植物図鑑出版の資金はどこから……?
ところで16週では、植物学教室にもうひとつ動きがあった。藤丸の同級生・波多野(前原滉)が画工の野宮(亀田佳明)と手を組んだのだ。田邊からクビを宣告されかけた野宮が、波多野に顕微鏡の見方を教えてくれるように頼んだことがきっかけ。波多野が見る、野宮が描く。そう話がまとまった。2人は涙ぐみながら握手し、「いい日です。今まで寂しくて死にそうだったのに」と波多野が言えば、野宮も「俺もわりと死にそうな気分でしたよ」と返す。いいシーンだが、ひとつ疑問が。野宮はこれで食べていけるのだろうか?
福井で美術教師をしていて田邊に見込まれ、専属の画工になった野宮。田邊との関係が行き詰まりかけているのに、学生の波多野と組んで収入は途絶えないのだろうか? 田邊に父と子どもが東京にいると訴え、「それはおまえの事情だろう」と一刀両断にされていた。それとも田邊との仕事は続けて、同時に波多野と組むのだろうか? それって田邊が認めるかなあ?
このように『らんまん』ってば、「生計」を蔑ろにしている。そもそも万太郎と寿恵子の家計はどうなっているのかが、今ひとつはっきりしない。第15週で万太郎は大畑印刷所を訪ね、大畑夫妻(奥田瑛二、鶴田真由)に図譜出版を語った。版元はどこも、「自分で金を出すなら引き受ける」という反応だったと説明していた。つまり「自費出版」なのだ。完成した図譜を見て、長屋のえい(成海璃子)が「これなら、かのとケン坊にもよくわかるね」と言っていたが、子どもたちに人気が出るという予告だったのか? 学術書が?
第二集が出たし、第三集も動き出したということは、お金は回っているということだろう。だけど寿恵子は質屋に通い、臨月のお腹で内職も始めていた。どうやって出版業を維持しているのか、さっぱりわからない。ここがはっきりしないから、いくら大人度が上がっても、万太郎への信頼度が上がらない。『らんまん』にとって、すごく大きい問題だと思う。
《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。