2023年4月に、カバー・アルバム『歌謡 Style Collection』を発表した少年隊・錦織一清。今回は本人による全曲解説の第2弾。第1弾は、カバー・アルバムを出そうと思ったきっかけや、CD収録の頭から3曲「For Your Love」「五月のバラ」「池上線」について解説してもらった。今回は、4曲目から。なお、本作はオリコン集計による売り上げが約1300枚(週間33位)、さらに集計対象外のファンクラブ限定盤は約3200枚売れていることから、合わせて週間トップテン級となる4500枚を一般発売の初週までに売れていることにご注意願いたい。
「めぐり逢い紡いで」「積木の部屋」などで描かれる“西陽系の女性”に惹かれる
それでは、まずは4曲目「めぐり逢い紡いで」。1978年2月にシンガーソングライターの大塚博堂が歌った、切ない女心が綴られたフォークソングだ。もともと歌謡曲寄りにアレンジされたものを、同年9月に布施明がさらにダイナミックな歌声でカバーし、年末のNHK紅白歌合戦でも歌唱した。錦織版は、歌詞の情景を大切にした歌唱が心に沁みわたる。
「どちらのバージョンも知っていますが、今回は自分らしく歌おうと思いました。大塚博堂さんの飾らない歌い方もしみじみとして好きですし、布施明さんの歌唱力でパンチを利かせている感じも好きですね」
どちらにも似ていないハスキーな歌声で、テンポが一定ではない錦織の歌唱は、ミュージカルの一幕のようだ。
「この曲は、自分でギターでも爪弾(つまび)きながら歌っているかのような雰囲気を出してみました。僕は大信田礼子さんの『同棲時代』とか、こういう世界観が大好きなんですよ。
十数年前、荒木とよひさ先生とご一緒したとき、先生が作詞したテレサ・テンさんの『つぐない』について、“ニッキよ~、あの出だしの《窓に西陽が当たる部屋》という詞だけで、この曲で描かれているのがどんな女性かわかるだろう?”っておっしゃっていて、さすが~! って納得しました。布施さんの曲だと『積木の部屋』の歌詞が、まさに西陽があたる部屋という感じですよね。いわゆる朝日の関係のない部屋を好みそうな女性……というので、なんとなくイメージが湧きますよね」
ここから、“ニッキ節”とも言うべき歌謡談義が炸裂した。まるでトークイベントを聞いているようで、テンポがいい。
「『めぐり逢い紡いで』は、《はじめてつけたマニキュアが “もろい かける 割れる はがれる”》って語呂合わせとか、《束ねた髪をふわり広げて かわいい女つくろって》という表現もすごいよね。(カバー・アルバム3曲目の)『池上線』も、この『めぐり逢い紡いで』も、松本隆先生の歌には絶対に出てこない、“西陽系の女性”が主人公ですよね。松本先生は、すばらしい表現をされますけど、基本パステルカラーだし。
そしてこの2曲は、若いうちには歌えませんね。多少なりとも汚れた今の自分には、こういう歌が合っているんです。例えば今さら、“君と過ごすクリスマス〜♪”なんて、気持ち悪くて歌えません(爆笑)」
「実は植草以外にも、いろんな場所に“『あずさ2号』仲間”がいるんですよね」
5曲目は植草克秀とデュエットをした「あずさ2号」。原曲は、1977年3月にリリースされた狩人のデビュー曲で、男性デュエットの超定番曲と言えるだろう。ちなみに、本アルバムはストリーミングでも4月末から配信されているが、約4週間がたった時点で、Spotifyでは「あずさ2号」が2位以下にダブルスコア以上の差をつけての人気となっている。少年隊ファンによる支持や、さらには前年末の錦織と植草によるランチタイム&ディナーショー『ふたりのSHOW&TIME』での歌唱が報道されたことで、気になった人も多いのだろう。
「えっ、この曲、そんなに人気なんですか? これは昔から打ち上げなどの席で、植草とシャレのつもりでよく歌っていました」
確かに『ふたりのSHOW&TIME』では、サビに向かう手前で錦織が「ジャカジャカジャカ」と口で演奏を歌ってみせるなど、まるで宴会芸のようにノリノリな様子が会場を沸かせていた。そして、狩人の曲には特別な思い入れもあるようだ。
「ジャニーズ事務所に入所して最初にさせていただいた仕事が、狩人のコンサート内の寸劇で、おふたりの小学生時代を演じる役だったんです。兄弟げんかのシーンをやりました。東京公演の会場は中野サンプラザでしたが、自分にとっての初・サンプラザは、狩人のコンサートなんです。僕は、フォーリーブス解散の1年前に入って、解散してから稼いでいたのは(川﨑)麻世くんだけだったから、当時は外部の仕事もやっていたんでしょうね。僕としては、狩人の2ndシングルだった『コスモス街道』のほうが好きだったんだけど、今回は、植草も知っている『あずさ2号』を選びました。ヒガシ(東山紀之)はハモってくれないから、彼とのデュエットはしません(笑)」
