これまで数々のドラマや映画に出演し、強さやひたむきさを感じさせる演技をみせてきた女優の中村アンさん。そんな中村さんが出演する舞台『笑ってもいい家』が、7月1日から9日まで、東京・六本木の俳優座劇場で上演されます。本作は、旗揚げ以降ファンタジー作品にこだわってきた演劇集団「Z-Lion」が、世界観を変えて挑戦する現代劇の第二弾。
中村さんが演じるのは、ある出来事がきっかけで仕事を辞め、都会から少し離れた場所で同年代の若者達と共同生活を始めた吉澤朱音。稽古が始まった中村さんに、舞台挑戦への思いや、学生時代にやっていたチアリーディングから学んだことなどをお話していただきました!
舞台は自由度が高い
──今作が初めての舞台で初主演となりますが、今どんな手ごたえを感じていますか?
実はお稽古が始まったのが最近なので、まだ4回ぐらいしかしていないんですよ(※取材は6月中旬)。昨日もキャストみんなで全体的なストーリーや構成について、意見を言いながら二転三転したので、きっとここからまたいろいろ変わっていくんだろうなという感じです。
──これまで出演されてきた映像と舞台の違いを、今どんなところに感じていますか。
舞台は、役や作品のことを一人で考えるのではなく、みんなで一緒に作っていくのをすごく感じますね。あとは「こうじゃなきゃダメ」みたいなこともないので、本当に自由度が高いなと思います。
──最初の脚本や演出通りにはいかなくなりそうですね。
わりとギリギリまで「ああだこうだ」しながら作っていく、ということはお聞きしていたので「こういうことか!」って思いました。今まで出演してきた映像作品では、お話がわかったうえで演じることのほうが多かったので、お稽古を通して本番までに舞台を作り上げていく作業が新鮮です。ここからさらに頑張りたいなと思います。
──本作で中村さんが演じるのは、ある出来事をきっかけにカメラマンの仕事を辞めた吉澤朱音です。この役どころを伺って、また、脚本を読んでみてどんな女性と感じましたか?
あまり深いことはお話できないのですが、訳あって抱えているものがある女性で、それと向き合いながらも現実からは逃げられない。それでも周りの人たちに助けてもらいながら、前向きに生きている人です。少し重めに聞こえるかもしれないんですけど、そこまで深刻すぎず、テンポのいい明るい人だと思っています。
──作品紹介で「朱音たちは本当に笑ってもいいのか」という最後の一文が気になっています。どんなストーリー展開になっていくのか、ドキドキです!
ちょうど昨日、みんなで初めて本読みをしたのですが、終わった後「ポーン」って放心状態になっている人が多くて。「あ、そういうことだったんだ!」みたいな感じをキャスト全員が感じたんじゃないかな。きっと、みんな途中まで「こう来るんだろうな」って予想したり考えたりしていたと思うんです。だけど、中盤くらいからグッと話が転換して、キャスト一人一人が、いろいろと気になっていくんですよ。
舞台は劇場に行ったからこそもらえる刺激や感動がある
──いい意味での裏切り、といったところでしょうか。楽しみです! さて、中村さんは今作で初舞台ということで、共演者の方々から何かアドバイスはありましたか?
