離れても続いていた波多野と野宮の文通

 まず驚いたのが、野宮と波多野の文通だった。23週で波多野は農科大学の教授になり、野宮は大学を離れた。最後の植物学教室のシーン、これからどうするかと尋ねられた野宮は「さあ、どこかでまた、図画の教師に戻るつもりです」と言っていた。波多野が「手紙、書きます」と言い、野宮が「俺も手紙、書くよ」と答えていた。

 私は、たぶん野宮は手紙を書かないだろうと予測した。野宮は東大での過去をすっぱり捨てる。そう思ったからだ。田邊教授(要潤)が非職になったあとも植物学教室に残ったのは未練。野宮自身がそう説明していたこともあった。だが実際は、言葉を読んだというよりも、直感的な判断だった。東大を捨てないと新しい人生を始められない、と思った。

 ところが24週、波多野が万太郎に言った。「あ、野宮さんから手紙来たよ。今は滋賀の第一中学校で講師をしてるって」。野宮の大人の態度というより、2人の友情が続いているということだろう。想定していなかったから、いろんなことを考えた。

『らんまん』で植物学者の波多野泰久を演じる前原滉 撮影/佐藤靖彦

 横道にそれるが、BSプレミアムで『らんまん』を見ると、その直前に再放送中の『あまちゃん』もつい見ることになる。野宮と波多野の文通を知って、名曲『潮騒のメモリー』が聞こえてきた。「友達、すっくない、マーメイドー」。人魚と名乗る図々しさには目をつぶっていただいて、何が言いたいかというと、私は友達が少ないマーメイドなのだ。だから、余計にいろいろ響いたのだ。本当の友達って、どういうふうに生まれるのかな。そんなことを考えた。

 少し巻き戻すと、波多野はこの日、竹雄と綾(佐久間由衣)の屋台でそばを食べていた。今日は教授会でお昼も食べ損ねた。そうこぼしているところに、藤丸と万太郎がやってきた。藤丸が波多野の研究室に居候し、日本酒の研究を進めていることはナレーションが教えてくれている。藤丸が波多野に尋ねる。「今日の教授会、誰か俺のこと文句言ってる人、いた?」。波多野の返事はこうだった。「いない。っていうか、いても黙らせる」。藤丸が「波多野、ありがとう」と言ったところで、波多野が万太郎に野宮からの手紙の話をした。