京都大学卒の知性派タレントとして、数多くのクイズ番組にも出演した俳優の辰巳琢郎さん(64)。インタビュー第1弾、第2弾では、演劇漬けの学生時代や、朝ドラ出演を機に全国デビューし、俳優業やバラエティ業にまい進した日々、リポーターとして全国各地を回った『くいしん坊!万才』(フジテレビ系)で学んだことを伺いました。ラストとなる第3弾では、『たけし・逸見の平成教育委員会』(1991年10月~1997年9月放送、フジテレビ系)でのエピソードや、子どもにイチオシのゲームについても語っていただきました。
(インタビュー第1弾→辰巳琢郎、京大現役合格のカギは「読書と数学」だった!? 3留するほどのめり込んだ『劇団そとばこまち』での日々 / 第2弾→辰巳琢郎、食生活は“1日1食で夜だけ爆食”、『食いしん坊!万才』のロケで学んだ「つないでいくこと」の大切さ)
『平成教育委員会』事前対策は一切なし! 最近のクイズ番組は“玄人化”している
──『たけし・逸見の平成教育委員会』(以下、平成教育委員会)では、社会や国語などの科目で全問正解していた記憶がありますが、事前対策などはしていたのですか?
「いえ、むしろ事前に対策をしてはいけないと思っていました。だって、クイズ番組のために勉強するっておかしいでしょ?(笑)。一応、番組を録画していましたが、そういえば見返したこともなかったですね 」
──確かに、本来は実力で勝負するべきかもしれません。
「最近では風潮が変わってきて、みんな事前に勉強し始めましたね。特に、お笑い芸人の方々は、ハングリーですし、集中力がすごい。もともと頭の回転が速いというか、賢い方も多いから、勉強するとどんどん学力が上がるわけですよ。カズレーザーさんも、最初にクイズ番組で共演したときは、中の上くらいの成績だったんです。でも、そこからどんどん勉強していって、今や新しいクイズ王ですからね。今も熱心に勉強会をやっているようで、本当に大したものです」
──『平成教育委員会』のころとは変わってきていますよね。辰巳さんから見て、『東大王』(TBS系。東大在学生からなる「東大王チーム」と「芸能人チーム」が競い合う、’17年に始まったクイズ番組)など最近の人気番組についてはどう思いますか?
「東大王チームは、クイズ研究会に入っている人がほとんどで、元東大王チームが率いる知識集団『QuizKnock』もクイズを専門にしている人たちだから、絶対的に強い。今のクイズ番組は、彼らのような玄人の“プロフェッショナルさを見せる”ことを重視している感じもしますし、当時とは違ってきていますよね。でも昔から、視聴者参加型のクイズ番組だと、一般人の“クイズヲタク”に芸能人はまず勝てませんでしたけれど。極めている方々はすごいですよね」
──では、どうやったらクイズに強くなれるのでしょうか……?
「クイズも受験勉強と同じで、やっぱり勉強したら強くなれると思いますよ。漢字検定とかも、パターンを覚えながら知識を増やしていったら点数が取れるでしょ。あとは、それにプラスして反射神経を鍛えるとかね。最近は、問題が読み上げられている途中で回答ボタンを押していい形式も増えています。“これは何を聞いている問題か”と判断できるスピードも含めて、運動神経や反射神経、それに推理力も必要になってきていますよね」
──番組を見ていると、問題文を聞き終わらないうちに回答ボタンが押されてモヤモヤすることもあります(笑)。
「スタジオで実際に撮っているときは、放送されるタイミングより、もっと早く押しています。神業というか、まるでサーカスですよね(笑)。あまりにも速いと視聴者がついていけないから、それを編集して、問題文があと1、2行だけ残った状態で押しているように見せていることもあるんですよ」
印象的な出演者は?ビートたけしには「わりと苦手な問題をぶつけられた(笑)」
──辰巳さんの正答率はかなり高く、いつもすごいなと思って見ていたのですが、ご自身が一目置いていた人はいましたか?
「純粋に知識量で圧倒されるというより、僕がすごいなと思ったのは、ボケの答えが面白い人! 特に、渡嘉敷さん(渡嘉敷勝男・元プロボクサー)とか。考えてうまくボケるときと、マジでボケているときとのバランスが絶妙だったんですよね。天性の才能ですよ。『平成教育委員会』はその絶妙なボケがテレビ越しでも映えるよう、きちんと演出してくれていたのもすごいなと思います」
──番組内では、ラサール石井さんや田中康夫さんが辰巳さんのライバルのように感じましたが、ご自身では意識されていましたか?
「僕の場合、ある程度は正解しなければ、というプレッシャーはありましたが、周りは特に気にならなかったです。田中さんと僕は隔週での出演だったけれど、確かに、だいたいこの3人が年間の優秀な成績トップ3をいただいていましたね」
──特にラサール石井さんは、番組内で辰巳さんを気にしているように見えましたが……。
「彼は、そういうキャラみたいなところがありましたからね。でもそれで言うと、田中康夫さんのほうが悔しがっていましたね。僕は番組が始まって半年ほどたってから加わったので、立ち位置が奪われるかもって思われたみたい(笑)」
──辰巳さんはこの番組で、悔しいと感じたことはありましたか?
「それぞれ得意分野もあるし、苦手科目も自分でわかっているから、一喜一憂はしませんでしたね。ただ、○○さんに負けて悔しい、というよりも、“どうしてこれを忘れてしまったのだろう”っていう自分に対する情けなさはありました」
──連続正解がかかっている問題でも、慌てている様子など伺えなかったですが、緊張はしなかったのですか?
