「決まったことに対して、走り抜けようっていう姿勢は似ているのかもしれません。やらないまま終わるよりは、やりきる。やりきった先に本当の答えが出ると思っているので。そんな考え方が、演じる役柄とも、どこか共通しているような気がしました」
12月7日より俳優座劇場で上演される、劇団TEAM-ODAC第40回本公演『舞台・破天荒フェニックス』。今年6月に上演された舞台が約半年という短いスパンでの再演が決定、どちらも主演を務めているのが、役者・伊﨑央登さん(38)だ。
伊﨑さんは2000年に開催された第13回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで審査員特別賞を受賞したことをきっかけに芸能界へ。4人組ボーイズグループ・FLAMEのメンバーとしてデビューするなどの経歴を持ち、近年は舞台を中心に役者として活躍している。
『舞台・破天荒フェニックス』の原作は、世界で450店舗を展開するメガネチェーン『OWNDAYS(オンデーズ)』の社長・田中修治氏が書き下ろしたビジネス小説『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』(’18年9月刊行)。電子ダウンロードを含み累計10万部を超えるヒット作品だ。
大阪府出身の伊﨑さん。とても和やかな表情と軽快な関西弁で、主演を務める思いや、最近変化した自分の心境などを、たっぷり語っていただいた。
まさかの主演抜擢!演技は“1.5倍増しがちょうどいい”
「演出家の笠原哲平さんとは、これまで何度もお仕事をご一緒してきたし、プライベートでも親交がありました。そんな笠原さんから、電話でいきなり“主演、どう?”と言われたのがこの作品。僕としては“え、マジで言ってる!?”って感じでした(笑)。これまであまり主演をやってこなかったので。
でも、ビジネス系や、過去を振り返って作り替えていく作業、モノづくりとかは昔からずっと好きで、この作品の“ゼロから立て直す”というストーリーに惹(ひ)かれたんです」
原作の主人公・田中修治さんは、30歳という若さでオンデーズの社長に就任。初っ端から多額の負債を抱えるなどさまざまな困難に襲われるも、破天荒なアイディアと戦略で窮地(きゅうち)を乗り切り、いかなるピンチが訪れても仲間と挑戦を続けた。そんな倒産寸前からの復活、成功へと導いていくさまが、本書では描かれている。
「ぶっちゃけると、これまでの人生であまり活字を読んでこなかったんですよ(笑)。でも、演じるにあたり『破天荒フェニックス』を読ませていただいて、率直に思ったのは“ひとりでは絶対にここまでやってこれなかったんやろうな”ってこと。僕自身も、周りの人たちの力や協力があってこそ、こうして舞台に立たせてもらえるし、作品が成り立つと思っているので」
6月の初演では、実際にOWNDAYS・田中社長が劇場へ訪れたという。その際のやりとりを、こう明かす。
「なんか、お互いちょっと照れくさいというか(笑)。田中社長としては自分のことを演じられているわけで、僕も目の前の人を演じているわけで。1回目はおしのびで、2回目はご家族や社員の方と一緒に、観劇に来てくださったみたいです。2回目のときに、ちょっとお話をさせてもらいました。
田中社長、『クローズ』(※1)が好きやったらしくて。僕が映画『クローズZERO』に出演していたことを社員の方に聞いて、“マジで!?”ってすごいテンション上がったって聞きました。『クローズ』出ててよかった!って思いましたね(笑)」
(※1)1990年〜1998年に『月刊少年チャンピオン』で連載された高橋ヒロシによるヤンキー系マンガ。伊﨑は映画『クローズZERO』(’07年)、続編『クローズZERO II』(’09年)に、極悪ツインズ2号・三上豪役で出演。
田中社長と一緒に観劇した社員の方たちからは、こんな言葉があったという。
「“昔の田中社長とそっくり”って言ってもらったんです。僕としては、演劇だからわりと誇張して演じていたつもりなんですよ。絶対ありえへんやろ、みたいなシチュエーションでも派手にやるじゃないですか。結構ハチャメチャにやってたから、怒られるんちゃうかなって思ってたんですけど(笑)。そう言ってもらえたから、“再演ではあと1.5倍くらい増しでやります!”って言ったら、“それがちょうどいいかもしれないですね(笑)”って。
