昨年、俳優デビュー25周年を迎えた吉田羊さん。これまで数々のドラマや映画、舞台に出演し、役者としても女性としても成熟を増す一方です。そんな吉田さんが『ヒツジヒツジ』(宝島社)を7月7日に出版しました。本作は、普段からアンティーク着物を愛する吉田さんが、着物と日本の四季とともに楽しむ様子を、約9か月に渡り各地で撮影した様子を収めた一冊です。
そこで今回は、羊さん流・着物のたしなみ方をたっぷりとお話ししていただきました!
あるもので代用できる自由さに目からウロコ
──「着物」というと少し敷居が高いなと思っていたのですが、本書を拝見し「履物は草履じゃなく、パンプスでもいい!」「着物ってこんなに自由でいいんだ!」と思いました。吉田さんがここまで着物を自由に楽しめるようになったのは、どんなことがきっかけだったのですか?
私が着物を着るようになったきっかけは、20代の頃、友達に「浴衣でライブに行こうよ」と誘われたことでした。浴衣は持っていたけど道具がなかったから「無理だよ」と思ったのですが、友人から「着物はもともと普段着だし、帯枕がなくてもトイレットペーパーの芯に紐を通して作ればいい。あるもので代用すればいいんだよ」と言われたときに「着物ってそんなに自由でいいんだ」と、目からウロコがボロボロ落ちました。そこからアンティーク着物にハマっていったんです。
──帯締めや足袋のほか、カンカン帽や手袋など小物使いもとてもオシャレですよね。初心者にはなかなか難しいかと思うのですが、小物を選ぶときのポイントや楽しむコツを教えてください。
小物は着物に入っている色の中から選ぶといいですよ。あとは素材感を揃えたり、使う色を3色以下に抑えたりすることで、全体的に統一感が出ます。
これは私の場合ですが、その日のコーディネートで何をメインに持ってくるかをまず考えるんです。例えば「今日はこの帽子をかぶろう。じゃあこの帽子に合うお着物は何かな?」と、メインのものを基準にパーツをひとつずつ揃えていくようにすると決めやすいと思いますよ。
──第一章の「キモノと春夏秋冬」の中では、夏らしい萩と撫子の花があしらわれたほおずき市での一枚(P24)や、蜘蛛の巣柄の着物にハロウィン感のある帯やおばけモチーフのピアスを合わせる(P34)など、遊び心を取り入れた四季折々のコーディネートが載っていますね。
せっかくの日本独自の服飾文化なので、日本の四季を追って撮影をしたいなと思ったんです。その季節ならではのイベントやテーマを決めてシチュエーションを選んでいったら、それに見合う着物が自ずと見つけやすくなるはず。
国立競技場の前で撮影した(P36)ときに着ているのは、ロートレックの絵をモチーフにした絵画模様なので、芸術の秋にぴったりじゃないかと紐づけて選んでみました。
──柄も豊富にあるんですね。お着物を探すのも楽しそうです。
そこがアンティークだからこその面白さだと思うんです。お着物が日常着だった時代は、シルエットがストンとして単一な着物を、柄や色で遊んで個性や変化をつけたんじゃないかなと。だからこそいろいろな遊びの柄が生まれて、時代によっては流行りもあって、季節ももちろん取り入れて。着物コーデを当たり前に楽しんだ昔の人々が残したアンティークは遊びの宝庫。コーデの可能性は無限です。
──それにすごく粋ですよね。
そうですね。同じ着物でも、小物使いで雰囲気を変えたり個性を出したりすることもできるんですよ。例えば、今日着ている帯も、黒にするか白にするかで全然印象が違いますから。
洋服選びはどこかお芝居に似ている
──以前、別媒体でご取材をさせていただいた際に、お芝居の表現と文章で思いを表すことの違いについてお話しいただきましたが、今回のように「着ているもの」でご自身を表現することはどんな難しさがありましたか?
