フォーライフ・レコードを設立。フォーク歌手がテレビに出演しなかったわけとは
──今ではインディーと呼ばれる自主制作で音楽活動を行うのは珍しくなくなりましたが、泉谷さんがかかわっていたフォーライフ・レコード(※3)はその先駆けともいえるのではないでしょうか。
※3:フォークシンガーの小室等・吉田拓郎・井上陽水・泉谷しげるの4人が1975年に設立したレコード会社。
「俺は頼まれたから後乗りで入ったのだけれど、フォーライフは'75年に作った。それまでは歌手って、芸能界の中でも立場が低かったんだよ。特にフォークをやっている連中は、テレビ局にもジーパンのような普段着で来やがるし、挨拶はしねぇし、反抗するし。周りからしたら大っ嫌いな存在だったと思うよ(笑)。拓郎が芸能界の先輩からいじめられて“テレビには出ない”って言ったのが、逆に世間から“カッコいい”って思われたんだよね」
──当時のフォーク歌手がテレビに出演しなかったのには、そういう背景があったのですね。
「俺はエンタメが好きだからテレビ出たいなって思っていたけれどね(笑)。でもフォーライフが登場したことで、ミュージシャンに著作権を持とうという意識が根づいたし、歌手の地位が上がったのはよかったって思う。フォーライフとはケンカ別れしたんだけれど、それは無駄ではなかった」
──泉谷さんと同時期から活動されていた方は、ホールクラスでコンサートをされたりしています。泉谷さんはライブハウスを中心に活動されている理由はどうしてですか。
「拓郎は“小さいところではやりません”とはっきりと言っていた。これは目標が俺とは違うんです。人気と集客数と名誉がそろった場所に行きたいのか。とにかく音楽をやっていきたいのか。それは物事のとらえ方の違いだと思う」
──泉谷さんが、場所などにこだわらず歌い続けている姿勢がすごく伝わってきます。
「だってライブをやらなくなっていったら、どんどんテクニックも落ち込んでしまう。人気がなくなると、ステージングが悪くなったりするミュージシャンもいるでしょ。周りは“なんで?”って思うけど。誰だって最初は人気なんてなかったはずなんだよ。それなのに、名誉とか女にモテたいとか思うとおかしくなっていく。俺はさっきも言ったけれど、モテたいって思っていないからね。とにかくバケモノになりたい」
──ちなみに、ファン層は男女どちらが多いのですか。
「最近、女性も増えてきているけれど、みんな男前だよね。でもやっぱり女性は少ないな。9割男だね(笑)」
──ライブハウスの魅力って何だと思いますか?
「俺のファンってさ、俺がフェスに出ても観に来ないんだよ。高い金を払って、オーロラビジョンで観たくないんだって(笑)。ファンならさ、近くで観たいわけでしょ。だから俺のライブはライブハウスがちょうどいいんです」
──ライブ自体が好きなのですね。
「俺は武道館のステージに立った翌日に、ライブハウスに出るからね。もう猛獣のようなバケモノになれる場所を探しているだけなんです。日に日に年は取るし、とにかく傷口を舐めながらでも鍛えていこうっていう意思がないと、こんな活動は続けられない。俺のお客さんはうるさいから、あいつらをギャフンと言わせるのが俺の目標。ちゃんと自分を愛して、目標も持っていれば身体も作られる。俺からは“てめぇら怠けてるんじゃねぇぞ!”っていうメッセージを見せつけたいんです」
◇ ◇ ◇
前編では、泉谷さんのキャリアのスタートから、ライブにかける思いを語っていただきました。後編では、90年代から続けている募金活動や俳優業についてお聞きします。
【*後編→泉谷しげる「売名の何が悪い!」全国で続ける被災者支援への思いとは。“50代の迷いの時期”を超えた今の野望】
(取材・文/池守りぜね、編集/小新井知子)
《PROFILE》
泉谷しげる(いずみや・しげる)
1948年青森県生まれ。シンガーソングライター、俳優。'71年にライブアルバム『泉谷しげる登場』でフォークシンガーとしてデビュー。『春夏秋冬』『光と影』『'80のバラッド』『吠えるバラッド』など多くのアルバム、楽曲を発表。俳優としてドラマ『戦後最大の誘拐 吉展ちゃん事件』『金曜日の妻たちへ』『Dr.コトー診療所』、映画『Fukushima 50』『いのちの停車場』などに出演。著書の新刊『キャラは自分で作る どんな時代になっても生きるチカラを』(幻冬者)が発売中。
【ライブスケジュール】
8月26日(土)京都・磔磔「全力ライブスペシャル3時間!」※配信あり
9月9日(土)なにわブルースフェスティバル
9月10日(日)金沢・北國新聞赤羽ホール
「泉谷しげる全力ソロライブ90分」
9月15日(金)溝ノ口劇場
9月29日(金)所沢MOJO
10月15日(日)小田原quest
10月30日(月)石垣島すけあくろ
10月31日(火)宮古島GOOD LUCK!
11月1日(水)那覇桜坂劇場
*詳しくはホームページで