最近、駅前にあるビルの看板などで「キックボクシング」の文字を見かけたりしていませんか? 芸能界でも女優の広瀬すずさんや、『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)に出演しているフェフ姉さんなど、キックボクシングを習っているという女性が増えています。エクササイズ目的ではなく、グローブを着けて、ミットをたたくのは痛かったりしないのでしょうか。
90年代後半に起こったメロコアブームの中心にいたバンド、SNAIL RAMP(スネイルランプ)でベース兼ボーカルだった竹村哲さんは、30歳でキックボクシングを始め、43歳のときに第12代NKBウェルター級王座を獲得。現在は、キックボクシングジムを経営し、トレーナーとして活躍しています。
【竹村さんのインタビュー記事:30歳でキックボクシングを始め、43歳で王者に。『SNAIL RAMP』竹村哲のくじけない生き方】
今回は竹村さんに、キックボクシングの魅力や、最近の格闘技ブームについてお聞きしました。
女性選手の活躍で、女性会員も増加
──竹村さんが経営する、こちらのジム(TOKYO KICK WORKS)でも女性会員さんは増えてきていますか?
「自分がキックボクシングジムに入った20年前には、女性は少なかったです。全体の1割いないぐらいでした。それが徐々に増えてきた。目に見えて変わってきたなって感じたのは、この10年ぐらいですかね」
──何か具体的な要因は思い浮かびますか?
「シュートボクシングだとRENA選手(シュートボクサーで格闘家、現SB世界女子フライ級王者)や、キックボクシングだとぱんちゃん璃奈選手(キックボクシング選手、現KNOCK OUT-BLACK女子ミニマム級王者)のような、注目される女子選手が出てきてるのが大きいのかもしれないです。
でも女性の場合、ジムに入会する目的は、フィットネスやダイエットが一番多い。あと最初は、“筋トレができるフィットネスクラブに入会してみたけれど、なんだか退屈”っていう理由でキックボクシングのジムに来てみたっていうのもよく聞きますね。きっと最初のハードルは、フィットネスクラブのほうが低いんだろうなとは思います」
──実際にキックボクシングを始めた方の感想はどうですか?
「みなさん、キックボクシングを始めてみると“めちゃくちゃ楽しい!”みたいな感じで、ハマっていくんです。昔と比べると、キックボクシングのジムに入会希望の子どもも多いですね。うちでは増えすぎてしまったので、今は募集を停止しているくらい」
──キックボクシングは打ち合うので、危険なイメージがあったのですが、今は女性だけではなく、子どもの会員さんも多いのですね。
「子ども会員は、男女の割合が半々になるんです。女の子だと、キックボクシングはやりたいけど打ち合いたくはないっていう子もいるので、選手志向がある男の子とは目的が違ったりはしますけどね」
キックボクシングジムって、どんなことをするところ?
──よくキックボクシングや格闘技ジムの看板などに書いてある「フリー」という時間は、何をするのですか?
「慣れている人って、自分で準備体操をしてシャドー(ボクシング)をやってサンドバッグを打ち始めて、ウォーミングアップができたぐらいの時に、トレーナーが声をかけてミット練習をやり始める。それをフリーと呼んでいるのですが、初心者の方がそれをできるようになるには、みんなで習うクラスを2回くらい経験してからです。そして、ある程度レッスンの流れを理解したら、今度は準備体操は自分で行って、シャドーから一緒に入るとか、段階的に独り立ちできるようにしていきます」
──お聞きしていると、いきなりジムに入会する前に、体験レッスンを受けたほうがいいのでしょうか。
「体験レッスンは受けたほうが絶対いいと思います。なぜなら、入会申し込みの時だけ、いい対応をするジムもあるので。体験レッスンを受けている間は、周りの会員さんたちを見てどういうジムかっていうのはある程度つかめると思う。あとはトレーナーが、自分が質問したことに対して、ちゃんと納得いく答えを返してくれるかどうかも大切なんです」
──どういうふうに、自分に合うジムやトレーナーを見つければよいですか。
