「稼がない万太郎を愛する寿恵子」を肯定するためのオタク設定

 結果、寿恵子がオタクになった。万太郎と再会した30話、寿恵子のオタクっぷりが描かれた。母の営む和菓子屋の2階、自室の床いっぱいに本。表紙には『里見八犬傳』。単なる読書家ではないことの証として、寿恵子に言わせたのが「尊い」という言葉。正しく再現すると、「あ…ちょっ…何これ!? 現八と信乃、尊い! ああ…馬琴先生、天才すぎる〜!」。

 万太郎のモデルとなった牧野富太郎一家が極貧生活を送ることは、自伝などから明らかになっている。万太郎は富太郎ではないが、お金を稼ぐ気がないことは、もうさんざん描かれている。寿恵子の将来の夫は、そういう人。寿恵子はそれでも結婚を決め、生涯愛し続ける。そういうドラマにする以上、昨今の女性にもそれを納得してもらわねばならない。「稼がない夫」「愛する妻」を肯定する、その今日的な最適解が「オタク」だった。「ひとつのことに夢中な者同士なら、オッケーだよね」。それでいくことにしたのだろう。

『らんまん』で寿恵子を演じる浜辺美波 撮影/渡邊智裕

 かくして寿恵子は八犬伝オタクになった。浜辺さんは民放ドラマ『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(2021年)でも可愛いオタクを演じていた。34話では、「いっそ八犬士になりたい!」と身悶(みもだ)えていた。もしやNHK、寿恵子にコスプレをさせる気か!?

 ツイッターに上がった9週の予告編によると、万太郎は和菓子屋の前で「まっすぐ走ってお嬢様を迎えに来ます」と言っていた。植物雑誌作りの進展と、峰屋の混乱も予告されていた。雑誌にお金がかかるうえ、頼みの実家も不安定。だけど愛は着々進行中。

 というわけで、「『らんまん』今どき化作戦」が実行されているのだ。オタク用語ばかり目立つのもなんだから、他の「今どき」も入れておく。それって楽しいよね、と制作陣のノリが加速。「竹ちゃん、身体の半分が脚」も登場した。とすれば、これからも今どき言葉がちょいちょい来る。次は「竹ちゃん、顔小さい」あたりではないかと思うが、さてどうだろう。


《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。