「キツイな」と思ったときは、誰かのための「もう一回」

──さて、福士さんといえば鍛え抜かれた肉体美をお持ちですが、トレーニングのモチベーションを保つために心がけていることはありますか?

 やっぱり、身体の変化があると違います。それに、僕はジムに行く前よりも行き始めてからのほうが、明らかに気分がよくなってポジティブになっているような気がするんです。

 男性の場合、科学的にはテストステロンが分泌されて向上心などがアップすることにつながるとも言われていますし、僕もそう感じている気がします。そういう実感があると、続けられるモチベーションになるんじゃないかな。

──身体作りで一番のポイントになるのはどんなことでしょう。

 いろいろありますが、男性の場合で言えば、いかにキツイと思えるかどうかじゃないでしょうか。筋トレはキツくないと意味がなくなってしまうんです。

──うぅっ……、そうなんですね。

 ただ筋トレするだけでも現状維持にはなりますが、そこが戦いなんですよね。トレーニングの量や内容が「ちょっとキツイ」だったらそのぶん身体も少しずつ変わっていくし、「かなりキツイ」だと、2、3か月で全然変わってきます。長いスパンで見るなら「ちょっとキツイ」を毎日必ず続けていくのでもいいと思いますよ。

──自分の思う「キツイ」の限界をさらに乗り越えていかないと、その先にはたどり着けないんですね。

 キツイなと思ったあとの一回は大事です。僕はそういうとき「人のための一回」と思ってやるようにしています。例えば、「今日は母親の誕生日だから“おめでとう”の一回!」とか(笑)。家族や友人が頑張っているのを考えてもう一回やる、ということをしています。

──確かに、自分のためだけだとちょっと甘えが出ちゃいそうです。

 そうなんです。自分のことだけでエネルギーを使いきったら、もうそれ以上のものは出ないけど、他の人からパワーをもらうと自分の中にまだあったものが出て、もっと頑張れるんです。

中級者になっても、初心者から学ぶことはたくさんある

──武道や英会話もそうですが「これを究めよう」と思う道を一生懸命追求して習得されるイメージがあって、私はいつも福士さんを見ると「道」という字が思い浮かぶんです。俳優のお仕事も含め「その道」を習得するためには、どんなことが必要だと思いますか。

 心構えとしては、素直でいることです。初心者のときは学ぶことだらけだからいいのですが、中級者になってくると知っていることも増えてきて、学びがちょっと緩やかになってしまうんですよ。

 例えば、役者の仕事でも英語でも、中級者になってくると「先輩の俳優さんや上級者の方から学びたい」と思ってしまうこともありますが、若い人や初心者から学べることも多いんです。「初心者の人に教えるためには、僕はどこまで理解していたらいいんだろうな」と考えることが自分の成長にもつながるし、学びを止めないためにも、自分が素直でいることがすごく大事だと思っています。

福士蒼汰さん 撮影/junko

──いつも素直に、学びを止めないことが、今の福士さんを作っていらっしゃるのですね。「学び」において、福士さんが心がけていることはありますか?

 僕の場合は、論理的と感覚的両方のベースでノイズを使って学ぶことが多いです。感覚的に学びすぎると再現性がなくて「あのときはこの感覚だったけど、今はできない」ということがあるんです。そういうときは、一度論理に落とし込むと頭に計算が入っているから再現できる。逆に論理だけでやると、頭ではわかっているけど身体が動かないということが起きてしまうので、その両方で学んでいく感覚があるといいかなと思っています。

──論理的と感覚的に物事を考えてやったことがなかったので、なんだか自分が恥ずかしくなってきました。

 いえいえ(笑)。例えば歌はわかりやすいんです。説明されたことを頭で理解して口を大きく開けてみても、実際はその音が出なかったり、逆に感覚だけ教えられても「その感覚は僕とは違う」ということになって再現できなかったりするんです。

 なので、まずは喉が大きく広がっているイメージで口腔内を広くさせて、響きは咽頭共鳴で震えている感覚を持つと、実際にちょっと広がるんです。そうやって感覚やイメージを持ちながら論理的に教わったことをやっていくと、再現性もありながらパフォーマンスすることができるんです。