介護は事前準備が非常に大切。楽しんでやるための工夫も凝らした

 そうして自身の体験を1冊の本にまとめ、改めて介護について振り返ったという。

いちばんのポイントは、“介護とは、必要に迫られて初めて必要になるのだ”と気づいたことです。父なんて何も言わずに亡くなったから、とても大変でした。だから、元気なうちにいろいろ準備しておくことが重要ですよね。逆にうちの母は難病だったので、今後その等級が進んでいったときに、どうすれば本人が幸せに暮らせるのかをイメージして多少は余裕を持って動くことができました。

 具体的には、例えば在宅介護が必要になり、ヘルパーが欲しいと言っても、すぐには入れてもらえません。候補者と事前に面接をして、お互いうまくやっていけるか見極めて、それから契約など、時間がかかるのです。だから、在宅でなくデイサービスなどを申し込むにしても、親御さんが元気なうちにそういった施設に行って空気を感じ取ってみるといいですよ。私なんて、施設を何か所か回ってお昼ご飯を食べに行きました。やっぱり、ご飯がおいしいって、とっても重要じゃないですか。とにかく事前に準備しておけば、何かあったときすぐに対応できますからね

 また、白井は実家の近くに住む自身と遠方に住む弟との2人兄弟で、親の介護をうまく分担していたという。

「うちの場合は弟とも分担しましたが、母の介護となると、やはりトイレのケアなどは男兄弟だとお互い気にするでしょうから、なるべく近所に住む私がやるようにしていました。私の場合は幸い、週末に遠方でのライブに出かけて家を離れる代わりに、平日は仕事をしている弟が週末は面倒をみるということで、スムーズにバトンタッチできました。その点はラッキーでしたね。ときどきライブ会場にも、弟が母を連れて来てくれました

介護する側の家族やヘルパーと良好な関係を築けていたことは大きな救いだったという 撮影/山田智絵

 そして、コロナ禍での在宅介護においては、自らさまざまな工夫を凝らしたという。

「今回、在宅介護センターのみなさんが本当に素敵で、その出会いがとても大きいです。それでも、親子でぶつかることや悩むことはしょっちゅうでした。特にコロナ禍では、自分の仕事がパタリとなくなり、介護ばかりをやっているうちに、“私はいったい何のために生きているんだろう?”って考えちゃうんですよね。本当に音楽の世界に戻れるのだろうか……と毎日不安でした。

 そんな中でも気持ちを切り替えて、“そうだ、家をステージにしよう”と思いついたんです。母の前で歌ってみたら喜んでくれるし、こちらも息抜きになるし、いつか再開されるはずのライブの練習にもなるし。それに、介護は楽しくやらないと自分がダメになってしまう。だから朝起きて母のもとに行くときには、疲れていても大きな声で“おはようございます! 介護士の白井で〜す! 今日のご機嫌はいかがですか?”と冗談を言うなど、明るく接していました