映画や本、テレビ番組などを通して知る機会が多い盲導犬。街中や電車の中で盲導犬を見かけたとき、どんな様子か、歩く場所は安全か、気になってチラチラ見たことはないでしょうか。ときには手助けをすべきか迷ったことがある人も少なくないかもしれません。
仕事をする盲導犬の邪魔をせず、でも安全に歩けるように見守りたい。ラブラドール・レトリバーが大好きで盲導犬に長年興味があるライターが、私たちにできること、盲導犬のためにしてはいけないことを知るべく、日本盲導犬協会の神奈川訓練センターを訪ねました。
日本では848頭の盲導犬が活躍中!
盲導犬を育成する団体は全国に11団体あり、全国で848頭(2022年3月31日現在)の盲導犬が活動しています。今回訪ねた公益財団法人日本盲導犬協会は、昭和42年に設立し、神奈川県、宮城県、島根県、静岡県に訓練センターを持つ団体です。盲導犬の育成と視覚障害リハビリテーション事業を通して、視覚障害者の社会参加を促し、視覚障害者福祉の増進に寄与することを目的に活動しています。
神奈川訓練センターで私たち取材班を出迎えてくださったのは、日本盲導犬協会で広報を務める池田義教さんと盲導犬PR犬のタミー(4才)です。この日は取材に加えて、訓練内容のデモンストレーションにも応じてくださいました。
盲導犬はカーナビのように万能ではない
盲導犬は、目の見えない人や見えにくい人が安全に歩くために歩行をサポートしています。「角」「段差」「障害物」を教えるのが基本的な仕事です。
「団体ごとに訓練の内容は多少違いますが、角を教える、段差を教える、障害物を教えるという3つの教えはどの団体でも共通しています。日本にいるすべての盲導犬は、この3つを柱に訓練を受けて歩いています」(池田さん、以下同)
盲導犬は“なんでもできる万能な犬”という印象が強く、「コンビニに行きたい」と言えば連れて行ってくれると勘違いしがちです。でも、盲導犬にもできないことやしないことはもちろんあります。
「盲導犬は地図を読みませんしカーナビのように誘導してくれるわけではありません。信号の仕組みを理解しているわけではありませんので、“赤になったら止まる”“青になったら渡る”こともできません。盲導犬ユーザーが地図を頭のなかに描き、その地図の上をなぞって“いま、この辺りにいるな”とイメージしながら歩きます。その過程で、安全に歩くために、盲導犬が角や段差、障害物をユーザーに教えているのです」
「角」「段差」「障害物」があったら……
神奈川訓練センターにあるトレーニング室で、盲導犬の仕事の基本である「角」「段差」「障害物」をユーザーにどのように教えるか、池田さんとタミーに見せてもらいました。
目の見えない人や見えにくい人にとって、「角」は自分がどこにいるかを知ることができる大事な目印です。盲導犬は角に来たら立ち止まり、ユーザーに角の存在を教えます。
「曲がり角に来ると盲導犬は立ち止まります。盲導犬の動きはハーネスを通じてユーザーに伝わり、ユーザーはその情報から角であると判断します。そして、頭にイメージした地図に沿ってその角を曲がるか直進するかを決め、盲導犬に指示を出して歩きます。横断歩道などでは風の動きや車の音も参考に、タイミングをはかりながら盲導犬に指示を出して渡ります」
角の場所を教えるのは盲導犬で、角であると判断して曲がるか直進するか指示を出すのはユーザーです。池田さんが「レフト、ゴー(Left go)」と指示を出すと、タミーは左へ。池田さんから「タミー、グ〜ッド(good)」と褒められながら進みます。
「段差」と「障害物」をユーザーに教えるのは、危険回避の役割も。段差を踏み外すと落下や転倒の危険があり、障害物に気づかずに衝突してケガをする場合もあります。
「例えば階段では、段差がどこから始まるか、どこで終わるかは目の見えない人や見えにくい人にはわかりません。盲導犬は、段差が上りなのか下りなのかをユーザーに教えています。上りの段差では階段の1段目に前脚をかけて止まり、下りでは段差の手前5cmほど前で止まって、段差の始まりと終わりを教えているのです。ユーザーはその情報を受け、脚で段差の位置を確認しながら進みます」
歩行中に障害物があると、盲導犬はぶつからないように避けて誘導します。路上にある自転車やバイク、電信柱など、さまざまな障害物を避けて歩くことができるのです。