「それがどういうシチュエーションだったのか覚えていないのですが、番組的には、もっと派手に喜怒哀楽を表したほうがよかったかもしれないですね(笑)。ただ、もっと言うと、生意気ながらも“この問題、どうして俺しかできないの? ”みたいな気持ちで変に冷静だったりもしたんですよ(笑)。特に、算数の問題がそうでした」
──周りが解けないほうが、不思議だったのですね!
「番組内の問題って、中学受験では必須の内容が中心だったから、“当然みんなできるだろう”って思っていました。でも、受験していない人もいますものね」
──優等生だった辰巳さんは、番組の司会をしていたビートたけしさんから何か言われたりしていましたか?
「特に何か言われたりはなかったですが、わりと苦手な問題をぶつけられたりはしましたよ(笑)。そういう演出は考えられていたみたいです。でも今のクイズ番組と比べると、のどかな現場でしたね」
──作り手や司会者の思いが詰まっているから、長く愛される番組になったのでしょうね。
「『平成教育委員会』は、クイズの解説がありました。たけしさんはバカなことを言いながらも、解説もできるし、番組の進行もうまくおこなってくれた。あの番組は、逸見さんとたけしさんのコンビだからできたんだと思いますね」
──最近は、クイズで正解するとかなり大げさなリアクションをする傾向がありますが。
「あれは、“もっと感情を出して! ”みたいな演出指導を受けているのかもしれないですよね。でも、正解しただけで、そんなにうれしいのかなって思っちゃうけど(笑)。ここ2〜3年、クイズ番組にはあまり出演していませんが、今みたいに早押し中心のクイズはもう厳しいかな。クイズって、問題をよく理解して、さらに答えを聞いて“なるほど……”って思えないといけない。それがじっくり味わえないと、つまらないですよね」
囲碁は計算力のほか、直観力が向上。教育で大事なのは「子どもを信用すること」
──ちなみに、辰巳さんにはお子さんが2人いますが、子どもにさせておくべき習慣などはありますか?
「今年、NHKの囲碁の正月特番に出演したんですが、そこで改めて、囲碁ってすばらしい競技だなと実感しました。絶対に子どもにもやらせたほうがいいと思いますね。礼儀が身につくし、世界観が広がり、計算力も磨かれる。何よりも、直観力が育つんです。基本的には陣取りゲームで、ただ交互に打っていくだけなのに、あれだけ深いゲームはないですよ」
──自分には子どもがいるので、さっそくやらせたくなりました。ちなみに、藤井聡太棋士の影響で将棋も話題となっていますが、将棋は教育にはどうでしょうか?
「将棋もいいと思いますよ。ただ、将棋は分析や論理を司る左脳寄りのゲームで、囲碁は直感的・感覚的な右脳をよく使うゲームなんだそうです。女性が強いのも、その辺りに原因があるのかもしれません。それと、将棋やチェスは相手の駒を取り合いますが、囲碁は陣取りゲームなんです。相手の大将の首をとれば勝つゲームと、陣地が少しでも広いほうが勝つゲームの違いですね。 “この陣地をあげるから、こちらをください”と対話をする。イメージを広げ、判断力を駆使して、領土を広げていく。戦国武将や歴代の政治家たちの中にも、囲碁好きは多かったようです。昨今は囲碁を打つ政治家が減ってきました。それが日本の衰退につながっているんじゃないかって言われています」
──では最後に、親は子どもの教育にどこまで熱心になればよいと思いますか?
「教育に関しては、ほとんど家にいなかったので偉そうなことは語れません。子どもからの質問に答えられるように自分を磨いておくことは、必要だとは思いますけれど。あと、子どもをとことん信用すること。自分に似ている嫌なところには目をつぶって、いい部分をほめて、伸ばしてあげることくらいでしょうか。
娘はオペラ歌手になり、息子は医学の道へ。2人とも親の押しつけではなく、最終的には自分で考えて将来を決めてくれたおかげで、大変なことも多いと思いますが、それでも楽しそうです」
ときには、ストレートに辛らつな意見も述べる辰巳さん。その慧眼には、フムフムと考えさせられました! 辰巳さんの姿を見ていると、自らが身につけた教養は一生ものだと感じました。
(取材・文/池守りぜね)
【PROFILE】
辰巳琢郎(たつみ・たくろう) ◎1958年、大阪市出身。大阪教育大学附属高校2年生のとき、つかこうへいの舞台に感銘を受け芝居を始める。京都大学文学部在学中は、関西では人気・実力ともにNo.1の『劇団そとばこまち』を主宰し、役者としてだけでなく、プロデューサー、演出家として’80年代前半の学生演劇ブームの立役者となる。卒業と同時にNHK朝の連続テレビ小説『ロマンス』で全国区デビュー。以来、知性・品格・遊び心と三拍子そろった俳優として、テレビ、映画、舞台、バラエティと多岐にわたって活躍している。’23年3月には舞台『鋼の錬金術師』に出演予定。
◎テレビ番組『辰巳琢郎の葡萄酒浪漫』BSテレ東にて毎週日曜23:00〜23:30
◎テレビ番組『辰巳琢郎の家物語 リモデル★きらり』BS朝日にて毎週土曜12:00〜12:30
◎舞台『鋼の錬金術師』
〈大阪〉2023.3/8〜3/12@新歌舞伎座、〈東京〉2023.3/17〜3/26@日本青年館ホール
辰巳琢郎はキング・ブラッドレイ役にて出演! 詳細は公式HPへ→https://stage-hagaren.jp/
☆辰巳琢郎公式HP→http://www.takusoffice.jp/
☆辰巳琢郎公式Facebook→https://www.facebook.com/tatsumitakuro.official