「ピンチはチャンス」を地で行く、たまごっち

──たまごっちは、本当にさまざまな情報の結晶なのですね。漫画や映画、パソコン、熱帯魚、女子高校生まで、非常に幅広くて驚いてしまいます。

横井 よく「横井さんは天才ですね」と言われますが、そうではなくて、いろいろな情報を集めてまとめているだけなんです。いきなりボンとたまごっちが出てきたわけではなくて、下地に「アクアゾーン」があり、任天堂のゲーム&ウォッチの真似(まね)ごとみたいなのがあり、動物を飼うこともある。その時代に合ったヘタウマな要素を入れるとか、全部うまく重ねることでできたのです。ある意味、誰でも気がついたし、誰でもできる可能性があったんだけれども、ただその組み合わせができなかった、もしくは組み合わせはできても、商品化できなかったのかもしれない。タイミングよく商品化できたのがラッキーだった。「ツキ」みたいなものはありますね。

 たまたまバンダイの業績が悪かったから、作ることができた。もし業績がよかったら、あんな訳のわからないことはしないですよね。会社は、今のままでうまくいっていたら、失敗する確率の高い新しいことはやりたくない。だから、そのタイミングがよくて、たまごっちが生まれたんです。

──言ってみれば「ピンチはチャンス」ということですね。

横井 まさにそうです。私がバンダイに入ったときも「ピンチはチャンス」でした。たまたま大学を卒業するときに成績が悪かったうえ、第二次オイルショックのときの就職なので、大手は面接も書類も受け付けてくれないような状況でした。それで、いろいろ探していたら見つけたのがポピー(バンダイの子会社)だったんです。当時はまだ小さい会社だった。昔はおもちゃが好きだったから、そこでも入るかみたいな感じで入ったんですね。

 ただ入ってからは、面白くなりました。玩具の歴史の中で、ルービックキューブやダッコちゃん、フラフープ、オセロといったとんでもない大ヒットがあるわけですから、どうせやるからには、そういったヒットを出したいと気持ちが変わってきましたね。せっかくやるんだったら、これ一発当ててやろう、歴史に名を残せるよう頑張るんだと思いました。

横井昭裕さん、唐川靖弘さん 撮影/岡利恵子

──唐川さんにお伺いします。横井さんのように組織やいろいろなことに縛られず、常にチャレンジを続け、クリエイティブな生き方をされている人が近年増えていると思いますが、唐川さんが提唱されている「うろうろアリ」という生き方について教えていただけますか?

唐川 「うろうろアリ」は、必ずしもフリーランスや起業家ではありません。横井さんがそうだったように組織の中にいるか外にいるかはどうかはあまり関係なく、姿勢として、新しい挑戦や経験を楽しみながらやる。

 結果としていろんなものをつなげたり、新しい目で見たりすることで、自分にとっても世の中にとっても新しい価値を作る人を「うろうろアリ」と考えています。最近は短期で結果を求められがちですが、いろいろな苦境があっても、毎日楽しくポジティブな視点で挑戦を続けられる人が「うろうろアリ」といえると思います。

横井 私はバンダイにいたときから、自分はバンダイの社員だけど、独立して自分の会社をやっているという意識が常にあった。「上司はお客さん」と考えていたんです。言われた仕事をそのままやるのではなく、どれだけ面白くして上司を感心させようかと思ってやっていた。そのスピリッツが、唐川さんの言う「うろうろしている」ように見えるところだったんじゃないかな、という気がします。
(後編に続きます)

(取材・文/西野風代)


《PROFILE》
横井昭裕(よこい・あきひろ) 1955年、東京都生まれ。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、’77年、株式会社バンダイに入社。キャラクター玩具、コンピュータゲーム、ファンシー雑貨など、幅広いジャンルの商品開発に携わる。’86年、自分の力を試してみたいと思い、株式会社ウィズを設立。玩具やゲームソフトの企画・開発を手がける。’95年に「たまごっち」企画を発案した“生みの親”。現在、株式会社ワイプラス代表取締役社長。

唐川靖弘(からかわ・やすひろ) 1975年、広島県生まれ。外資系企業のコンサルタント等を経て、米国コーネル大学経営大学院にてMBA取得後、同経営大学院で初の日本人職員として勤務。グローバル企業本社との共同プロジェクトとして、アジア・アフリカの新興国において貧困層向けのビジネス開発に実践的に取り組む。組織や社会で楽しくイノベーションを起こす人材「うろうろアリ」育成のためのメソッドをまとめた書籍『THE PLAYFUL ANTS』を2022年末に上梓。現在、エッジブリッヂ合同会社代表。

『THE PLAYFUL ANTS- 社会を小さく楽しく変える越境型人材「うろうろアリ」の生き方・働き方』唐川靖弘著(EB Publishing刊)※記事中の写真をクリックするとアマゾンの商品紹介ページにジャンプします