昨今、SNS上での心ない言葉や激しい論争、センセーショナルな情報を目にする機会が増えているように感じる。相手の姿が見えないからこそ、むき出しの言葉をそのまま受け取ってしまいやすいのが、SNSの一面でもある。ネガティブな言葉や論争を見ることで傷ついたり、SNSを使うのが怖くなったという人もいるのではないだろうか。
しかし、SNSは悪いことばかりではない。普通に生活していたら出会えなかった人とつながることができ、調べるだけではたどり着けなかったかもしれない情報にアクセスできる。SNSは、うまく付き合うことができれば自分の世界や可能性を無限に広げてくれるツールだ。
SNSとは切っても切り離せないこの時代。私たちは改めて、SNSとどのように向き合えばよいのだろうか。今回、SNS総フォロワー数210万人超えのインフルエンサー、“ゆうこす”こと菅本裕子さん(以下、ゆうこすさん)にインタビューを実施。SNSの酸いも甘いも経験したゆうこすさんだからこそ語れる、SNSとの付き合い方の極意についてお話を伺った。
SNSを使ううえで大切にすべきこととは?
──ゆうこすさん、今日はお時間をいただきありがとうございます!
「こちらこそ、ありがとうございます! よろしくお願いします」
──早速ですが、昨今センセーショナルなニュースや炎上、誹謗中傷などが目に触れやすい中で、「SNSとうまく付き合う方法」についてお話を伺いたいと考えています。
「SNSと上手に付き合うのって、難しいですよね。私もたくさん失敗したからこそ、今の活動があると思っています」
──ゆうこすさんもSNSで失敗した経験があるんですね!
「そうなんです。私はもともとHKT48に所属していたのですが、卒業した直後に、アンチから叩(たた)かれていた時期があったんです。それに対して、私はボクシングのように真正面からまじめに対応していました。“死ね”という言葉を投げかけられたら、泣きながら“なんでそんなこと言うの!”って反応して……。対処法は失敗しながら学んでいきましたが、ネガティブな言葉のやり合いに終始することが多かったんです。
それに、SNSでは“面白いほうが正しい”という空気になることがよくあるんですね。たとえその情報がデマだったとしても、多くの人が“こうであったほうが面白い”と思うストーリーが勝手に広まっていく。10代後半だった当時の私は、そんなSNSの特徴を分析できていませんでした」
──10代でSNSの負の側面を経験したのですね……。最近ではSNSをきっかけに何かを成しとげようとする人も多いと思いますが、アンチに叩かれた経験なども踏まえて、そういうときに大切にすべきことは何だと思いますか?
「SNSを使って目標を叶(かな)えたいと思うのであれば、“ニッチに、ポップに、キャッチーに”を徹底して、見ている人に共感してもらうことが大切だと思います。最近はSNSでバズるとか、多くの人に知ってもらうこと“だけ”に力を入れている人も多い気がするのですが、ただバズっただけでは瞬間風速のトレンドで終わってしまいます。
SNSを”夢を叶えるツール”として活用したいのなら、“この人のことを応援したい”と思ってもらうことが重要です。本当に好きなものや自分にしかできないことを、”自分フィルター”を通して発信していけるといいと思います。あと、人はストーリーに共感するものなので、自分をマンガの主人公だと思って、よいことも大変なことも含めた“ゆうこすのストーリー”を見せることは意識しているかもしれません。
そういう発信を続けていくと、SNSの中ですごく幸せな世界がつくれるんですよ。共感を通じてつながった多くのファンが応援してくださるので、私のSNSには“ゆうこすちゃん、頑張って! 応援してる!”といった温かい言葉があふれています。たとえSNSでアンチに何かを言われても、今はもう気にしません」
──なるほど。SNSでは「共感」が大切なのですね。
「そうですね。自分自身の考え方や生き方に共感してもらえると、とてもうれしいなと思います。そういう私の考えまで共感してくださったコアファンのおかげで、世界を大きく広げることができるんです」
「SNSがしんどい」と感じたら意識してほしいこと
──ゆうこすさんのようなSNSの使い方ができたら理想だなと思う一方で、SNSにあふれるネガティブな言葉によって、疲弊している人も増えている気がします。ゆうこすさんは「SNSがしんどい」と感じたら、どうすべきだと思いますか?
「すごくシンプルなんですけど、そういうときはSNSを使う時間を短くするといいと思います。私も情報収集のためにSNSをよくチェックしていますが、長時間は見ないようにしています。SNSって中毒性があるし、意識していないとすぐに時間が過ぎてしまうんですよね。だから、SNSでトレンドなどを見ておこうと思ったときは“5分しか見ない!”と決めて、さっと終えるようにしています。
SNSと私たちの生活は切っても切り離せない時代だからこそ、スマホをいったん置くことを意識するのが大事だと思います」
──SNSから物理的に距離を置くということですね。
「そうです。スマホって画面が小さいので、視野も狭くなっちゃう気がします。心が疲れているなと思ったら、スマホを横に置いて違うことをしてほしいですね」
──ほかにはどんな方法がありますか?
「何よりも健康な心で生きていくことが大事だと思うので、そのために依存先を増やすことも大切です。コロナ禍ということもあり、今は多くの人がスマホにばかり依存している状態だと思うんです。心のよりどころはたくさんあったほうがいいので、私でいえばサウナのような自分の趣味も大切にしてほしいなぁと思います。
あと、規則正しい生活も大事! 睡眠時間を確保する、お風呂に入る、おいしいものを食べる、日光を浴びる。私自身もそういう基本的なことを徹底的にやろうと意識しています。
特に休日ってゴロゴロしてしまいがちじゃないですか。でも、私は休日こそカレンダーに予定をたくさん入れているんですよ。起きる時間、サウナに行く時間、昼寝をする時間など、休む予定もきちんと組み込むようにしています。心がすさんでいるときこそ、しっかり活動して、しっかり休むことで自分を取り戻すことができると思います」
──ちなみに、アンチと戦ったことのあるゆうこすさんだからこそ聞いてみたいのですが、どうしてSNSの世界には誹謗中傷や論破を楽しむ人が出現するのでしょう?
