いつもの電車に乗っていたら、突如見知らぬ世界に飛ばされ、赤の他人とサバイバル生活を送ることになる。そんな“if”=もしもの世界を描いたドラマ『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(TBS系)の展開から目が離せません。
本作には山田裕貴さんが演じる主人公・萱島、赤楚衛二さんが演じる消防士の白浜、上白石萌歌さんが演じる体育教師のヒロイン・紗枝などさまざまな役柄が登場しますが、本稿ではまず、ヒロイン紗枝の立場になって、「もしも電波が通じないうえに水も食料もない極限下を生き抜くとしたら、どんな人が一緒だと心強いか」を想像してみました。
日を追うごとに絆を深めていく5号車のメンバー
まず大前提として、「自分だけ助かればいい」と横暴に振る舞うのではなく、他人と手を取り合える協調性を持ち合わせた人。冷静な判断力や災害時に役立つサバイバル術、科学や医療の知識、みんなが不安になったときに心を和らげてくれるエンタメ性を持った人なんかもメンバーにいてくれたら安心です。
だけど、紗枝が車両ごと一緒に飛ばされたメンバーは当初、不安要素を持った人ばかりでした。急にワケのわからない状況に巻き込まれたのだから無理もないのですが、車内はパニック状態。周りの状況も把握できていないのに単独行動に走ったり、お互い冷静でいられず揉み合いになったり、他人のカバンから食料や水を盗もうとしたり……。正直なところ、もしこのメンバーと一緒だったら「詰んだな」と思ってしまいました。
それが今や懐かしいほど、紗枝が乗った5号車の絆は日に日に深まるばかり。回を追うごとに元いた世界で各々が抱えていた事情や想いも明らかになり、最初はトラブルメーカーに思えた人たちも少しずつ精神的な成長を遂げています。脚本家の金子ありささんはキャラクターの描き方に深みがあり、全員が愛おしく思えてきました。
あなたは萱島派? それとも、白浜派?
中でも、人気キャラ投票したら1,2を争うであろうメンバーが、山田裕貴さん演じる萱島と、赤楚衛二さん演じる白浜。どっち派か意見が真っぷたつに分かれるというよりは、ふたりとも魅力的で紗枝の立場になったら選べないという人が多い印象です。かくいう私も、一見冷めた萱島の壮絶な過去や、そこで培った胆力や頼もしさが見えてくると“萱島派”に、見事なリーダーシップを発揮する白浜の背負った重責や自分の弱さに対する不甲斐なさがにじみ出ると今度は“白浜派”に……と毎回心を揺らされています。
それくらい、山田さんと赤楚さんの名演により各々のキャラクターが際立っているといえるでしょう。ふたりの役に対する熱い思い入れや真摯(しんし)な姿勢が画面からひしひしと伝わってくるのです。
“負の印象”からのギャップで魅せる、山田裕貴さん
山田さんと赤楚さんといえば、どちらも東映の特撮出身。山田さんは2011年に『海賊戦隊ゴーカイジャー』(テレビ朝日系)で俳優デビューを果たし、ゴーカイブルーこと、ジョー・ギブケン役を演じました。山田さん自身はバラエティ番組出演時の様子やSNSへの投稿を見ればわかるとおり、かなりお茶目で親しみを感じさせる人。ギブケンはそんな山田さんとは真逆ともいえる無愛想でクールな役柄です。だけど、実は純粋な心を持っており、シャイで優しいギブケンは萱島さんと少しかぶるところも。
このギャップで“魅せる”というのが山田さんの真骨頂であり、最初は負の印象を抱く役であっても、見ているうちに惹(ひ)きつけられていくようなその人の魅力を引き出すのが抜群にうまい。昨年の朝ドラ『ちむどんどん』(NHK総合)で演じたヒロインの姉・良子(川口春奈さん)の夫となる博夫の役も、当初は自己主張できない情けなさも感じる役でしたが、半年にわたる放送の中で成長を遂げ、最後は彼の優しすぎる面が頼もしさに変わる瞬間を見せてくれました。山田さんにかかれば、どんな役でも噛めば噛むほど味が出てくる人になるんですよね。
100%の感情と瞳の演技で魅せる、赤楚衛二さん
一方、赤楚さんは『仮面ライダービルド』(テレビ朝日系)の仮面ライダークローズこと、万丈龍我役が俳優としての原点に。万丈はいわゆる熱血漢であり、感情が前面に出るタイプ。振り切ったおバカキャラもまた可愛く、ヒーローとしての成長を親心で見守りたくなるような万丈を赤楚さんは好演しました。相棒である物理学者でクールな仮面ライダービルドこと、桐生戦兎(犬飼貴丈)との絆で結ばれたやりとりも好評で、万丈は“ヒロイン”という声もあったんです!
その後、“チェリまほ”として愛された『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)の安達役でブレイクを果たした赤楚さん。安達は童貞のまま30歳を迎えたことで、触れた相手の心が読めてしまうように。そんなファンタジーな設定を物ともせず、赤楚さんは同僚の黒沢(町田啓太)から向けられる恋心に戸惑いつつ惹かれていく安達の純度100%の感情を見せてくれました。
赤楚さんはその眼差しがいつも印象深く、目の奥で向き合う相手への気持ちをまっすぐ伝えてくれます。昨年から今年にかけて放送された朝ドラ『舞いあがれ!』では、福原遥さん演じるヒロイン・舞の相手役を務め話題となりましたが、その際にも舞に対する愛情や優しさを台詞以上に伝える瞳の演技が印象的でした。白浜を演じているときも本人は「そんな立派じゃない」と自分を卑下しているけれど、みんなを救いたいという気持ちが赤楚さんの芝居で痛いほど伝わってくるから愛おしいんです。
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そんな両者の熱い芝居が同時に楽しめる『ペンディングトレイン』。物語も佳境に差しかかり、萱島、白浜、紗枝の感情も交錯しています。全員で元の世界に戻ることはできるのか、紗枝は萱島か白浜のどちらかと結ばれるのか、それともどちらとも結ばれないのか。最終回まで展開が見えない本作から目が離せません。
(文・苫とり子/編集・FM中西)