脚本家、宮藤官九郎氏と大石静氏というスペシャルな2名が共同脚本を手がけたNetflixシリーズ『離婚しようよ』が配信中だ。

 視聴前に覚えておいてほしいのが、作品自体がとても豪華。まずキャスティングに注目してほしい。主演は松坂桃李と仲里依紗、他多くの出演者は、クドカン一門ともいえる彼の手がける作品ではおなじみの面々がそろう。古田新太、尾美としのりにお久しぶりの錦戸亮と矢沢心。ここに板谷由夏、山本耕史、高島礼子、竹下景子とパンチの効いた演技を見せる面々も作品を彩っている。

 そしてロケ地は愛媛県。主役の東海林大志(松坂桃李)は、愛媛5区が選挙区。妻の黒澤ゆい(仲里依紗)は愛媛県が舞台の連続ドラマで一躍ブレイク。県民の50%以上が彼女の存在を知っている設定だ。地方をほぼ貸し切り状態にして、連続ドラマのロケを敢行するとは、昨今の作品ではレアケース。全9話、本当に面白く、すでに2回観るほどハマってしまった。この小さな感動をみなさまに伝えたく、見どころを綴っていこうと思う。

【#1はこちら→<Netflixシリーズ『離婚しようよ』見どころ解説#1>全開の宮藤官九郎ワールド×大石静の情念描写が胸を熱くする

<あらすじ>
 政治家一家に生まれ育った、東海林大志と、人気女優の黒澤ゆいが離婚を決意した。夫婦そろっての不貞、家庭環境とさまざまな問題を経て、ふたりが出した結論である。ただ普通の関係性ではない彼ら、別れようにも一筋縄ではいかない。大志の選挙活動はどうする? ゆいの奥様キャラでリリースされているCMの違約金はいくらになる? と、尽きることのない問題が勃発。世間から理想の夫婦と言われたふたりが最終的に選ぶ道とは……。 

これはクドカンと大石静が仕掛けた
クズ男品評会かもしれない

 印象に残った感想のひとつに、まるでパレードのごとく次から次へと“クズ男”が登場してくることだった。

Netflixシリーズ『離婚しようよ』より

 まず主役の東海林大志はまったく威厳のない三世国会議員。妻の地元人気にあやかって、なんとか立候補だけはままなっているものの、勝負を動かしているのは母親と、敏腕秘書のみ。加えて下半身の稼働を抑えることができない不倫男。奇しくも今、世間を騒がせている話題と、どうもリンクしてしまう。そして三十路となっても「ママ」呼びと、見事なボンクラぶりを披露している。ただ彼は優しい。とても気心がいい。

Netflixシリーズ『離婚しようよ』より

 ゆいの不倫相手となる加納恭二(錦戸亮)はよくわからないアート作品をから次へと創作している金なし、勃たない、パチンコ店に入り浸る、通称「パチアート」。ああ、いる。よく「感覚だけで生きているんだ」と言いそうな、俗世から離れた男。発言すべてが軸からずれているので、話し合いができない。でも(いやだからこそ)魅力的。そんなクズ男だ。

Netflixシリーズ『離婚しようよ』より

 愛媛5区で大志のライバルとなる想田豪(山本耕史)も、常に斜め30度くらいで世の中を見つめ、やたら高圧的に正しいことを言っている。つまり胡散臭い人物。クズ、というよりは嫌な人、という表現のほうがピンとくるのかもしれない。

 と、次から次へと押し寄せてくるクセのある人物たち。ただそんな人物を最終的に憎めない人物に料理をするのが、クドカンと大石氏の脚本なのだ。

鑑賞後「私の人生、ま、いっか」と
思わせる精神サプリ作用

『離婚しようよ』には「これぞ、クドカン!」と唸(うな)りたくなるほど、本当に多くの要素が詰まっている。夫婦が離婚に向かって進んでいくことをベースにして、まずは選挙活動がある。未だかつて、ドラマでは観たことがないほど選挙活動の熱量が表現されているのを観ていると、さほど政治に興味がなかった私でも少し心が動かされた。「これはひょっとしたら面白いのかもしれない」と。

 それから最近あちこちで聞こえてくるようになった“多様性社会”も飛び出す。ゆいの母親(高島礼子)は7人の父親の違う子どもを産みながら、一度も結婚したことがない。

子どもがいるからって、好きでもない相手と何十年も一緒に過ごすのが結婚だとしたら……しなくてよかった〜

 ヒト科として生まれてしまうと、一度は脳裏をよぎる結婚と子どもを持つこと。これが呪縛のようにつきまとい、ストレスになってしまうこともあるはず。時代は変わった、とは言われても、私のように一度も戸籍を汚したことがない立場だとなんとなく後ろめたさを感じる。そんな思いを吹き飛ばしてくれるような“多様性”な生き方を見せてくれた、母親の演技は沁(し)みた。

Netflixシリーズ『離婚しようよ』より

 他にも「男性はトイレを座ってするのかどうか問題」や、妊活、父親の育児参加なども盛り込まれてくる。かつてクドカンの作品に『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系列・2016年)があった。ゆとり世代を中心に起こる問題が描かれていたのだが、そもそも会社員経験がないクドカンなのに、当事者世代の機微がこと細かに描写されていたことを思い出した。まるでゆとり世代の代弁者のようだった。

 今回の『離婚しようよ』も同じく。時流を読み込むクドカンの圧倒的なセンスに、大石氏によって落とし込まれる、登場人物の強い情感。観終わると、溜飲が下がるような爽快感がある。ごちゃごちゃ悩んでいたことがあったとしても「ま、いっか」。そう思えるサプリ要素を含んだドラマなのだ。

 さあ、夫婦は最終的に離婚をするのか。そして大志は愛媛5区で、選挙に勝つことができるのか……?

(文/小林久乃)

Netflixシリーズ『離婚しようよ』はNetflixにて独占配信中。

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《PROFILE》
小林久乃(こばやし・ひさの)
エッセイ、コラム、企画、編集、ライター、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。自他ともに認める鋭く、常に斜め30度から見つめる観察力で、狙った獲物は逃がさず仕事につなげてきた。30代の怒涛の婚活模様を綴った『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)を上梓後、『45センチの距離感』(WAVE出版)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)と著作増量中。静岡県浜松市出身