寿恵子という友との出会いに喜んだ聡子
友とは、損得抜きの時間を共有してできるもの。野宮と波多野と藤丸を見て、そう思った。友達少ない人生からぼんやり思っていたのだが、ファイナルアンサーになった。損得抜きの時間とは、余計なことを考えず、お互いが正直でいられた時間。だから時空を超えて、友達でいられる。そんなふうに考えを進めることもできた。東大でマイナーな植物学を学ぶ同士。ともに顕微鏡の中を見ようとした同士。そうして過ごした時間があるから、友なのだ。立場の違いなどより、その時間が勝っている。そういう人と出会えた尊さを3人に見た。
聡子(中田青渚)を思い出したりもした。御茶ノ水の高等女学校を中退し、田邊に嫁いだ聡子が寿恵子と出会い、とても喜んでいた。その裏にあった寂しさに改めて気づいた。そして「女が家に入る」ことについても考えた。これも、野宮と波多野と藤丸のおかげだ。
24週の最後、藤丸と波多野の別れが描かれた。竹雄と綾が沼津の酒蔵を買い、藤丸もそこに行くことになった。波多野は餞別(せんべつ)なのだろう、藤丸に手ぬぐいを渡していた。
「もしかして、作ってくれたの?」と藤丸。波多野がうなずくと、「下手だなー」と言った。語学の天才なのに、教授さまなのに、「下手だなー」ともう一度言った。藤丸の好きな、ウサギの絵がアップになった。無邪気そうで、品よく、とても可愛いウサギだった。
《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など