorio.net/
◎milly la foret 公式HP→https://www.millylaforet.com/