いまのように芸能界にコンプライアンスの概念があまり……というか、ほとんどなかった(?)昭和時代。
芸能人、とくに銀幕の大スターともなれば、今ではとても考えられないような豪快な伝説を数多く残しています。
今回はそんな「昭和の銀幕スター」を代表するひとり、勝新太郎さんのエピソードから、私が大好きな話をふたつ紹介します。
◇ ◇ ◇
高橋英樹さんが聞いた、勝新太郎さんの「おごる理由」
時代劇『座頭市』シリーズなどで知られる、国民的な大スターだった勝新太郎さんは、とにかくお金の使い方が豪快でした。
毎日のように飲み歩いていましたが、同じ店に居合わせた人たちの食事代も支払うなんて、日常茶飯事。お店で食事をしている、ほぼ全員分の食事代を支払って帰ることがよくあったといいます。
俳優の高橋英樹さんがドラマの撮影の打ち上げで、スタッフたちを引き連れ、高級なお店で飲んでいたときのこと。
偶然、店内で勝新太郎さんと鉢合わせしました。
「今日はどうした?」と勝さん。
「あっ、打ち上げでスタッフと来ています」と高橋さん。
すると、勝さんは、ごく自然にこう言ったのです。
「そうなのか。じゃあ、今日の支払いは俺にツケておいてくれ」
簡単に「ツけておいてくれ」といっても、お店はそれなりの高級店で、高橋さんがこの日連れて来ていたスタッフは、全部で30人ほどです。
“一緒に飲みに来たわけでもないのに、いくらなんでも”と思った高橋さんが、「いや、それは……」と丁寧に辞退の言葉を伝えると……。
勝さんはニヤリとほほえんでこう言ったのだそうです。
「いいんだよ。会っちゃったんだから」
カッコいいです。ハッキリ言って、勝さんにとっては「おごる理由」なんてどうでもいいんですね。
相手が自分のスタッフかどうかも関係ない。
“いま、この場で、大スターである自分と一緒になったんだから、気持ちよくおごられてくれ……”と、そんな感じ。
ちなみに、当時そんなことばかりやっていた勝さんの外食費(というか飲み代)は、1年で1億円を軽く超えていたそうです。
一流料亭で、お店を驚かせた“ドッキリ”
あるときは、一流の料亭でイタズラをしたこともありました。
それは、かつて勝さんが役者養成セミナー『勝アカデミー』を主宰していたときのお話。所属していた、タレントの小堺一機さんが、勝さんに連れられて行った高級料亭で目撃した話です。
勝さんは、運ばれてきた最高級の牛肉を口にした途端、それをペッと吐き出しました。
そして、いきなり、こう怒鳴ったのです。
「いつからこんなモノを出すようになったんだ! お前んとこは!」
怒鳴られた仲居さんが驚いたのなんの。
「申し訳ございません! 少々、お待ちを!」
そう言うと、逃げるようにその場を去ります。
仲居さんがいなくなると、勝さんは、周りで凍りついている小堺さんたちに向かって、ニヤリとしてこう言ったのだそうです。
「へへへっ、今の顔、見たか? 人間てのはなぁ、本当に驚いたときには、あんな顔をするんだ。よく覚えときな」
なんと、勝アカデミーの人たちに“人が驚いたときの顔”を見せるための、ドッキリだったのです。
仲居さんから報告を受けた板長が、慌てて調理場から飛んで来て、部屋の前で土下座をして、恐る恐る言います。
「何か、粗相がございましたでしょうか……」
すると勝さん、上機嫌で「いや~、いいんだいいんだ、ハハハッ」と高笑いしながら、板長に分厚いご祝儀を渡したのです。
いやはや、豪快というか、お茶目というか……。
生前の勝さんを知る多くの人たちは、「初めて会ったときから、あっという間に勝新太郎のとりこになってしまった」と語っています。
豪快なだけでなく、こんなイタズラ好きで茶目っ気たっぷりな部分もまた、人々をひきつける魅力だったのかもしれません。
(文/西沢泰生)