『古畑任三郎』
犯人が判明してから始まる、斬新さに惹かれた

田村正和さん 撮影/週刊女性

 主演の田村正和さんは惜しくも亡くなってしまったけれど、いつまでも名作に指定したい『古畑任三郎』(フジテレビ系列・1994年)。一話完結、毎回豪華なゲストが犯人となり、田村さん演じる刑事・古畑が解決まで犯人を追い詰めていく。脚本家の三谷幸喜さんが『刑事コロンボ』(1968年からアメリカ合衆国で放送された、人気刑事ドラマ)のオマージュとして書いたと言われている本作。オープニングから犯人がわかるという図式は斬新だった。

 それまでの刑事モノといえば、誰が犯人なのかを探るのが一般的。私のように年がら年中、ドラマを見ていると演者の番手を見て、だいたい犯人の予想がついていたので、劇的な面白みがなかった。そんなナラティブを一気に覆したのだから、やはり『古畑任三郎』は偉大。

 たくさんのゲストが出演していた。印象に残ったといえば、この作品の特徴でもあった、本人がほぼ本人を演じる回。まずはSMAP5人による『古畑任三郎 VS SMAP』(1999年 ※配信なし)。日本を代表するアイドルグループが殺人を犯すという設定、三谷さん以外に思いつく脚本家はいただろうか。マネジャー役の戸田恵子さんも、リアリティーがあってよかった。そしてあのイチローも『フェアな殺人者』(2006 ※配信なし)でほぼ本人として出演している。彼が俳優として地上波に登場したのは、後にも先にもこれっきり。貴重な瞬間を握っていた。

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『踊る大捜査線』
青島の愛煙アメスピを真似て、仕事に対する熱量を手本に

2003年公開『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』舞台挨拶 撮影/週刊女性

「……ねえ、日本人で観ていない人っている……?」と、言いたくなってしまう。1997年から連続ドラマとしてスタートした『踊る大捜査線』(フジテレビ系列)は、平成に放送された警察ドラマにイノベイティブを起こした。

 サラリーマンから警察官に転職をした青島俊作(織田裕二)が配属されたのは、湾岸署。恩田すみれ(深津絵里)、真下正義(ユースケ・サンタマリア)ら同僚、定年間近の和久平八郎(いかりや長介)の大先輩。そして上司にあたる官僚の室井慎次(柳葉敏郎)に囲まれて、事件を解決していく。

 それまでの警察ドラマといえば前述の“事件解決”がメインになる。ただ『踊る大捜査線』は警察組織内の階級による、キャリア組、現場組が存在するという実情も赤裸々に描いた。清廉で頼もしいイメージだったはずの警察にも、七面倒な人間関係が存在する。しかもそれらが、関係のない事件を左右することだってあると……。

 でも青島は被害者のために動いた。室井に向かって自分の事実を伝え、被害者のためなら上司にも逆らった。出世よりも彼が選んだのは熱量の高い正義だったのだ。その描写がどれを見ても面白かった。

 そんな熱量に視聴者も反応したのか、ドラマは映画化、スペシャルドラマ、日本では異例のスピンオフ企画と次々に記録を残した。繰り返すがイノベイティブだった。

青島刑事を演じた織田裕二 撮影/週刊女性

 私も青島にすっかり感化された。当時、会社員だった私も若く、下っ端ゆえに悔しいことも多かった。毎夜、同僚と苦虫を噛みつぶしたような表情で、上司の悪口を連呼していたものである。正面を切って逆らうことなんてできなかった。が、結果的な善悪は不明ではあるけれど、青島を見て、上司にも意見をはっきりと言えるようになった。そして自分の道を開拓し始めて、こんなコラムを書いている。もし、違うドラマに影響されたら、しとやかな人生を歩んでいたのだろうか……?

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(文/小林久乃)

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《PROFILE》
小林久乃(こばやし・ひさの)
エッセイ、コラム、企画、編集、ライター、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。自他ともに認める鋭く、常に斜め30度から見つめる観察力で、狙った獲物は逃がさず仕事につなげてきた。30代の怒涛の婚活模様を綴った『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)を上梓後、『45センチの距離感』(WAVE出版)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)と著作増量中。静岡県浜松市出身