「ブルー」には洋楽風のコブシを使ってみた。岩崎宏美とは昔から仲良し

 そしてSpotify第4位の「ブルー」も、第3位の「迷い道」との開きが大きいとはいえ100万回再生を超えており、ここまでの4曲が突出しているという状況だ。つまり、渡辺真知子の代表曲を一般のリスナーに尋ねてみたら、「かもめが翔んだ日」「唇よ、熱く君を語れ」「迷い道」「ブルー」の4曲に集中することが容易に考えられる。

「コンサートでも、この4曲はかなりの高確率で歌いますね。4曲のうちどれが抜けても後から、“せっかく来たのに、聴けなかった~”って言われちゃいますから(笑)」

 この「ブルー」は2オクターブ近くにわたり、他の代表曲3作と比べて明らかに音域が広い。

「『迷い道』『かもめ~』がヒットしたので、ディレクターから“3作目は好きなものを作ってもいい”と言われ、喜んで作りました。そのころ、スティーヴィー・ワンダーさんが日本のコブシに興味を持っておられるというウワサを聞いて、演歌じゃない洋楽風のコブシを使った曲を考えてみたんです。《だけど、とってもブルーウゥー》の部分とか。また、ブルーという言葉は当時、世間的には“青色”としか理解されていなかったのですが、この歌から“憂うつ”という意味も徐々に広がっていったような気がします」

 本作は、'03年に岩崎宏美がアルバム『Dear Friends』にてカバーした際、「真知子ちゃんの繊細な恋心や音域の広さに感心した」と語っていたが、その語り口からもリスペクトの念と、仲のよさが感じられる。

「それはうれしいですね! 宏美ちゃんと私は、ふたりともサバサバしていて、おしゃべりが好きで、仲良くしてもらっています。当時も、サザンオールスターズのデビュー2年目に『いとしのエリー』を渋谷公会堂で初めて聴いたとき、ふたりで顔を見合わせて“桑田くん、やるよね~!”って言い合ったのを覚えています。そんなことを、ノリよく話せる人。彼女は曲を自分で作らなくても、いい曲をキャッチする感性がありますからね。大切なことがあったりすると、ふっと連絡があります。数年前も“真知子ちゃん、うちのワンちゃんが逝っちゃった……”と連絡をもらい、悲しみを共にしました。

 他にも、(男女4人組の)サーカスと仕事でご一緒することが多いですね。羽田健太郎さんが私の初期のコンサートのバンドマスターを担当されていて、前田憲男さんがサーカスの編曲をなさっていて、このふたりがとっても仲良しだったことがきっかけです」

30代で開けたラテンの世界が自分にマッチ! 最近は「背中で歌うようになった」

 続いて、Spotify第5位から第10位には、'78年から'82年ごろのシングルが並んだ。この中で、当時の売り上げ以上に人気なのは、第6位の「好きと言って」。確かに、テンポよく進む曲想は、当時を知らない人でもヒット曲と並べて好んで聴くかもしれない。さらに、渡辺にヒットの要因を考えてもらったところ、

「30歳過ぎにラテンの世界を知って以来、コンサートでも披露するようになって、お客様の評判がいいんですよ。ラテンは、舌を巻くような発音がとても情熱的で、自分のパワーを出せるんですよね。『好きと言って』は、よりその世界に近いからじゃないかしら? あと 、《旅に連れていって》 というフレーズは年齢問わず、とってもロマンティックな気持ちになれますよね」

 と答えてくれた。確かに! '90年代以降の渡辺がパワフルに聴こえる一因として巻き舌は大きい。特に、「かもめが翔んだ日」は年を追うごとにかなりダイナミックなパフォーマンスとなっている。

「デビューのころは、今と比べると浅いところで歌っていた気がしますが、年齢を重ねていって、最終的には背中で歌うようになりましたね。だからラテンのミュージシャンと共演した後は、背中がぼっこりと出るくらいなんです!」

渡辺真知子のコンサートは常に全力投球。だからこそ観客も魅了されるのだろう