野田と里中も男社会のルールに忠実だった

 田邊から出禁を命じられ、万太郎は博物館に行った。野田(田辺誠一)と里中(いとうせいこう)に会い、仲介してほしいと頼んだ。そのことを田邊が把握していた、その事実が衝撃だった。

 野田と里中は即座に、「取りなさない」(&「雇わない」)という判断をした。つまり万太郎の境遇に変化はない。それなのに「槙野が来ましたよ」と田邊に報告したのだ。里中は万太郎に、「大学と博物館は協力関係にある」と言っていた。だから報告は当然。と、思えない。「ご注進、ご注進」と田邊に言う2人が見える。暗澹(あんたん)たる、とまでは言わないが、そこそこ暗い気持ちになった。

『らんまん』で植物学者を演じる田辺誠一(野田基善役)と、いとうせいこう(里中芳生役)

 田邊と寿恵子に話を戻す。「何をしようと無駄」という田邊に、寿恵子は「槙野に執心しているのはあなた様では」と反論した。それを聞いた田邊はエスカレート、「あなたも身の振り方を考えたほうがいい」と返す。「離婚のすすめ」だったから、聡子も「旦那さま、あんまりです」と抗議した。寿恵子は帰り際、田邊にこう言った。「殿方のことは、私とお聡さんには、一切かかわりありませんから」。

 そう、これだ。田邊の言葉から「殿方のこと」、今日的に言うなら「ボーイズクラブ」が見えたのだ。そこには暗黙のルールがあり、それさえ会得すれば居心地最高。だが「そのルール、おかしくないですか」と言おうものなら、即アウト。長く会社で働いていたから、そういう世界は身近だった。だから野田と里中の「槙野が来た」という報告を知り、暗い気持ちになった。田邊は「ボーイズクラブ」のキャプテンだから、もうどうでもよい。でも純正エリート路線にはいないように見える野田と里中も、ルールに忠実なメンバーだった。ボーイズクラブ、恐るべし。