さらに、錦織からは、「ここ、書いておいてください(笑)」と以下の内容を強調された。
「実は、いろんな場所に“『あずさ2号』仲間”がいるんですよ。僕と一緒に絶対、この曲を歌いたいという人たちが。その中のひとりが、『坊っちゃん団子』を売っている『うつぼ屋』の伊狩詩朗社長。彼とのほうが昔からデュエットしていたのに、CDでは植草と歌っているから、みんな怒っていないか心配です(笑)」
なお、『あずさ2号』は、こだわって5曲目にしたという。
「5曲目はアナログレコードで言えばA面の最後だから、ここで元気が出るようにしようという思惑もあるんですよ。とはいえ、今回はアナログ盤の発売予定はないですね。前のEP(『Cafe Uncle Cinnammon』)は、サウンド・プロデューサーの西寺郷太が“アナログも作れ、作れ”ってうるさかったんですよ(笑)。あいつはジャケットの紙質とか、何でもこだわりますからね」
だからこそ、錦織とウマが合っているようにも思えるが(笑)、本作の大人な仕上がりはアナログ盤で発売されても話題になりそうな気がする。
「東京HOLD ME TIGHT」「ラヴ・イズ・オーヴァー」の選曲理由は?
そして、6曲目は桂銀淑が1991年1月に発表したスロー・ナンバーの「東京HOLD ME TIGHT」。この曲のみ、平成時代の楽曲だ。
「これを採用した背景としては、芝居で使ったことが大きいですね。つかこうへいの舞台『熱海殺人事件』の中で、刑事部長が警視総監に調査報告をする長台詞のシーンがあるんですよ。それを自分が演出したときのBGMに、『東京HOLD ME TIGHT』を使わせてもらったんです。なんとなくブルージーで、東京の街を見下ろしているようなイメージに合うと思ったんですよね。僕の中でこの歌の景色は、新宿の大ガードから見える青梅街道に架かった歩道橋。そこに日付が変わるくらいの時間に立って、西新宿側から歌舞伎町ゴールデン街を眺めている感じ。都会の喧騒があるからこそ、淋しさを感じるんですよね」
もともと、桂銀淑の歌声に“女版・柳ジョージ”と思うほど惹(ひ)かれていたという。
「桂銀淑さんとは、僕ら少年隊がデビューしたときに賞レースの音楽祭でご一緒することが多かったんです。そのころ初めて聴いて、ハスキーな歌声がものすごくお上手で。そして、ソフトリーゼント系のショートヘアも、男装の麗人のようでシビれました。そのときの桂銀淑さんと、若いころの小池百合子さんって、かぶるんだよね(笑)」
7曲目は、’79年、’82年に発売され、’83年から’84年に息の長いヒットとなった欧陽菲菲の「ラヴ・イズ・オーヴァー」。本作の中で唯一のオリコン1位獲得曲で、こだわりの選曲が多い中にカバーの定番曲が入ると、
「これは単純に歌いたかったんです。欧陽菲菲さんの大ヒット曲ですが、僕がいただいたレコードは生沢祐一さんバージョンだったので、“あっ、男の人も歌っていいんだ”と思って歌いました」
本作では、「オーヴァー」の音階がオリジナルと錦織とでは異なっているという感想がSNSでも見られたが、何かこだわりがあったのだろうか。
「それは気分で歌ったんじゃないですかね。僕は、譜面を見ないで歌っているので。でも、それがいい方に転んだりもするのでね」
実際、担当ディレクターも、錦織らしい味わいがあるので、そのまま進めたとのこと。確かに、オリジナルでは「オーヴァー」が強いぶんだけ悲しみが深くなるが、錦織の「オーヴァー」は、人肌の温もりや優しさが感じられる。このように歌の情景が変わるのも、カバーアルバムの醍醐味だろう。
「でも、それに気づくファンの方もすごいですね。この曲はスナックとかで、これまであまり歌っていないんですよ。『ラヴ・イズ・オーヴァー』や『マイ・ウェイ』は、他に歌いたい人が絶対にいるから、その邪魔をしちゃいけないと思って。4曲目の『めぐり逢い紡いで』も、知り合いにいつも歌いたい人がいたので、今回はその敗者復活戦みたいなものですね(笑)」
ちなみに、ファンクラブ限定盤のInsturmentalでは、錦織の情熱的なバックコーラスも堪能できるのがおすすめ。また、担当ディレクターによると、トミー・リピューマやネッド・ドヒニーといった西海岸風のサウンドの仕上がりにもこだわっているそうだ。
