──赤ちゃん向けにオフィシャルで作られたテレビ番組というと、NHKのEテレでしょうか。

 NHKさんをあまり見てこなかった人でも、子どもが生まれると、途端に「Eテレ最高!」となります。そこは結構不思議でしたね。今の時代、大人用のコンテンツは選択肢がたくさんあるのに、なぜ赤ちゃんには選択肢がないのか。なぜ民放に赤ちゃん向けの番組がないのか。なんだか窮屈だと思ったんです。

 私はテレビ局に勤めていて、それもテレ東というちょっと変わった局にいます。テレ東ならEテレに並ぶ選択肢として、これまでなかった赤ちゃん向けの番組を作ることができるかもしれない。そう思い、育休が明けた2019年に企画書を出しました。

『シナぷしゅ』誕生の背景を熱く語る飯田プロデューサー 撮影/fumufumu news編集部

──そもそも、民放で赤ちゃん向けの番組が作られてこなかったのはなぜですか?

 私がコレ! と明確に答えを言えることではありませんが、ひとつに視聴率の指標があると思います。視聴率の対象となるのは4歳以上。つまり、0歳から4歳未満の乳幼児は対象外なんです。民放は視聴率でビジネスをしている部分が大きくて、視聴率の指標外である赤ちゃんに向けて番組を作るということはなかなかチャレンジできないことでした。

 ただ、私が企画書を出した2019年は、テレビ局のビジネスモデルに変化が出てきたときでした。視聴率以外の要素でビジネスが成り立つ確信があり、企画書に盛り込みました。

──企画書を出してトントン拍子に決まったのですか?

 はい。「誰もやっていないならとりあえずやってみなさい」と。そこがテレ東のいいところです。もちろんいきなりレギュラー化ができるわけではありません。まずは1週間、どんな番組が作れるのか本気でやってみるということで、2019年12月にトライアル放送という形で実現しました。

民放で初となる赤ちゃん向け番組。Eテレとの違いとは?

──番組の内容はどのように決めていったのでしょう。

 最初は何をしたらいいか定まらず、めちゃくちゃ大変でした。Eテレにちょっと引っ張られてしまうんですよ、頭が。なぜなら赤ちゃん向けのジャンルは、私もEテレしか見たことがなかったから。でも、すさまじい歴史と伝統と研究に基づいて作られてきた番組を追いかけても、おそらく超劣化版のようなものしかできません。視点を変え、「親として子どもに何を見せたいか」をシンプルに捉えることにしました。当時、息子は1歳3か月ごろで番組のターゲットの世代だったので「この子が目を輝かせて見るのはどんな番組か」をひたすら考えました。

 子育て中のプロデューサーたちと「うちの子だったらこういうのが好き」「うちだったらコレ」とアイデアを持ち寄って、宝箱のように番組に詰めてトライアル放送にこぎつけました。

──トライアル時はどんなコーナーがあったんですか?

 トライアル時から『シナぷしゅ』のスタイルはあまり変わっていません。「ぷしゅぷしゅ」もいましたし、オープニングの映像もほぼ変わっていません。

 なかでも、パペットの猫のひーたん&みーたんが登場する「がっしゃん」は、トライアル時から人気がありました。子どもたちの中には車や電車の「連結」が好きな子がいますが、子どもがパパやママと手をつなぐときの人と人がつながるという温かさも「がっしゃん」に込められるよね、という話があがって。ひーたん&みーたんが、くっつくものやつながるものを、「がっしゃん」という言葉で楽しく見せてくれるコーナーになりました。

 この「がっしゃん」の言葉はとても便利で、視聴者の方が言葉をうまく活用してくれています。チャイルドシートのベルトを締めるとき、テーブルにイスをくっつけるときに、「がっしゃんしようね」と。日常的に「がっしゃん」を使ってくれています。

「がっしゃん」に登場するパペットの猫のひーたん&みーたん。ひーたんは左手、みーたんは右手から名付けられたそう。味わいのあるビジュアルは、“誰かの家のぬいぐるみ”をイメージして作られている (c)テレビ東京