少年隊・錦織一清が、2023年4月にカバー・アルバム『歌謡 Style Collection』を発表。今回は本人による全曲解説の第3弾。第1弾、第2弾で8曲目までを思い入れたっぷりに解説してくれたが、この盛大なる歌謡ショーのフィナーレというべきラスト2曲にも、熱がこもっている。また、後半は今夏から始動するパパイヤ鈴木とのユニット、Funky Daimond 18(ファンキー・ダイヤモンド・ワン・エイト)についても語ってくれた。
(インタビュー第1弾→少年隊・錦織一清が歌って語る“昭和歌謡”、 名曲「池上線」の郷愁に耐えきれず「この沿線に越すのは諦めた」 / 第2弾→少年隊・錦織一清、カバーアルバムでダントツ人気の「あずさ2号」デュエット相手は植草克秀だけじゃなかった!)
「忘れていいの」のデュエット相手に井上珠美を起用した納得の理由
まずは、アルバム9曲目「忘れていいの -愛の幕切れ-」。もともとは、谷村新司が'84年1月のアルバム『抱擁-SATIN ROSE-』に収録していたソロのバラード曲「忘れていいの」を、不倫を題材として大人気となったドラマ『金曜日の妻たちへ』にも出演していた小川知子とのデュエット曲にしたものだ。テレビのCMや歌番組では、谷村が小川の胸元に手を滑り込ませる演出も大きな話題となり、レコードの売り上げは'84年のオリコン年間91位ながら、
そもそも、男女デュエットを、少年隊がライフワークとしていたミュージカル『PLAYZONE(プレゾン)』以外で披露するのは珍しい錦織が、どうしてチャレンジしたのだろうか。
「実は、女性とのデュエット経験はカラオケでもほとんどなくて、定番の『ロンリー・チャップリン』も、途中のメロディーが怪しいんですよ。誘ってくれる女性もいるのですが、 “ごめんね”と言って断ってきたので、今こそちゃんとやってみようと思ったんです。
それで候補曲を考えたときに、あっ、谷村新司さんの曲があったなと。当時『夜のヒットスタジオ』で歌っているときも、小川知子さんを抱き寄せたり、CMでは胸に手を入れたりしていたじゃないですか。あのときの谷村さん、もしも歌っていなかったら、ただの痴漢だからね!(笑)」
デュエット相手に、ミュージカルを中心に活躍する女優でシンガーの井上珠美を起用した理由も尋ねてみた。
「珠美は、僕が手がける舞台にもよく協力してくれていて、(錦織がライフワークとしている)愛媛県の『坊っちゃん劇場』で上演した作品にも2作ほど出ています。はっきり言って、彼女の歌唱力は、僕らの年代においてもナンバー1だと思っています。僕が東宝で『SHE LOVES ME』という舞台を演出したときもコーラスとして出てくれて、とてもうまかったんですよ。演出家と女優という立場を飛び越えてぜひ一緒に歌いたいと思い、お願いしました」
そういった実績からか、ここでの「忘れていいの」は、ふたりの息もピッタリ! また、井上の熱唱を映えさせるかのように、
「実はこれ、スケジュールの都合で、僕は東京、珠美は四国で別々にレコーディングしているんです。僕がまず録音したものに、珠美が合わせました。そうじゃないと、珠美がうますぎて、僕が合わせられない(笑)。エンジニアにも僕のほうが下手だと思われたのか、最初に調整したとき、僕のボーカルの音量がかなり下げられていたんですよ。トラックダウンの段階から気づいていたんですが、自分で“上げろ”だなんて言いにくいじゃないですか。そんなことを言っても許されるの、矢沢永吉さんとか、自分でスタジオを持っている人だけだと思っていて。でも、谷村新司さんに聴いていただいたとき、“もう少し、錦織のボーカルを上げろ”と直々に言ってくださって今の形になりました。ありがたかったです」
とはいえ、錦織が一歩引いて井上の歌唱力を引き出そうとしている印象は、きちんと残っている。
大好きな西城秀樹の楽曲を本気カバー! ビブラートは「僕の持ち味」
そして、本アルバムのラストが、'78年8月に西城秀樹がリリースした不朽の名作「ブルースカイ ブルー」。錦織は、初めて買ったレコードにヒデキの「ちぎれた愛」を挙げているように、大ファンであることを公言してきた。中でも本作は、作曲を手がけた馬飼野康二の前で歌っていたそうだ。
「馬飼野先生は、僕が秀樹さんのこと大好きなのを知っていたので、ミュージカルの音楽を担当してくださっていた期間中、仕事終わりに飲みに行ったりすると、“ニッキ、『ブルースカイ ブルー』歌ってよ~”って言われて、よく歌っていました。先生の前では、なんとなくヒデキになりきってデフォルメぎみに歌ってきたんです。だから、今回は素直に自分らしく歌ってみようと。
それで、歌う前にあらためて秀樹さんの『ブルースカイ ブルー』を聴いてみたら、ご自身も、実はそこまでヒデキ節ではなくて、ストレートに朗々と歌いあげていらしたのに気づきました。逆に、その部分も秀樹さんの魅力だと感じましたね。僕が子どものころに観た秀樹さんは、『情熱の嵐』を歌っている途中で服を引きちぎったり、『薔薇の鎖』でマイクを脚に巻きつけたりと、脚が長いから何をやってもカッコいいんですよね! そんな秀樹さんが、『ブルースカイ ブルー』では熱唱しているけれど、どこか涼しさも感じる。この少しあとに歌った、オフコースのカバー『眠れぬ夜』も、抑えているからこそ色気があって好きなんですよ。オフコースのよさとはまた違って」
そうした気づきがあったからか、本作では錦織本来のビブラートの繊細さがより際立っている。その繊細な響きが、大空へ旅立ったヒデキへの慕情として聴き手にも伝播(でんぱ)していくようだ。
「僕が歌を習っていたときの先生が、ビブラート大好きな方だったんですよ。今はビブラートが多いと、古くさいと言われるかもしれませんが、それは僕の持ち味ですね」