待ち受け画面の「アクアゾーン」が開発のヒントに

──なるほど。では、具体的に当時の横井さんはどのような情報を集めていたのでしょうか?

横井 当時、「アクアゾーン」というパソコンの待ち受け画面が流行っていました。昔のパソコンには、今のスクリーンセーバーのような機能があり、画面の中で動く魚を育てる「アクアゾーン」は、パソコンを止めても24時間リアルタイムで魚が動いているところが面白かった。

 私は魚が大好きで、当時は家でも会社でも飼っていたんですよ。水族館も大好きだったので、デジタルなものに感情移入ができるということが、すごく不思議だった。ところが、人間と同じ24時間のタイムサイクルで生きていると、架空のものが現実に見られるんだと気づきました。そこから、私が昔作った液晶ゲームぐらいの手のひらサイズにして持ち運べるようにすれば、子どもが24時間持ってペットを育てることができると思いついたんです。

 私が本物のペットを飼うとき、可愛らしさが2割で衝動買いするんですが、実は8割が大変なんですね。死なないように一生懸命頑張る8割の大変さがあるから、2割の可愛さが倍増すると気づいたんです。

横井昭裕さん 撮影/岡利恵子

──確かにそうかもしれません。

横井 当時のおもちゃ業界は、いいとこ取り。ぬいぐるみが典型例ですが、何もしなくても死なないし、可愛いまま。マイナス要素を入れることはタブーでした。ところが出版業界は違って、例えば『トイレット博士』や『ハレンチ学園』のような漫画は、汚いものとかエッチなものを扱っていて、平気でタブーを打ち破っていました。できるだけリアルにたまごっちの面倒を見させることができれば、可愛らしさが倍増するかもしれない。世話をしないといい子に育たないとか、そういう要素を入れていこうと思ったんです。

 ただ、犬や猫、熱帯魚のように現実にいる生物だと面白くありません。飼い方は決まっているから変な飼い方や工夫ができない。映画『グレムリン』に、普段は可愛いのに夜、水をかけると大暴れする「ギズモ」というキャラクターがいました。その奇妙な感じが面白い、やっぱり架空の生物のほうがいろいろ脚色しやすいと思いました。そして、例えば現実には1センチの猫はいないけれど、架空の動物だったらこの大きさだと言い切れる。リアル感を持たせる意味でも架空なものがやりたかったんです。

──架空のもののほうが、逆にリアルになるんですね。

横井 そのころちょうど女子高校生がオピニオンリーダー的な存在で、世の中の流行を引っ張っていたので、女子高校生向けに、彼女たちが自分で作ったおもちゃのようにしたいと思いました。女子高校生が面白がるキャラを調べてみたら、今なら「ゆるキャラ」ですけど、当時は「ヘタウマ」だった。プロのデザイナーがきれいに描いた絵じゃなくて、女子高校生が左手で描いたような絵が流行(はや)っていたんですね。

 そういうキャラを探していたときに、ちょうど私の会社にアルバイトで入ってきた女性が、本当に狙っていないキャラのイラストを描く人だった。こんなに媚びていないキャラはないと思いました。結果的には、うちのデザイナーが「まめっち」「みみっち」「おやじっち」といったキャラクターを作りましたが、基本は彼女がデザインをした、非常に時代を象徴するようなヘタウマなキャラを使うことになりました。そんな経緯で、いろいろな情報がまとまって、結果的にたまごっちが生まれたんです。