犬の個性を尊重しながら“人犬一体”で捜査に取り組む

 たくさんの警察犬が暮らす訓練所では、犬同士の交流はあるのでしょうか。

「わたしたち警察犬係は、犬の性格や相性をとても気にしています。会えばケンカを始める犬もいますし、メス犬にだけは絶対に近づかないという犬もいます。ケガを避けるためにも、相性のよくない犬同士は接触させないように気をつけています」(中川巡査部長)

臭気選別訓練を行うカーラ号 撮影/齋藤周造

 相性はもちろん、警察犬ごとに訓練に対する好みの違いも見えてくるといいます。

苦手な訓練をするとき足取りが重くトボトボと歩く犬もいれば、臭気選別が大好きで跳ねながら向かっていく犬もいます。『この犬は楽しそうだな』『つまらなそうに見えるのはきっと好きではないんだな』などと、性格が見えてきます。そんな警察犬が、しっかり能力を発揮するためには、犬自身が訓練や警察犬活動に楽しく前向きに取り組めるようにすることが大切です。ハンドラーは、犬のよいところを伸ばし、苦手なことは犬に頑張ってもらいながら基準まで引き上げる。そんなスタンスでペアを組む犬に合わせて訓練を行っています」(五十嵐警部)

中川巡査部長とカーラ号の絆の深さを感じた 撮影/齋藤周造

 最後におふたりに警察犬係としてこれからの抱負をうかがいました。

警察犬は、優れた嗅覚を使い人間にはできない仕事をしています。“人犬一体”という言葉があるように、人間と警察犬がともに取り組み、事件の解決に貢献したいと思っています。犬の力を最大限に生かすのは、担当者である私たち警察犬係の仕事です。安心して暮らせる社会のために、警察犬と一緒に頑張っていきたいと思います」(中川巡査部長)

「嗅覚を使って捜査する警察犬は、AIなどが進化する今の世の中では、非科学的と見受けられがちです。しかし、犬が持つ能力ははかり知れず、捜査に貢献できる可能性はまだまだ無限大です。さまざまな事件が起こり、手口も巧妙化している今、警察犬ができる捜査は発展途上ともいえます。新しい訓練方法も取り入れながら、警察犬がさらに貢献できるように尽力していきたいです」(五十嵐警部)

 “人犬一体”で取り組む警察犬と警察犬係。今日もどこかで警察犬とハンドラーは粘り強く活動しています。

(取材・文/鈴木ゆう子、編集/小新井知子)