子育ての当事者と非当事者の間にある壁がなくなるといい
──映画が公開された日は、映画館に視察に行かれたんですか?
初日は、豊洲(東京都江東区)のユナイテッド・シネマの朝イチの上映に合わせて、開館を映画館の中から見守っていました。最初に入ってきたのが、1歳半ぐらいの女の子。ヨチヨチとおぼつかない足取りで、チケットのもぎりのところを歩いてきたのです。それは今まで一度も見たことのなかった光景で、「映画館にいないはずのサイズの子がいる!」と涙が出てきました。赤ちゃんだって映画館に来るんです。『シナぷしゅ』が映画館で上映され、全国的に大きな盛り上がりを見せていることは、すごく意味があることだと思います。
──映画化によって、若い世代や子育てにかかわっていない人も『シナぷしゅ』という赤ちゃん番組を知る機会になっていると思います。
子育てにかかわることってどうしても当事者間だけで話題が閉ざされてしまいますよね。子育ての当事者と非当事者の間にはすごく高い壁があって、私が『シナぷしゅ』を始めたのも「ママだからやっているんでしょ」と思われていることも実感しています。そうかもしれませんが、「ママだから」だけではなく見られたい気持ちもあるというか……。
──子育てに限らず、壁を感じて疎遠になってしまうことってありますよね。
なんとなく理解し合えなくなるのはもったいないし、なんとかならないのかな、というのは思っていました。これからの未来を担っていく子どもたちのことを、子育ての当事者以外の人も考えるきっかけがどんどん増えていくといいな、壁がなくなるといいなと思っています。
今回、“劇場”という普段赤ちゃんがいないエリアに『シナぷしゅ』が進出したことで、若い世代や子どもに接する機会の少ない人にも、赤ちゃん向けのコンテンツの存在が見えるようになりました。映画館でポスターをチラッと見て、「ふーん、令和の赤ちゃんは映画館で映画を観るんだ」「0歳向けの映画があっても面白いよね」って思ってもらうだけでいいんです。赤ちゃんが社会の一員であることに少しでも思いをはせてもらえたら。映画化によって、赤ちゃんを大切にする社会、子育てをする人にとってより暮らしやすい社会になってほしいという願いが、映画化の裏にありました。
もちろんテレビでも、朝7時半にうっかりテレ東をつけてしまったとき、「何だこれ、赤ちゃん向けの番組か」「そうだよね、赤ちゃんもテレビ見るよね」とチラッとでも思ってくれれば。それだけで断絶が1ミリでも埋まるのかなと思っています。
──実際に『シナぷしゅ』を見ると、大人も楽しめるなと知りました。
大人も新感覚で楽しめる新しいエンターテイメントだと思います。
独身の方や子どもがいない方も見てくださっていますし、「うちの老人ホームのテレビでは『シナぷしゅ』が流れています」という声もいただきました。脳機能に障がいのある小学生のお母さんからは、「認知機能は幼児ぐらいですが、それでも赤ちゃん赤ちゃんしすぎている番組はうちの子なりにプライドが許さないらしくて、見ないんです。でも、『シナぷしゅ』は見る! と言って見ています」と。それってすごいことだなと、たびたび思わされています。『シナぷしゅ』は感覚に訴える世界なので、誰にでもいろんな活用の仕方があるのだと思います。
夜泣きでつらい夜に勇気づけられる人も
──ネット配信にも力を入れていらっしゃいます。
赤ちゃんと生活していると、時間どおりに進めることはできません。オフィシャルでネット配信をしていくことで、育児中に見たいときに見せたい方法で見せることができます。育児の“便利なお助けツール”として活用していただけたら。
『シナぷしゅ』のYouTube「シナぷしゅch」では、24時間止まらずに流れ続けるループライブ配信を行っています。実はこれ、深夜であろうと今まで一度も視聴人数がゼロになったことがないんです。私も最近、下の子が夜泣きをして開くことがあるのですが、深夜3時でも100人ぐらい見ているんですよ。視聴人数を見ると、闘っているのは自分だけじゃないんだって、すごく安心するんです。つらく孤独な夜も、頑張っている人がこれだけいるから私も頑張ろうって思わされる。そんなコメントもたくさんいただきます。
これからも『シナぷしゅ』らしいやり方で、育児のつらくてしんどい部分を少しでも楽にできたら。自分を追い詰めてしまう人や虐待などの悲しいニュースが減ったらいいなと思います。
(取材・文/鈴木ゆう子)
●『シナぷしゅ』
毎週 月曜~金曜 あさ 7:30~8:00(テレビ東京系列6局ネット)
●『ウタぷしゅ』※『シナぷしゅ』で人気のオリジナルソングを集めたスペシャル番組。
隔週 金曜 夕方 5:30~5:55(テレビ東京ローカル)
●『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』
5月19日よりユナイテッド・シネマ豊洲、新宿ピカデリーほか公開中。