「うーん、難しい質問ですね……。私自身があまり怒るタイプではなくて。あくまで想像のお話になるのですが、論破しようとしてくる方や芸能人などにネガティブな言葉をかける方は、実はその人なりの“正義”を実行しているだけなんじゃないかと思います。
自分はこれが正しいと思うから、教えてあげた。でも、相手からしたら、それはありがた迷惑だったという話なのかなと。正義と正義のぶつかり合いですよね。意外とシンプルな構図だからこそ、なかなか解決しないやっかいな問題になっているのではないでしょうか。
本来、自分の正義は人に押しつけるべきではないし、見せていないだけで、人にはそれぞれの悩みや葛藤という地獄があるもの。そういうことを、私たちは改めて意識する必要があるように思います」
うつ病を経て気がついた、SNSでの「ゆうこす」のあり方
──ゆうこすさんご自身は「SNSがしんどい」と感じたことは、なかったのでしょうか。
「YouTubeなどでも公表しているのですが、アンチをきっかけにうつ病になって、SNSから離れていたことがあります。私に対する攻撃だけであれば、無視したり、明るく対応したりすることができるのですが、そのときはアンチが私のファンを攻撃していたんです。私もさすがにそれは無視ができなくて……。
SNSって顔が見えないじゃないですか。だから、相手の表情や声の温度感から言葉のニュアンスを読み取ることができない。暴力的な言葉があると、それをそのまま自分の心で受け止めてしまいやすいんです。当時の私もまさにそんな状態でした」
──うつ病を経験して、SNSの世界に戻ることができたのはどうしてだったのでしょう?
「SNSをお休みして、心が元気になってきたときに、この経験を多くの方に伝えたいと思ったからです。うつ病になったときにどんな状態だったか、回復するまでにどんなことをしたのかなど、私の経験を発信することで、参考になったり、救われたりする方もいると思ったんです。そういう思考に自分で気づいたとき、根っからのインフルエンサーなんだなと感じましたね。当時はつらかったですが、今振り返れば今後の自分の糧になる経験をしたなと思います」
──今後の自分の糧とは?
「改めて、SNSとの向き合い方を身をもって学べました。やっぱり、SNSって人に言葉や想いを届けるツールだから、感情が過剰に動いているときに使うものではないなと思って。例えばトークショーなどで、壇上にいる芸能人やインフルエンサーがめちゃくちゃ泣いていたり、怒っていたりしたらおかしいですよね。人前に立つプロとして、ありえない態度です。
私自身もインフルエンサーとしてSNSで発信していくなら、スマホを置く時間や休憩時間を大切にして、感情をフラットな状態に戻すことは意識しないといけないと感じました。
あとは怒りをまき散らしながらSNSで絡んでくる人に対して、自分自身も怒りながら返事をすることは、あまりにも無意味だなと改めて思いました。キャッチーにポップに、あなたの意見に“agree(同意)はできないけど、understand(理解)はできるよ”という態度で自分の意見を伝えていくことが大切だと気づくことができました」
──ここまでSNSのマイナスな側面について深掘りして聞いてしまったのですが、SNSをやっていて良かったことはありますか?
「それはもちろん、共感してつながったファンの方のおかげで、夢を叶えることができたことだと思います。SNSって多くの方の前に立って発信するという意識を持つと、夢に一歩近づけるツールなんですよ。
私はアイドルを卒業して個人活動を始めてから、Twitter、Instagram、SHOWROOM、YouTube、TikTokの順でさまざまなSNSを使ってきたのですが、それぞれの発信を通じて共感してくださる方がいるからこそ、念願のカラーコンタクトのプロデュースやスキンケアブランド、コスメブランドの立ち上げをすることができました。私の考え方の部分から好きでいてくれて、応援してくださるファンとSNSを通じてつながれたからこそ、夢に挑戦できるのだと思います」
──最後に、ゆうこすさんの今後の夢について教えてください。
「ひとりのインフルエンサーとして、そしていち実業家として、ライブ配信の分野で新しいトレンドをつくっていきたいです。ライブ配信って簡単そうに見えて、ただ話すだけでお金がもらえるツールではないんです。イメージとしては、スナックのママに近い。自分の配信をひとつのお店のようにとらえて、場づくりまで徹底していく必要があります。
株式会社321というライブ配信に特化したマネジメント会社も立ち上げて運営しているので、321に所属するライバー(ライブ配信者)さんたちと一緒に、“ライバー”という職業をYouTuberのように多くの方が知っている職業へと変化させられたら嬉しいなと思います」
【PROFILE】
菅本裕子(ゆうこす)1994年、福岡県生まれ。
アイドルグループ・HKT48を卒業後、「モテクリエイター」として起業。現在は株式会社KOSの代表取締役として、インフルエンサー、モデル業、ライバー業、YouTuberとマルチに活動中。SNSの総フォロワー数は210万人を超えており、10代~20代の女性を中心に多大な影響力を持つ。
著書に『共感SNS 丸く尖る発信で仕事を創る』(幻冬舎)、『SNSで夢を叶える ニートだった私の人生を変えた発信力の育て方』(KADOKAWA)など。
(取材・文/市岡光子 編集/FM中西)