ヒロインを励まし続けた、おディーン様演じる五代友厚

 それで思い出したのが、『あさが来た』(2015年度後期)の五代友厚(ディーン・フジオカ)だ。米国帰りの彼は、ヒロイン・あさ(波瑠)を「ファースト・ペングィン(first penguin)」だと言う。海に飛び込む決断力とリスクをとる勇気がある、これからも胸を張って堂々と海に飛び込め、と。以後、五代はあさを励まし続ける。英語まじりで。

 『あさが来た』の平均視聴率は23.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。21世紀の朝ドラで最高だ。ヒロインの仕事を励まし続けるカッコいい男性は、視聴率を連れてくる。そのことを『らんまん』の脚本家・長田育恵さんはよく理解している。と思うのは、竹雄の他にもう1人、“第二の五代”がいるのだ。それは寿恵子の実家「白梅堂」の菓子職人・文太(池内万作)。12週、母・まつ(牧瀬里穂)が故郷に帰る文太について行く、つまり結婚することがわかった。それもそのはずと思わせる人だった。

 まつを芸者時代から知っていて、働く女性としての彼女を尊敬している。多くない台詞の中からも、そのことがじんわり伝わってきた。印象的だったのが、まつから夕飯に作った豆腐田楽を「持ってって」と渡されるシーン(第9週)。舞踏練習会に参加することにした寿恵子を心配するまつに、文太が「お嬢さんはあれでいて、なかなかしゃっきりしてらっしゃる」と言う。まつが「私はただ、男にすがって生きてくような娘にはしたくないんだよ」と返すと、「それはお嬢さんにも伝わってると思いますよ、おかみさんがそうですから」。そう言って、帰っていく。

『らんまん』で文太を演じる池内万作 撮影/近藤陽介

 カッコいいじゃないか、と文太をひそかに注目していて知ったのだが、池内さんの両親は伊丹十三さんと宮本信子さんだそうだ。なるほど、カッコいいわけだと思う。そしてもう文太が出ないとすれば、“第二の五代”は竹雄だけになる。頑張れ、竹雄!
 


《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。