初めてだからといってこちらに気負いさせるようなことはなくて、みなさんフラットに接してくださっています。私は舞台のことは何もわからないですけど、稽古ではその時感じたことを大事にしようと思うので、皆さんとの距離も少しずつ縮めていけたらいいなと思います。
共同生活をしながら近すぎず遠すぎず、といった距離感のお話でもあるので、そこも大事に演じられたらと思います。千穐楽を無事に迎えられたら、美味しいお酒をみんなで飲みたいですね。
──舞台の魅力や面白さをどんなところに感じますか。
友人が出演している作品は、何度か観に行っています。舞台はお芝居を生で見られるので、もう普通のお客さんとして見ちゃいますね。それが友人の舞台だと、より刺激をもらうんです。劇場に足を運んだからこそ得られる感動は、とても楽しいなと思います。
──私も、舞台は演者さんの生きるエネルギーを直にもらうので、毎回見終わったあとは酔っぱらったような感覚になるんです。
それは面白いですね(笑)。でも、本当にそれだけのパワーがありますよね。舞台って映像とはまた違う発信の仕方をするんだなって思います。その加減がまだ私にはわからないけど、今作はリアリティのあるお話なので、これからの稽古でつかめたらいいなと思います。
「頑張った先の景色が見たい」
──ここからは舞台以外のこともお聞きしたいと思います。中村さんは高校から大学まで、チアリーディング部に所属されていらっしゃいましたが、今でも大切にされている「チア・スピリット」があれば教えてください。
当時の先生によく言われたのは「軸をぶらすな」ということでした。チアリーディングは人の上に人が乗るので、下の人がグラグラすると上にいる人が落ちてしまうし、それに引きずられると、全部がグダグダになってしまうんです。それは自分が芸能活動を志した時にも通じるものがあって、「自分がやると決めたからには、軸をぶらさずに進もう」と思いました。でも、その決意もいろいろなことで揺れ動くことがあるので、いかに自分をぶらさずにいられるかと戦うのが大変なこともありました。
──仕事が大変だったり忙しくなったりすると、自分の中の決意が揺らいだり、当時の気持ちを忘れそうになる時もありますよね。
チアリーディングも、あんなに練習が大変できつかったのに、辞めたいと思ったことはなかったです。仕事でも、過密なスケジュールでほとんどお休みがないような時でも、充実していて楽しいなと感じます。適度に休みがあれば、心と身体のバランスは保てる気がします。
──頑張れる原動力になっているものは何でしょう?
チアリーディングは、大体3か月練習をして大会の本番は2分半の演技なんですけど、頑張った先の景色を見るのが本当に楽しかったんですよ。ドラマも撮影期間は大体3か月、今回の舞台は1か月くらいしか準備期間はないですけど、そこを乗り越えて頑張った先の景色はきっとまた違うと思うし、それが見たいです。
──最初は不安もあったそうですが、そこを「エイ!」と一歩踏み出せたのは、どんな思いからだったのでしょうか。
普段は私も新しいことや難しいことに飛び込むときにすごく悩んだり、逃げそうになったりもします。当初は今回の舞台出演を躊躇していましたが、脚本・演出の粟島(瑞丸)さんとお会いし、思いの丈をお話しできたことで、不安な気持ちが薄らぎ、せっかくいただいたチャンスなので、「挑戦してみよう!」と思いました。
人生に1度しかない初舞台をこのタイミングでお声がけいただけたことはすごく光栄でした。舞台にはいつか出演したいと思っていたのですが、自分の心の準備がまだできていなかったので、「タイミングって急に来るんだな」ということを実感しました。でも「今この作品をやらなかったらきっと後悔する」と思い、思い切って飛び込んで、成長できたらいいなと思います。
◇ ◇ ◇
後編では、落ち込んだときの中村さんの心と身体の整え方についてや、実は〇〇女子だった?という「意外なイチメン」など、「フムフム」なことから「へ~!」と思うことまで、たくさんお話をお聞きします!
(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、撮影/樋口涼、ヘアメイク/渡嘉敷愛子、スタイリスト/小原優子)
【Profile】
●中村アン(なかむら・あん)
1987年9月17日生まれ、東京都出身。主な出演作は、ドラマ『グランメゾン東京』(19年)、『DCU』(22年)、『NICE FLIGHT!』(22年)や映画『名も無き世界のエンドロール』(21年)、『マスカレードナイト』(21年)など多くの話題作に出演し、22年の『DCU~手錠を持ったダイバー~』では第4回アジアコンテンツアワードの助演女優賞にノミネートされるなど、その演技力が日本国外からも評価されている。
【Information】
●演劇集団Z-Lion『笑ってもいい家』
脚本・演出:粟島瑞丸
出演:中村アン、中山麻聖、染谷俊之、森めぐみ(演劇集団キャラメルボックス)、中村哲人、斉藤誠人(ロビンフット)、下尾みう(AKB48)、飯塚理恵(劇団TEAM-ODAC)、久保田悠来、高橋光臣
公演日:2023年7月1日(土)から9日(日)まで
会場:六本木俳優座劇場