途方もない量の仕事を要求されて残業が長時間に及んだ。作成した資料に対して何度も何度も必要性を感じない修正指示を受けた。進めていた案件が理由もなく中止扱いになった。
仕事をしていると日々降りかかるムチャな出来事を理不尽と思うことが多くありますよね。
仕事だから仕方ない。会社だから仕方ない。
そんな理不尽が横行する現代社会。ストレスはたまる一方で我慢するにも限界がある。対抗するにはルールをぶっちぎって暴れるしかないのか!? ストライキを起こす? 労働組合に訴える?
どう対応するのが正解なのかわからない!!
大丈夫。それ、懐ゲーで経験してますよ。
今回ご紹介するタイトルは1988年にテクノスジャパンさんから発売されたファミコン用ソフト「熱血高校ドッジボール部」です。
小学生の“遊び”をアクションゲームに
当時ブームだったツッパリをテーマにした「熱血硬派くにおくん」シリーズの第2作にして、いきなり部活動を始めるというトンデモ設定の本作。ゲームの完成度は非常に高く、移植元であるアーケード版のおもしろさにファミコン版独自の要素が追加されたスポーツゲームの名作です。
シリーズ1作目の「熱血硬派くにおくん」の主人公、くにおくんが熱血高校のドッジボール部に入部し、仲間とともに世界一を目指すという設定だけ聞くと、健全極まりないスポーツゲームです。
街中で乱闘したり、バイクを乗り回していたくにおくんと同一人物なのかと疑うような設定ですが、ご安心ください。部活動であっても、くにおくんはくにおくん。熱血硬派を貫いています。
今でこそドッジボールは全国大会が開催されるメジャースポーツになりましたが、このゲームが登場した1988年には日本ドッジボール協会は設立されておらず、ドッジボールは小学生が休み時間に校庭で楽しむ“遊び”でしかありませんでした。
そんなドッジボールを、スポーツライクな駆け引きとアクションゲームらしい爽快感とを両立させて楽しめるようにしたのが、このタイトルの魅力です。
命がけのドッジボール
ゲームルールはいたってシンプル。ボールを投げてぶつけられるとアウト、キャッチすればセーフというルールです。
ただし、一点だけ実際のドッジボールと異なる点があります。アウトになるのは体力がゼロになったときで、アウトとなった選手は昇天して天使になるのです。
そう、くにおくんのドッジボールは命がけなのです。
放つシュートも「貫通シュート」や「ナッツシュート」という超強力な必殺シュートです。ヒットした選手はふっとばされ地球を一周してコートに戻ってきて昇天していきます。昇天した選手がコートに戻ることはありません……。
これこそが硬派のドッジボール。
くにおくんは相変わらずリーゼントだし、出てくる選手も高校生とは思えない強面(こわもて)ぞろい。
殺人シュートが乱れ飛び、負けたチームのコートには生存者がゼロになる。放課後の校庭ではルール無用の殺し合いがはじまり、リセットボタンを押すとゲームがプレイヤーに「なめんなよ!」と因縁をつけてくる。
どう考えても不良のケンカゲームではありますが、ドッジボールに関しては完全にルールに則っている。スポーツと硬派の両立ができることを証明したゲームなのです。
ルールを守って硬派を貫く
くにおくんのこの姿勢から、理不尽な現代社会を生き抜く処世術を学ぶことができるのです。
くにおくんは、ルールを守ったうえで硬派を貫いているのです。
途方もない量の仕事を要求されて残業になったら? 理不尽な残業をして残業手当をがっちり要求すればいいのです。
作成した資料に対して何度も何度も必要性を感じない修正指示を受けたら? 徹底的に修正して修正指示まで明記した資料を作ってたたきつければいいのです。
進めていた案件が理由もなく中止扱いになったら? 進めたときの承認メールと中止指示のときのメールを張りつけて関係者に共有してやればいいのです。
そう、仕事のルールを守って硬派を貫くことできっと活路は開けます。ルール破りはあなたに有利な状況を生んではくれません。ルール内であれば、思いっきり暴れても文句を言われる筋合いはないのです。
硬派を貫けば、回りは「この人はヤバイ、硬派なやつだぞ……」とビビりはじめます。仕事に取り組むからといって物腰を柔らかくする必要はないのです。ときには、くにおくんのように硬派を貫くことで解決することもあるのです。
もうわかりましたね。反撃の返信メールの1行目は「なめんなよ!」でいきましょう。
(文/野中大三)
《PROFILE》
ゲームとプロレスをこよなく愛するコラムニスト兼ドット絵師。電子玩具開発を経て、株式会社カプコンでテレビゲームのプロデューサーを務め、オリジナルタイトルや人気シリーズタイトルのプロデュースを手がける。現在も電子ゲームの開発に携わっている。35年にのぼるプロレス観戦歴とゲームプレイ歴の経験から日本最大のプロレス団体、新日本プロレスオフィシャルサイトでコラム「ゲーム的プロレス論」を連載中。プロレスラーをドットで表現する「dotswrestler」をTwitterで公開中。