万太郎のプロポーズ予告を伝えないのは、まつの戦略?

 さて万太郎だ。石版印刷の技術を覚えるため授業料を支払ってまで働いているのに、これまた「報告」が苦手だ。自分で描いて自分で刷るから働かせてくれと頼むと、印刷所のトップ・大畑(奥田瑛二)は「うちの画工がダメだから、自分でやるのか」と尋ねる。「そうです」と答えて言ったのは、「研究の図版が必要ですき」。正確に印刷したい、そうでないと世界に伝わらない。それだけ補足する。現場で同僚に「なぜ働くのか」と聞かれたときも、「楽しそうですき」が答え。自分で描いたままが刷れるなど、こんな楽しいことはない、と。

 うーん、もう少し説明したほうが、お互いにスムーズだと思うけどなーと見ていると、器用で熱心に働く万太郎は、すぐに大畑にも石版印刷の絵師にも認められる。試し刷りする機会をもらい、万太郎は植物画を石板に描く。出来上がりを見た絵師は、万太郎の狙いを理解する。

 「これは、本物を伝えるための手立てとしての絵だ」。同じ方向を向いて仕事をしていれば、報・連・相なしでも理解し合える。そういう長田さんからのメッセージのようで、「成果主義」とかそういう言葉がなかったころはそんな感じだったなー、などと郷愁を感じたりもした

『らんまん』で万太郎を演じる神木隆之介 撮影/近藤陽介

 だけど、やっぱりまつは、万太郎の「プロポーズ予告」を寿恵子に報告したほうがいいと思う。11週、いよいよ万太郎vs高藤の決戦も大詰めを迎えるはずだ。どちらか1人を選ぶためには、万太郎についての情報もすべて開示されるべきだ。そんなふうにヤキモキしつつ、こう思う。まつは人生の達人だ、「報・連・相」もここからが本番かもしれない。


《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。