コロナ禍を機に、ようやくプロになった
――本格的にコンビを組んでみて、相性のよさや手応えは感じましたか?
くるま:ケムリ先生と極端に合わない人はまずいないと思います。僕は、もともとコントをやりたかったですし、ツッコミのほうが性に合っていると思っているんです。イメージしていたのは、ニューヨークさんやジャルジャルさんみたいにボケとツッコミをスイッチできるようなコンビだったから、イメージからはすごく遠かったです。組んだばかりのころはいろいろな相方と同時進行だったから、漫才のボケをやるという経験も僕としては楽しかったんですけど。
――ツッコミは他のコンビで存分にやっているわけですもんね。
くるま:でも、最終的に残ったのがここで。このコンビでプロに行くことになったので、別の場所でコントをできないかと探っていた時期もありました。あと、(ケムリは)辞めると思っていたんです。過酷でつらいことも多い芸人(という仕事)は、お金持ちには無理だろうと思っているから。
ケムリ:まあね。どっかで急に辞めちゃうかもしれないよね。
くるま:いまは特につらくないからやっている、っていう感じでしょ? NSCに入った時点でもそれは思っていました。先生に理不尽に怒られたときのイラつき方が尋常じゃなかったし。
ケムリ:理不尽は普通に嫌いだからね。
くるま:そう、こういう帝王学で生きてきた人間なんですよ。芸人には理不尽がいっぱいあるから、どうかなと。でも、NSC23期生の主席になれたり、プロ1年目で『M-1グランプリ』の準決勝に行けたりして、イヤな思いをさせないまま、なんとかここまで来られました。
そうこうしているうちに、コロナ禍に入り。「コントをやりたい」と言った僕の気持ちは、全部リセット。そこでようやくプロになりました。そこまではノリでやっていただけなんですけど、もう仕事にしなきゃいけないなと。だから僕のプロデビューは、2020年秋なんですよ。
“お笑い”が“仕事”に変わった日
――それは、コロナだけがそうさせたんですか? 他にも何かが起こっていた?
くるま:『NHK新人お笑い大賞』で優勝したタイミングでもあります。あと、それまでの僕は、いつかこの人(ケムリ)が辞めたとしても、この世界でやっていけるような努力をずっとしてきたんです。それこそ、コントをやりたいと言い続けていましたし、“お笑いをコンプリートするうえで必要な技術を身に着けたい、勉強したい”という意気込みでいた。
だけどコロナ禍に入り、下支えしている舞台がなくなったとき、みんなはSNSやYouTubeで発信し始めましたけど、僕はまったくその感情が湧かなかったんです。そこで、“俺、別にやりたくなかったんだ”と気づかされたんですよね。それまで、お笑いサークルやラグビー部の部室という、お笑い風な場があるからやっていただけで、俺は別に何の情熱もなかったんだと気付いて。正直、もう無理かなと思いました。
――ある種、極限状態ですね。
くるま:そんな、マジでなんにもない時期に『NHK新人お笑い大賞』で優勝できたんですよ。すべてのやる気とコンディションがゼロの状態で、ストレスで口が指1本分くらいしか開かないまましゃべったら、客席の大半を占めるおじいちゃんおばあちゃんには逆に伝わりやすい語り口だったみたいで、優勝できました。
ケムリ:あれ、あのとき何で口が開かなかったんだっけ? ストレスだっけ? 虫歯じゃなかった?
くるま:虫歯もそうだけど、根本はストレスだったの。そこで優勝したことで“そうか、これは仕事なんだ”“働かなきゃいけないんだ”と思って。ようやく“仕事”を始めた感覚になりました。“吉本に就職した”というか。
――コロナ禍でスタンスがかなり大きく変わったんですね。かなりの変革期だと思いますが、コンビ間ではどうモチベーションを保っていましたか?
ケムリ:僕は、そういうことはあまり考えないです。彼が努力している部分はあるでしょうけど。
くるま:僕も別に苦労はしていないですよ。いまは、いわゆる熱量みたいなものは特にないから。お笑いに限らず、楽しく誰とも争わずに生きていければいいので。
ケムリ:そうなんですよね〜。
くるま:“お笑い”をやっているころだったらイヤだったと思いますよ。実際、“もっと頑張ろうよ!”と思っていた時期もあるし。でも、昔は吉本の深夜稽古という仕組みがあったので、強制的に頑張っていたからふたりの歯車が噛み合っていました。もし、俺がいまも“お笑い”をやっていて、隣にこれくらいのモチベーションの人がいたら、イヤだとは思います。だってストイックじゃないから。簡単に言ったら。
ケムリ:そうだね。
くるま:でも、僕はいま“お笑い”をやってないので。吉本に就職している感覚なので。そこは気にならないですね。それに、“趣味のお笑い”もやっているし。
ケムリ:“趣味のお笑い”もやってんの?
くるま:うん。僕、作家もしているので。本業に支障が出ない範囲で“趣味のお笑い”ができれば、いまは十分かな。
(編集/本間美帆)
【PROFILE】
令和ロマン ◎NSC東京校23期生の高比良くるまと松井ケムリからなるコンビ。もともと「魔人無骨」というコンビ名で活動していたが、2019年5月、元号が変わると同時に「令和ロマン」に改名した。現在は、神保町よしもと漫才劇場に所属。同劇場を拠点に、首都圏近郊や関西、福岡など各地の劇場に出演している。『令和ロマンのご様子』『令和ロマンのUBUGOE』など、配信ラジオの活動も。YouTube→@official-reiwaroman