作曲を担当した3人への思いは? 『I Love you,SAYONARA』は秋元康も絶賛

 そうした“反抗期”を経て、メンバーのセルフ・プロデュース期に突入するのだが、以下のランキング表でもわかるとおり、チェッカーズは鶴久のほか、藤井尚之、武内享、大土井裕二の4人が作曲を手がけている。鶴久は、それぞれのメンバーをどのような作曲家と見ていたのだろうか。

尚之くんには、とても影響を受けましたね。彼の曲はどれも渋い感じなんですよ。それがとてもいいので、自分なりに分析するんだけれど、自分が作るとどうしても明るくなっちゃう。だから、彼にはずっと憧れがありましたね。彼はサックスを担当しているから、レコーディングでアドリブのメロディーが出てくることもあったし、そういう感覚的な部分から優れたメロディーを作り出す環境にあった気がします。

 一度、レコーディングのときにジェイク・コンセプションさん(※'70年代からトップレベルのスタジオミュージシャンとして活躍したサックス・プレイヤー。'17年に逝去)が遊びに来られて、尚之くんにマウスピースをプレゼントしていたんですよ! よほど見込まれていたんじゃないかと思いますね。

 そして(武内)享くんは、アイデアが素晴らしいんですね。彼はビートルズの後期の曲が大好きなので、カップリング曲などでは、より遊び心満載のものが多いですよ

 さらに、セルフ・プロデュース期の中で最上位の「I Love You,SAYONARA」を作曲した大土井については、

裕ちゃんは、レゲエなど基本的には明るめの曲が多かったのですが、この『I Love you,SAYONARA』は、明るさと哀愁の感じのバランスが絶妙なんですよ! チェッカーズは、先にメロディーを作って、レコーディングでオケを作ってラララで歌った仮歌バージョンをフミヤさんに持っていくんです。それで、フミヤさんの歌詞がつくことではるかに仮歌を超えるものもあって、この『I Love you,SAYONARA』もそのうちの1曲。ちょうど発売したときに、秋元康さんが“『I Love you』と『SAYONARA』をくっつけるなんて天才だな、誰も考えつかないよ”、と絶賛しにいらっしゃいました。でも、これは売野さんが『〇〇の××』というタイトルの流れをチェッカーズに作ってくださったことも影響している気がしますね

メンバーの視線にドキッとする『I Love you,SAYONARA』のジャケット写真

鶴久が作曲した「Jim&Janeの伝説」「ミセス マーメイド」の制作秘話

 そう話す鶴久が作曲したヒット作は、TOP20内にも2作あるので、今回もその制作エピソードについて語ってもらおう。まずは、第15位の「Jim&Janeの伝説」について。

これは、(その前のシングルである)『ONE NIGHT GIGORO』と同じ時期に曲ができていたんですよ。(円高差益還元ライブで)ロンドンに行った後だったので、レコーディング方法も影響を受けて、ドラムセットの周りにトタン板を立てて音を響くようにするなどパワーアップしてみたところ、シングルに選ばれた曲ですね。だから、(この曲が収録された)アルバム『SCREW』から僕らの音も派手になっています。前年のアルバム『GO』くらいから、ライブを意識した曲作りになってきたんですね。でもそれを突き詰めると、売れる曲作りとはまた違う方向になってしまうので、そのバランスを取るのが難しかったです。

 具体的には、『Room』や『Cherie』などはライブで反応が薄かったから、ほとんどやっていないんですよ。ミディアムの曲はライブ向きじゃないんでしょうね。ライブでは、王道のバラードやみんなが踊れるアッパーな曲が主流で、その中間のテンポはちょっと箸休め的になっちゃうんですよ。でも、チェッカーズをなんとなく知ってくれている人たちには、『Room』が人気なんです

「Jim&Janeの伝説」の作曲活動にはイギリスでの経験が生かされている

 第16位の「ミセス マーメイド」は'91年のシングルで、紅白歌合戦での歌唱後に再度TOP100入りするほど大衆的に支持されたナンバーだ。

「『ミセス マーメイド』も有線で特に人気だったんですよね。インパクトは強くないかもしれないけれど、実際に歌ってみると気持ちのいい曲で、セクシーな作品ができたと思いました。これは、バブルガム・ブラザーズの『WON'T BE LONG』がカッコいいので、そういうブラックテイストの曲を作ろうと思ったら、Aメロがけっこう似てしまって(苦笑)。だけど発売前に(バブルガム・ブラザーズの)Bro.KORNさんのところに行き、“怒らないでくださいね”と言って聴いてもらったら“すごくカッコいいよ!”とOKをもらえました。

 当時、ZOOや中西圭三くんなどのテイストがヒットし始めましたから、そこをポピュラリティのあるわかりやすい曲にしたのが、『ミセス マーメイド』なんです。あの当時だからこそできた曲ですね。それと、もともとサビは1小節ごとにメロディーが変わる感じだったのを、尚之くんが“スケール感を出したほうがいい”と言ってくれて、その場で2小節ずつに変更したんですよ。そうやってメンバー間でやりとりしながら作りました