「この本を読めば“羊”がわかるということで命名しました」と、7月7日に上梓した自身初のフォトエッセイ『ヒツジヒツジ』のタイトルについて話してくださった吉田羊さん。インタビュー前編では、本書で披露したさまざまなコーデや、着物への思いを語っていただきました。

 後編でも、遊び心を取り入れた着物コーデについてのほか、吉田さんが大切にされている金言についてもお話しいただきました。

「他の人に埋もれたくない!」個性爆発の「卓矢エンジェル」コーデ

──吉田さんが歳を重ねるごとに忘れたくないものとして「遊び心」をあげていらっしゃいます。その片鱗をすでに見受けられるのが、本書の中で見つけた大学の卒業式でのお写真(P46)。「卓矢エンジェル」コーディネートというのが気になっているのですが……。

 大学の卒業式って、女性は振袖に袴が主流じゃないですか。友人にもリサーチしたら、ほとんどの人がそうすると言うので「その中に埋もれたくない!」と、どうしても違うものが着たかったんです。

 当時から着物に興味を持ち始めていたのですが、普通にお太鼓結びで着物だと振袖ほど華やかではではないので、なおさら埋もれるんじゃないかと思い「着物を使ったリメイク」で調べて、あのような格好で出席しました。

吉田羊さん 撮影/有村蓮

──ご友人の反応はいかがでしたか?

 みんな一斉に引いていましたよ(笑)。「なにそれ。どうしちゃったの?」って。でも、引いていく友人たちを見ていて、私は気持ちよかったんです。きっと彼女たちの記憶に「卒業式のとき、なんかおかしな格好をした人がいたね」っていうエピソードは残せた。もうそれでOKだ!って。

吉田羊さん 撮影/有村蓮

──そういった「遊び心」が本書内でも溢れていましたね。中でも、第2章の「アソブ、ヒツジ」では、各テーマを決めてそれぞれどこかリンクした和洋のコーディネートが載っていて面白く拝見したのですが、実際に全8コーデの撮影をしてみて、どんな気づきや発見がありましたか?

 自分の解釈次第で、いくらでもリンクコーデを楽しめることに気づきました。例えば、「アート」をテーマにしたページを作るにあたり、もともとは格子柄を水彩で描いたお着物と似たお洋服を探していたんですが、どうしても見つけられなかったんです。どうしようかなと思ったときに「これは大きく捉えればアートだ」と解釈して「水彩画」というカテゴリーでお洋服を探してみたら、沢山出てきて。視点を変えるごとに、まだいろいろなものが見つけられると実感しました。

 また、その章の中でデニム地の着物を着ているカットがあるんですけど「このネイビーとグリーンの色合わせって、私の好きな『sacai』というファッションブランドと似ているな」と思ったんです。着物でもお洋服のブランドの世界観を作れるんだというところから発想して、リンクコーデのページを作りました。

 多くの人が「自由に楽しむのは難しいんじゃないか」と思っていらっしゃる着物でこそ、自分の好きな世界を工夫して作り上げていくことは、達成感が大きかったですね。

──「キモノと32の日常」では、観劇や立ち飲みに行くときなど、各シーンに合わせたコーディネートが掲載されていて素敵でした!

心が動いた瞬間に、目をつぶらないでほしい

──着物一式やアンティークものなどを揃えて楽しむには、やはりある程度の費用がかかりますよね。それで「着物」を躊躇する人も多いかと思いますが、そういった「自分への投資」について、どうお考えでしょうか。

 確かにおっしゃる通りで、着物は洋服に比べて必要なものが多いです。でも、あるもので代用できるものもあるし、組み合わせ次第で成立することもあるので、買えないからといって諦めるのではなく、持っているものの中で工夫すれば自分の好きな世界が作れる。そのことを、今回の本で皆さんに伝えられたら嬉しいなと思っています。

 私の願いとして、この本を見て「このコーディネート素敵」とか、「私これが好きだな」って自分の心が動いた瞬間に目をつぶらないでほしいんです。その感動やワクワクって生きるモチベーションになるし、自分の人生を楽しくするために、自分を喜ばせるための投資は、最大の必要経費だと思っています。

吉田羊さん 撮影/有村蓮

──「自分を喜ばせるための必要経費」! 名言をいただきました。

 だってね、私以上に自分の人生を楽しくしてくれる人っていないじゃないですか。人に頼むわけにはいかないじゃない?

 なので、一度にすべてを揃えなくてもいいと思うんですよ。例えば一年に一度自分へのご褒美に少しずつ買い足して、何年後かにトータルコーディネートで着てみるというたしなみ方もあると思うし、今は値段もピンキリな和装小物もたくさん出ているので、まずは興味を持ってもらえたら嬉しいですね。

「一番大きい楽屋をもらえるのは主演だからじゃない」

──以前インタビューさせていただいた際に「どんな人生を選んでも、自分で選んだことなら受け入れられるし、自分だけは自分の選択を信じてあげたい」という吉田さんの言葉が今の私の支えになっているのですが、吉田さんがこれまで誰かに言われて背中を押してもらった言葉や、今でも大切にされている「金言」があれば教えてください。

 尊敬する中井貴一さんに、「あなたはこれからも主役として、座長として作品を担っていくことがあると思うけど、なぜ主役が一番大きな楽屋かわかりますか?」と以前聞かれたことがあるんです。「それはあなたが真ん中に立つからじゃない。周りの人たちが疲れていないか、ご飯はちゃんと食べているか、辛い思いをしてないか、共演者やスタッフ全員に隅々まで気を配って、人一倍疲れるから一番大きい部屋を与えてもらえる。それができる人が、真ん中に立たせてもらえる。それを忘れちゃいけないよ」という言葉をかけていただいて。

吉田羊さん 撮影/有村蓮

 その言葉を胸に、いつも謙虚な気持ちを忘れずに、共演する人、スタッフみんなにリスペクトを持って仕事をしていきたいなと思います。

(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、撮影/有村蓮)

【Profile】
●吉田羊(よしだ・よう)
2月3日生まれ、福岡県出身。小劇場を中心に活動後、TVや映画などの映像へと活動の幅を広げる。2007年、『愛の迷宮』で連続ドラマデビュー。 映画『ビリギャル』では第39回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を、21年には舞台『ジュリアス・シーザー』で第56回紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞。また、昨年12月に雑誌連載をまとめた食にまつわるエッセイ『ヒツジメシ』(講談社)を発行。

【Information】
●書籍『ヒツジヒツジ』(吉田羊著、宝島社刊)発売中!

書籍HP:https://tkj.jp/book/?cd=TD028723