劇中では、14億円の負債を抱えた会社を田中社長が買い取るシーンがあるんですけど、オンデーズの社員さんたちは“再生のスタート”や“反撃の狼煙(のろし)”という言葉を大切にされているんですよね。あとは“世界一”という言葉もよく出てきます。よく考えてみると、『クローズZERO』でも、“てっぺん”とかよく使ってたなと思ったりして(笑)」
兄・右典さんとの絆。誰よりも近い存在だからこそ、似てると思われたくない
主演を演じる『破天荒フェニックス』は、幾多(あまた)のピンチを乗り越えていく作品だが、伊﨑さん自身のピンチの乗り越え方を聞いてみた。
「ピンチになったら、仲間や家族に相談すると思います。僕は双子で兄の右典(ゆうすけ)という相方がいて。右典は兄弟というより、血のつながった親友みたいな感覚のほうが近いですね。同い年やし、経てきた人生もほぼ一緒。だから信頼感は誰よりもあります。変な話、たとえ僕が疑われるようなことがあっても、あいつは信じてくれるっていう。これからお互いにいろんな人生を歩んでいくと思うけど、絶対にお互い切り捨てることはないだろうって思える相手です。
最終的な勝負は、どっちが長生きできるかってことですね(笑)。僕より相方のほうは生きることへの執着がすごいんですよ。健康診断もちゃんと行きますし、めっちゃ気にしてる。僕は相方がOKやったら俺もOKやろ、みたいな(笑)」
右典さんのことを誰より近い存在だと話す伊﨑さんだが、ふと、意識する瞬間もあるそう。
「右典には(台本の)本読みを手伝ってもらったりすることもありますね。でも、右典と同じ感性でいたらキャラが被(かぶ)ってしまうんちゃうかなとも思うんです。生まれたときからずっと、右典の別角度を探している気がします。双子の仕事、双子の役やったらいいんですけど、別々の現場ってなったら、似てると思われたくない。双子って、いいところも、悪いところもあるんですよね」
こうなりたい、という目標は持たないという伊﨑さんは「仲のいい先輩や後輩、仲間たちとわちゃわちゃ楽しくしゃべりながら人生を終わらせたい」と話す。
「 “役者やってます”って言えるようになったのは最近です。昔は歌ったり踊ったりもしていたし、いろんな仕事をしていたので、自分で役者だという自信がなかったんです。でもそろそろ先輩たちから“いつまでも新人っぽさ出すな!”と言われ始めて(笑)。
もう、役者としては15年くらいたちましたね。胸張って“役者やらせてもらってます”って言えるように、もっと自信を持てるように、まだまだ頑張りたいと思います」
再演では、お笑い芸人の河本準一さん(次長課長)や、西尾季隆さん(X-GUN)など、新キャストも追加。「コメディパートが好きだから、楽しそうにやってるのを見ると混ざりたくなっちゃって……」と笑う伊﨑さんに、改めて座長(主役)としての意気込みを。
「今回の舞台は再演とはいえ、リニューアル再演。もはやシーズン2に近いです。半分以上が前回とは違う内容になっているので、今回が初めての方はもちろん、前回の公演を見てくださった方も楽しめる内容になっていると思います。初演から半年しかたっていないので、前回のセリフや動きがまだ残っていたり、頭の中がパニック状態になることもありますが、バージョンアップしていることは間違いないです! ぜひ劇場へ足を運んでいただけたらうれしいですね」
(取材・文/高橋もも子)
【PROFILE】
伊﨑央登(いざき・ひさと) ◎1984年5月生まれ、大阪府出身。2000年、第13回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで審査員特別賞を受賞し、翌年、グランプリの伊﨑右典らと4人でFLAMEを結成しデビュー。’04年に映画『デビルマン』で演技未経験ながら主演に抜擢され、『クローズZERO』(’07年公開)『クローズZERO II』(’09年公開)では極悪ツインズ2号・三上豪を演じる。’22年6月の『舞台・破天荒フェニックス~いつだって始まっている~』および、同年12月より再演される『舞台・破天荒フェニックス』において主演を務める。
劇団TEAM-ODAC 第40回本公演「舞台・破天荒フェニックス」
原作 : 田中修治「破天荒フェニックス オンデーズ再生物語」(幻冬舎)
脚本・演出 : 笠原哲平(TEAM-ODAC)
主演 : 伊﨑央登
◎公演日程
2022年12月7日(水)〜12月11日(日)
※公演詳細やチケット情報は公式サイトへ→https://teamodac.net/news/?p=4366