少年隊×阿久悠は意外と1曲のみ。本アルバムはすべて“お酒の邪魔をしない曲”
そして8曲目は、尾崎紀世彦が1971年7月に発表した「さよならをもう一度」。こちらも当時はオリコン最高2位、累計40万枚以上の大ヒット曲だが、“尾崎紀世彦=「また逢う日まで」”のインパクトが強烈すぎて、リアルタイム世代以外は、知らない人が多いかもしれない。別れをテーマにしつつ、メジャー調でスケール感のあるバラードという点では、「五月のバラ」とも共通している。
「『また逢う日まで』は(カラオケの取り合いになるから)歌えないけれど、『さよならをもう一度』は、比較的隠れがちな名曲でしょ? 阿久悠先生の歌は、例えば沢田研二さんだと『酒場でDABADA』とか『カサブランカ・ダンディ』とか、好きなものが多いですね。どういうわけか少年隊では、あまりご縁がなかったのですが」
少年隊としては、’88年にドキュメンタリー映画『燃える白球』の主題歌として作られた「夏の名前」(作詞:阿久悠、作曲:筒美京平、編曲:戸塚修。『少年隊 35th Anniversary BEST』の完全生産限定盤のみに収録)の1曲のみだが、改めて聴くと、錦織の感情をこめた歌唱と、存在感が強い阿久悠の言葉は相性抜群な気がする。
9曲目以降の解説はインタビュー第3弾にとっておいて、ここでは本作のおすすめの聴き方を尋ねてみた。
「このアルバム全10曲は、すべて“お酒の邪魔をしない曲”です。だから、酒場で聴いてほしいですね。でも、バーのCDプレイヤーでかけてもらう、っていうのはちょっと違って、偶然入った、“ここ、ボラれるんじゃないの?”って雰囲気の店に入ったときにでも、その店のスピーカーから、うすーくどれか1曲が聴こえてきたらいいなと思っています」
楽曲解説が進むにつれ、まじめな考察もキツめのジョークも深くなるがゆえに、どんどん話が長くなり、しまいには話しすぎて「今、なんでこの話をしているんだっけ」なんて、真顔で尋ねては周囲を笑わせる錦織。その二枚目半の饒舌(じょうぜつ)ぶりからは、とても各方面からリスペクトされる天才的パフォーマーとは想像できないほどだ。だからこそ、彼の解釈による歌謡曲カバーは、
(取材・文:人音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
【PROFILE】
錦織一清(にしきおり・かずきよ) ◎1965年生まれ、東京都出身。小学生のときにジャニーズ事務所に入所。アイドルグループ「少年隊」のリーダーとして一世を風靡。テレビドラマや舞台を中心に俳優としても活躍。’99年につかこうへい演出「蒲田行進曲」への出演をきっかけに、舞台演出にも積極的に関わるように。43年間、ジャニーズ事務所で活動したのち、’20年12月31日に独立。以降、’21年にシングル「Song for you」をリリース、’23年2月には舞台『サラリーマンナイトフィーバー』を主催・制作。’23年4月にはカヴァー・アルバム『歌謡 Style Collection』をリリースした。
【INFORMATION】
Funky Diamond 18(錦織一清/パパイヤ鈴木) LIVE TOUR 2023 PRIMEMAX
■2023年7月16日(日)名古屋・名古屋市公会堂 大ホール
17:00開場/18:00開演
■2023年7月17日(月/祝)大阪・サンケイホールブリーゼ
16:00開場/17:00開演
■2023年8月8日(火)東京・恵比寿ザ・ガーデンホール
18:00開場/19:00開演
■2023年8月9日(水)東京・恵比寿ザ・ガーデンホール
18:00開場/19:00開演
■2023年8月18日(金)福岡・キャナルシティ劇場
18:00開場/19:00開演
※公演詳細やチケット情報は公式HP内ニュースページにて→https://unclecinnamon.com/news/14218
◎錦織一清 公式HP→https://unclecinnamon.com/
◎錦織一清 公式Twitter→https://twitter.com/kazz_nishikiori
◎『歌謡 Style Collection』全曲視聴ができるOfficial Trailer→https://www.youtube.com/watch?v=PLFIalnlPs8