寿恵子に言い寄る高藤のしたたかな手口
「報・連・相」ができないと、昨今は新入社員でもアウトだろう。昭和の新入社員だった私でさえ、「ほうれんそうって」と思いつつ、なんとなくだが理解はしている。「報告」は起こったこと、「連絡」はこれから起こること、それを組織内で共有する。そんな感じで合っているならば、まつは「連絡」は得意だった。娘にこれからのことを語るまつ、人生の先輩感ハンパなかった。
その前に、高藤だ。寿恵子に「人生のパートナー」になってほしいと告げる。横浜に小さな屋敷がある、西洋人の設計で庭もある。そこに住まないか、と。妾になれ、と図々しく迫る男として描かないところが、長田さんのうまいところだ。
ダンスのレッスンから寿恵子の堂々とした精神を見てとり、そのことを褒める。一方で、妻は妻だがそれだけだと言い切る。そういう時代だとはいえ、己のダブルスタンダードには気づいていない、いや気づかないふりで口説いているのか。とにかく一筋縄ではいかない人物で、これでは寿恵子も断りにくかろう。そう思わせて、興味をそらさない。
寿恵子は、万太郎の不在を嘆いている。だからまつは、「高藤さまからの話もあるし、いい折だから聞きなさい」と「連絡」を始める。お妾さんだった自分の来し方を踏まえて、名言満載で語る。
「誰かを待つことを暮らしの真ん中に置くと、何をしても寂しさでいっぱいになっちまう。自分が値打ちのない捨てられた気持ちになるからね」。すべての片思い経験者に響く名言だ。
「奥の手を教えてあげる。男の人のためにあんたがいるんじゃないの。あんたはあんた自身のためにここにいるの」「だからいつだって、自分の機嫌は自分でとること」。女性なら誰でもグッときたはずだ。