世界でも非常に少ない疾患といわれる肥厚性皮膚骨膜症(ひこうせいひふこつまくしょう)。すべての指先がふくらみ、太鼓のバチのような形状のため通称「バチ指」と呼ばれている。
名古屋市で美容師をしている吉田彰吾さんは、「バチ指」に関する知識や、自身の体験談をSNSで発信し、注目を集めている。TikTokのフォロワー数は13万人超えで、「コンプレックスを個性と思えばいい」という吉田さん。
子どものころは、自分の指が好きじゃなかったという。SNSで発信をするようになったきっかけ、バチ指と気づいた瞬間、コンプレックスに感じていた思春期を、どのように乗り越えてきたのか話を聞いてみた。
TikTokで100万回再生!「この指はなんだ」と多くのコメントが殺到
SNSで、バチ指について発信をしようと思ったきっかけは、何だったのだろうか。
「僕が店長になったばかりのころです。2021年の10月。美容院をもっと知ってもらうためにTiktokを使ってみようかなと、ヘアスタイルの投稿を始めました。2回ほど上げてみたんですけど反応がイマイチで、少しの間放置してたんですよね。
どうせならちょっと趣旨を変えて、自分の指について発信しようかなと思って。最初は“同じ指の人、どれぐらいいますか”って、指を動画に撮り投稿をしたんです」
“もし再生されたとしても、数百人くらいだろう”と思っていた吉田さん。ところが予想をはるかに超え、再生数は100万回を超えた。コメント欄には、「なんだこの指!」など、指に関するコメントが多く寄せられたとか。
「想像以上の反響に驚きました。こんなに知らない人がいるんだって。自分では当たり前の指だけど、それが当たり前じゃない人にとっては、こういう反応になるんだなと実感しました。
それなら、バチ指を周囲に伝えていく余地もあるし、何かできることがあると思ったので、とりあえず説明をしなきゃなと。バチ指という症状について説明したりとか、聞かれる質問に対して答えたりっていうのを、動画に上げていった感じですね」
TikTokで発信活動を始めると、「家族がバチ指です」というコメントが多く届くように。しかし、それは「マムシ指」と呼ばれるものではないかという。
「コメントで家族が同じ指だっていう人は、本当にものすごいたくさんいたんです。でもたぶんそれはマムシ指といって、 形状は似ているのですが、爪が短く、親指だけに症状が出るんですね。
“そのへんの誤解を解かないとな”と……。やっぱりきちんとした説明が必要でした。家族ではなく本人から“同じバチ指です”と連絡いただいたことも、2回ありましたね」
日常生活を行う中で、どのような不便があるのだろうか。
「細かい作業とか指先を使うことは、本当に苦手で、手こずります。例えば、本などのページをめくる作業とか、つまようじを1本取るとか、 1円玉を拾うとか。
マグカップの取っ手も指が入らない。ハサミも指を入れることができないし、具体的な例をあげると結構キリがないぐらいあります」
指の異変に気づいた思春期。デッサンをしていたら「あれ、ほかの子と違う?」
初めて自分が「ほかの人の指と違う」と気づいたのは、小学校高学年のころだったという。
「いちばん最初に違和感に感じたのが、小学校の図画工作の授業でした。自分の手のデッサンを描くっていう授業があって。自分の手を描くときに、なんか指の形が上手に書けなかったんです。当時絵を描くのが得意でもあったので、“今日は調子よく絵が描けない”って思ってたんですよね。
それが指のせいだとは思わなかったです。その出来事が最初の違和感で、確信に変わったのが、兄の診断結果でした」
中学1年生になり、兄が自分の指に異変を感じ、病院へ行くようになった。そこで「バチ指」という症状が発覚し、吉田さんも同じ症状を持っていることが発覚する。
「バチ指が発覚して、両親がめっちゃ心配していました。今までまったく気にしていなかったのに、自分より家族が心配することで、より不安になったというか。なんなら現在進行形で親は心配していますね(笑)」
家族の反応で、自分の指を今まで以上に気にするように。思春期にかけて指に対する意識はピークを迎えたのだとか。
「中学1、2年生のときに、クラスの女の子から“手がキレイな男の子はカッコいい”という会話が聞こえてきたんです。もちろん、僕に向けて言ってるわけではないんですけど、すごく気になってしまって。
キレイな手が、女子のカッコいいと思う評価基準につながるんだっていうのを知って、ショックでした。それから指を不意に隠したりするようになって、考えれば考えるほどイヤだった」
高校生で転機! とある男子の強烈なdisによって変わった運命
現在では「コンプレックスを個性に」と発信している吉田さん、この考えに至るようになったのには、とあるきっかけが……。
「高校1年生のとき、クラスに毒舌な男の子がいたんです。その子がぼくの指を“男性のアレみたいだ”と言ってきて(笑)。反射的にめっちゃ傷ついたんですよね。
でも彼には、まったく悪気がないので、それを言われて傷ついてる自分が嫌でした。もっとテンポよく返したかったというか。そこに対して、“ポジティブに反応できる人でありたい”って思えたのがきっかけですね」
男子のひと言がきっかけで、“コンプレックスを隠すんじゃなくて、あえてオープンにしたほうがいい”と、自分の指を前向きに捉えるように。
「いじられてもネタにして返したいと僕は思ったので、バチ指を個性として捉えようと思いました。そうしたら周囲の人たちとも、よい付き合いができるようになった気がします。気持ち的にも楽になって、自分としてはそこでスイッチが変わりましたね。
身体との付き合いって長いから、改善できるポイントなら、改善すればいいと思うんですよ。僕の場合は、身体を鍛えることにしました。
指の影響で手が大きく見えてしまうから、手が相対的に小さく見えるようにしたくて。やっぱりこの身体と誠心誠意向き合って生きたほうが、人生単位で見たときに、ストレスが少ないのかなと思いますね」
(取材・文/桃沢もちこ、編集/本間美帆)