普段はおてんば、仕事はしっかりやり切るカーラ号

 カーラ号の性格について聞いてみると、「見てのとおり自由な性格」と中川さん。続けて、「天真爛漫なおてんば娘で、いろいろなものや人に興味を示し、好奇心旺盛です。人が好きで、よく見ています」と教えてくれました。

訓練場の隅の木陰でひと休みするカーラ号 撮影/齋藤周造

 今日のように取材や見学などで職員以外の人がいるときは、カーラ号は中川さんが強く叱らないことを知っているのか、自由に振る舞うこともあるそう。この日の訓練後の遊びの時間、カーラ号は大好きなボールをくわえて訓練場の端へ行き、名前を呼んでも気ままに遊び続けていました。見慣れない取材班にも好奇心旺盛に近づき、訓練のときとは違うカーラ号の姿がそこにありました。

私たちハンドラーは、犬が現場での任務を果たせるように毎日訓練をしています。カーラは自由な性格でおてんばですが、現場ではきちんと捜査をする犬です。ですから、現場活動や訓練以外は、『カーラの好きにしていいよ』という気持ちで育てています」(中川巡査部長)

服従と親和を育む服従訓練 撮影/齋藤周造

 カーラ号と中川巡査部長はペアを組んで5年。これまでどんな苦労があったのでしょうか。

訓練がうまくいかず、『なぜカーラはできないの?』と悩んだことがありました。ハンドラーの焦りや苛立ちは、もちろん犬に伝わります。それでうまくいくはずはありません。できないのはカーラが悪いのではなく、私のやり方がよくなかったんですよね。なぜ失敗をしたかを冷静に考え、『次はああしてみよう』『ダメだったらこうしてみよう』と柔軟に取り組むことでできるようになりました」(中川巡査部長)

 1日の大半をともに過ごすため「あ、今、気分が乗った!」「今日は調子が悪いな」などとカーラ号の些細な変化もわかるといいます。

訓練がうまくいったときや犬が成果を上げられたときはやはり嬉しいものです。ハンドラーとして、犬の力を引き出し高められるように向き合っています。もちろん動物なので失敗もありますし、デモンストレーションを行う警察犬のPR活動では調子に乗ってしまうこともあります。『調子に乗りすぎだよ』と注意しながら、一緒に活動しています」(中川巡査部長)

犬のお世話や健康管理も警察犬係の仕事

食事は犬舎で。ソワソワしながら待つカーラ号 撮影/齋藤周造

 ハンドラーをはじめ警察犬係は、食事やトイレ、散歩、ブラッシングなどの犬のお世話も仕事のひとつです。健康管理に細心の注意を払っています。

<警察犬の1日>

6:00 起床、排便
7:00〜10:30 訓練
11:00〜 食事、排便、休憩
13:00〜16:00 訓練
16:00〜 食事、排便、休憩
19:00〜20:00 夜間訓練
20:00 排便
21:00 就寝

※現場活動が入ったら出動する

 訓練所には犬舎があり、1頭ずつ部屋が割り当てられています。就寝や食事、休憩の時間は自分の部屋で過ごします。

 取材では午前中の食事と排泄の時間に立ち合わせてもらいました。

カーラ号の食事。皿には名前のシールが貼られている 撮影/齋藤周造

 食事は1日2回。犬の体重や健康状態に合わせて与えています。食事の時間が終わったら、次はトイレの時間です。

訓練場を横切り、自主的にトイレに向かう警察犬 撮影/齋藤周造

 訓練場に面して並ぶ個室の犬用トイレ。それぞれ扉が付いています。

 まず犬舎の扉を警察犬係が開け、犬を送り出すと、犬は自主的にトイレに向かいます。別の警察犬係が犬を迎えてトイレに誘導し、扉を閉めます。犬は個室の落ち着いた空間で排泄を済ませます。自主的な行動ができるのは、訓練された犬ならでは。

「警察犬係は、犬の便や尿を見て、健康状態を確認しています。犬は体調が急変することがあるため、健康管理には特に気を遣っています」(五十嵐警部)

トイレを終えたら自室へ戻る警察犬 撮影/齋藤周造

 排泄を終えたら、警察犬係が扉を開けます。犬は再び自室に向かい、犬舎で休憩。食後すぐに訓練を入れずに休ませるのは、胃捻転などの思いがけない事態を引き起こさないためです。しっかり休んだら、午後の訓練が始まります。

訓練所の近隣の河川敷で足跡追及を行うカーラ号 写真提供/警視庁

 訓練は、敷地を出て周辺の路上や河川敷などでも行っています。現場活動が入ったら、排泄をさせ、車に乗せて出動します。

警察犬の捜査は24時間体制で入ります。日中だけではなく夜の捜査もあるので、暗い時間帯の活動に慣れるために夜間の訓練も実施しています。夜は静かで集中できますし、夏は少し涼しくなって訓練に向いています。犬の就寝時間を守り、健康に配慮しながら過ごしています」(五十嵐警部)

 1日の大半をハンドラーと過ごす警察犬。ハンドラーが休みの日は、ほかの警察犬係が手分けしてお世話をしているそう。

「警察犬係では、毎日犬の体調の引き継ぎをしています。『歩き方が少し気になる』『食欲がなかった』『便がちょっとゆるい』といった犬の様子を共有し、細かく把握します。担当の犬でなくても、気になる症状があるときは病院に連れて行くこともあります」(中川巡査部長)

大好きなボール遊びを楽しむカーラ号。警察犬係は担当犬以外の犬も見て、遊びの相手もしている 撮影/齋藤周造