大役に自分らしくないほどプレッシャーを感じた

──大西さんの、ここ何年かの印象的な役柄として『キングダム』『るろうに剣心 最終章 The Final』を挙げる人も多いかと。両作とも動のイメージが強いですが、今回は静かな人間ドラマです。演技に向かう際に何か違いはありましたか?

 役柄自体が違うので、もちろんそこに気をつけますが、作品の系統が同じなら何かが同じということもないですし……。役が違えばすべてが違うので、ジャンルによってどうというのはないです。一作一作、出合う役柄ごとですね。

──直達の感情が一気にあふれ出たシーンがとても印象的で、見ているこちらも一緒に泣いてしまいました。あの場面は2日間にわたって撮影されたと聞きました。もともと2日間で撮る予定だったのですか?

 もともとは1日で撮影する予定だったんですけど、うまくいかなくて、前田監督が次の日に持ち越すことを決めてくださったんです。それで翌日に、仕切り直してやらせていただく形になりました。

 うまくいかなくて悔しくて。いろんな方から声をかけていただきました。監督はもちろん、スタッフさんや、直達の叔父さん役の高良健吾さんにも励ましていただいて、気持ちを切り替えていきました。

 その日、家に帰ってから、あえて撮影のことは何も考えずに、次の日までに自分を真っ白の状態にすることができました。

──真っ白の状態にすることで、次の日にやり遂げることができたと。

 自分のやり方として、それが合ってると思うんです。これまでも、頭で考え込みすぎずにやってきました。けれど今回は、脚本を最初に読んだときから、あのシーンがとても大事だということはわかっていましたし、クランクインしてからその日まで、ずっとそのシーンの撮影日のことを気にしちゃってたんです。

 大きな作品で、大きな役ですし、おっしゃってくださったように、見る方の印象にも残る本当に大事なシーンです。この作品に与える影響の大きさというのが、自分の中でわかっていたので、考えすぎてしまいました。

 それがよくないとわかっていたんですけど、それでも考えずにはいられなくて……それでやっぱり1日目はうまくいきませんでした。

 でも、そのまま落ち込んでいてもしょうがないので、ここからは本当に“何も考えずにいこう!”とゆっくりお風呂に入って、切り替えて臨みました。

大西利空さん 撮影/北村史成

大きな役柄を演じ切り、役者としての思いがますます強く

──大西さんは、年齢は若くとも芸歴は長いですが、本作に携わったことによって自分の中で何か変わったことはありますか?

 今お話ししたシーンでつまずいたことが、僕にとっていちばん大きな出来事でした。そうした大事なシーンに向けての心構えって、すごく大事なことだと思うんです。

 大きな作品、大きな役柄を前にして、今まで当たり前にできていたことができなかった。そこで実際に経験した(気持ちの)切り替えは、すごくためになったと思いますし、ターニングポイントになったのかなと感じます。

──現在17歳です。まだお若いですが、今後も役者としてやっていきたいという気持ちは強いですか?

 強いです。いろんなお仕事をしたり、先輩の姿を見たりして、どんどん強くなっています。今回の仕事も経て、ますます“自分は役者を続けていくんだな”という思いです。

──どんな役者になっていきたいですか?

 人の心を動かしたいです。そこを極めたい。まずはこの『水は海に向かって流れる』がとてもいい作品になっていて嬉しかったです。すごくキレイで鮮やかで、いろんな感情が楽しめる映画です。ぜひ見てください。

大西利空さん 撮影/北村史成

(取材・文/望月ふみ、編集/本間美帆)


【PROFILE】
大西利空(おおにし・りく) ◎2006年、5月16日生まれ。東京都出身。生後5か月で芸能界入りし、ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』(フジテレビ系)にて初のレギュラー出演。『3月のライオン』(2017年) 、『キングダム』(2019年)などで主人公の幼少期を演じた。近年の映画出演作に『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』(2019年/声の出演)、『るろうに剣心 最終章 The Final』(2021年)。Instagram→@rikuonishiofficial