社長が乗っているから見送る……は、する必要なし!

──読者から「会社でエレベーターに乗ろうとしたら社長が乗っていた。急いでいたので会釈してそのまま乗ったら、後日、同乗していた他部署の人に嫌味を言われた。乗り込むのはマナー違反だったのか?」という質問がありました。自分も同じ状況だと乗らないほうがいいと感じそうなのですが、これはマナー違反にあたるのでしょうか?

いえ、マナー違反ではありません

 会社に役員専用エレベーターなどがない場合、社長・部長など役職関係なく誰もが同じエレベーターを使いますが、ビジネスシーンにおいて、“社長が乗っているから次にする”という行為は“時間のロス”につながります。その行為は会社の経営活動において有益か? と考えればもちろん答えはNOですし、一刻も早くエレベーターに乗らなければいけない状況で、社長に気を遣って事業のマイナスになっては元も子もないです。

 古い体質の会社で、それが掟(おきて)みたいになっているのであればそれに従ったほうが角は立ちませんが、いまどきそういう会社は少ないです。それに他の会社も入っているビルであれば、他の人からすると誰が社長かなんてわかりません。

 ただ質問者さんが偉いなと思うのは、社長と気づいたときにしっかり会釈していること。相手への気遣いも出来ていますし、まったくマナー違反に該当しません」

──急いでいないときに「お先にどうぞ」という気遣いは問題ないですか?

それはまったく問題ないですね。すでにエレベーター内に人がたくさんいる場合も同じで、急いでいるなら乗っていいし、配慮として見送ることも問題ない。ただ、“社長が乗っている=見送らないといけない”というルールはどこにもありませんし、嫌味を言われる所以(ゆえん)もないはずです」

相手への気遣いを形にするのが、マナーのあるべき姿

──冒頭で「安全かどうかをまずは考えること」が前提だと聞けたので、回答すべてに納得感がありました。

「エレベーターに限らず、みなさんが思っているほどマナーは意外と堅苦しいものではなくて、自分の中で失礼に当たらない最適解は何か? を考えて行動すれば大丈夫ですし、“人に優しくしたい気持ちを形に表すこと”がマナーの大原則です。

 もちろん、名刺の渡し方や電話の取り方など、覚えておいたほうがいいベーシックな所作はあるので、まずはそれらを知ることは大事。そのうえで、その場に応じた相手への気遣いとして何が正しいかを考えられれば、堂々と行動することができます。ときにはアタフタしてしまうかもしれませんが、自分のできる限りの気遣いを心がけることが何よりも大事です」

(取材・文/FM中西)

【PROFILE】

北條 久美子(ほうじょう・くみこ) 東京外国語大学を卒業し、ウェディング司会・研修講師を経て、2007年エイベックスグループホールディングス株式会社人事部にて教育担当に。2010年にキャリアカウンセラー・研修講師として独立後、全国の企業や大学などで年間約2500人へビジネスマナーやコミュニケーション、キャリアの研修・セミナーを行う。現在はライフスタイリストとして「自分らしく笑っている人を増やす」ことをミッションにマインドフルネスや睡眠マネジメント、スゴすぎるストレッチ=スゴレッチなどをワークに取り入れ、自分らしく、かつ生き方(ライフスタイル)を豊かにすることを自らも目指し、それを広める場作りに力を入れる。著書に『ビジネスマナーの解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『心をつかむ! 新しいビジネスマナーの基本』(高橋書店)など。