とにかく楽しかったんですよね。例えばリンクコーデのページに見合うものが見つからないという事態に直面しても、視点を変えたアプローチで臨むと新しくワクワクできて、探す労力すら楽しくて。自分が好きなこと、熱中しているものを突き詰めることは、こんなにも人生を楽しく、面白くしてくれるんだって改めて感じました。
お洋服を選ぶことって、どこかお芝居に似ていると思うんです。自分を演出して表現して、何かを演じるという部分があると思うので「今日の私は何役でいこうかな?」とチョイスすることもできる。もっとざっくりした感覚でもいいと思うんですよ。「今日はかわいい感じにしよう」とか、「かっこいい系のパンツスタイルにして、全部をメンズにせず、そこにレースを入れてみよう」という風に組み立ててみるのも面白いかなと思います。
──本書でも触れていらっしゃる「ナリキリ力」ですね。
衣服って自己紹介みたいなものじゃないですか。着ているもので自分の趣味や世界観、今の自分の気分を表したりできるので、洋服選びって自分と向き合う作業なんだなということを、今回改めて思いました。自分が選んだお洋服で、自覚していなかった自分の心持ちに気づくこともある。
それに、いつもと違う格好をしていれば、その日会う相手も「何かあったのかな」って気にかけてくれるでしょう。そんな風に、着ているものがコミュニケーションツールにもなるんだと思います。
基本を知ったうえで遊べることもある
──今日のコーディネートもとても素敵ですが、ポイントを教えてください。
裏地が付いていない単衣で、初夏から初秋まで着られるお着物です。柄は撫子で、わりと色みが華やかで派手めなので、帯は黒で抑えました。これから夏なのでストローハットをコーデのベースにしてみました。この着物は裄丈(首の中心から手首のくるぶしまでの長さ)が短かったので、袖にレースのアイテムを使っています。
丈の長短が気になって着物を着るのを諦めている方も多いと思うんですけど、こういうごまかしアイテムは今たくさん出ているので、ぜひ活用してみてください。
──私も着物に興味はあって、祖母や母のものがタンスに眠ったままなのでもったいないなとは思っているのですが……。
着物を持っていない方も多いので、それだけでまずアドバンテージになっていますよ! それに、着物があるということはおそらく帯も小物もきっとあるはず。まずは、自分は何色が好きかというところから入ってみて、どんな柄にビビッとくるか。そんな風にして、ぜひ着物を楽しんでいただきたいな。
──着物を着るには「こうじゃなきゃいけない」「こういう作法を守らなければいけない」という固定概念があるのも、躊躇してしまう理由の一つなんです。
もちろんルールやマナーはあります。本書でも基本の基みたいなことはいくつか載せていますので、まずはそれを知ったうえで、あとはご自分で好きなように楽しんでもらえたらと思います。基本を知っていれば、崩せて、遊べますし、基本がそうある理由や効果がわかると、遊びながらも「こっちじゃないな」という感覚も身についてきます。とにかく最初は、ご自身の直感でいろいろ着てみてください。そのうち「着物って自由だね」という解釈に変わっていくと思いますよ!
◇ ◇ ◇
後編では、遊び心を取り入れた着物コーデについてのほか、吉田さんが大切にされている金言についてもお話しいただきます!
(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、撮影/有村蓮)
【Profile】
●吉田羊(よしだ・よう)
2月3日生まれ、福岡県出身。小劇場を中心に活動後、TVや映画などの映像へと活動の幅を広げる。2007年、『愛の迷宮』で連続ドラマデビュー。 映画『ビリギャル』では第39回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を、21年には舞台『ジュリアス・シーザー』で第56回紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞。また、昨年12月に雑誌連載をまとめた食にまつわるエッセイ『ヒツジメシ』(講談社)を発行。
【Information】
●書籍『ヒツジヒツジ』(吉田羊著、宝島社刊)発売中!