「例えば自分が聞いたことに対して、トレーナーが正当性のある答えを返していたとしても、それには人によって何通りもの言い方があるんですよ。なので、トレーナーに言われたことが自分でしっくり来るか来ないかってめちゃくちゃ大事。でもそれを見極めるって、難しいことではあるんですが。僕が今までいろんな指導者を見てきてわかったのは、選手時代にセンス抜群で、何でもできるタイプから指導者になった人の場合、技術的な教え方ってなかなか難しいんですよ」
──なるほど。説明が論理的ではないってことでしょうか。そういえば私が以前、ある有名な先生のもとでベリーダンスを習っていた時、「風を感じて!」って指導されて、初心者には具体的にどうしたいいかわかりにくくて、困ったことがあります(笑)。
「細かく考えなくても感覚的にできちゃう指導者の場合、本人は風を感じてやっているわけだから、あなたもできるよね、みたいな感じになっちゃうんですよね(笑)。逆に現役時代にセンスがなくて、努力でいろんなことを考えて、やってきたってタイプは常に頭で考えているので、そのタイプの指導者のほうが言語化が得意だったりすると思う。僕が一番最初に入ったジムでは、会長と2、3人くらいのトレーナーに教わっていたけれど、みんな言うことが違うんですね。これってキックボクシングあるあるかも(笑)」
──いろいろなトレーナーに教わって自分に合う、合わないを見極めるのも大事なのですね。
「それぞれが理論を持っているので、それぞれの教え方で指導する。でも教わるほうは戸惑いますよね。例えば、ヒヨコのひなは生まれて最初に見たものを親だと思うみたいに、初心者は最初のトレーナーに言われたことを信じるしかない。そのへんはもう運になっちゃうかもしれないですね」
──なるほど。上達するためにはやはり、運動神経が必要なのでしょうか。
「キックボクシングって運動神経だけじゃないんです。大人の場合は、理解力。やっぱり指導をしていると、“人間って、頭で考えて動いているんだな”ってめちゃくちゃ感じるんですよ。耳で聞いて、頭で理解して、それでどう身体を動かしていくかっていうところなんです」
──そういう意味では、大人になってから始めても楽しめそうですね。
「同じような説明をしても、動けるかどうかっていうのは人それぞれ。でも子どもは逆で、目から入る情報のほうが理解しやすいみたいなので、頭で理解させるよりも“これをこうやるんだよ”って見せたほうが早いですね」
音楽活動とキックボクシング、違いはどんなところ?
──竹村さんはバンド時代、誰かから楽器を教わったりはされましたか?
「スネイルを始める前は、パンクバンドとはいえ、ある程度は弾けなきゃいけないと思って、結構しっかり練習した時もあったんですよね。でも練習をしすぎて、腱鞘炎になっちゃったり……。だから途中からは“こんなもんかな”って思って、つらい練習はもうやめちゃったんですね」
──楽器が上達するのと、キックボクシングが上達する感覚は似ていますか?
「楽器を使う音楽って成長がわかりやすいけど、格闘技のほうが段階的ですね。だってバンドは結局、自分でやってくしかないから! 弾き方がよくわかんなくても、楽器を買ったらもう次の日から本番みたいな(笑)」
──楽器は出たとこ勝負な部分があったのですね。
「演奏は本番で積み重ねられて、だんだんレベルアップしてくる。格闘技はジムに入って誰かに教わるっていう環境なので、考え方が違いますよね。僕の場合だと、好きになっちゃうと、そればっかりやっちゃうタイプ。だから自分としては努力しているって感覚もない。肉体的なパフォーマンスはある程度若いほうがいいけれど、その反面、若い子のほうが諦めやすいって思いますね」
──確かに、竹村さんは30歳でキックボクシングを始められて、43歳でチャンピオンになられています。
「プロ選手でも、今は若い子のほうが長く続かない。年を取ってから始めた選手のほうが長く続きます。デビュー当時、後楽園ホールで“竹村哲31歳、本日がデビュー戦”ってアナウンスされると、会場がざわついたりしていたけれど(笑)。31歳って、今のキックボクシング界ではそこまで遅くはない。NKB(日本キックボクシング連盟)でも、50歳でデビューした人もいましたね。負けちゃったけど」
YouTuberの影響で、再び格闘技ブームが到来
──最近では、6月19日に東京ドームで『THE MATCH 2022』(那須川天心vs武尊をメインマッチとした格闘技イベント)が開催されて話題となりましたが、ジムにも影響はありましたか?
「『THE MATCH』のような、格闘技のビッグイベントがあった翌日は、ジムの来館者が多い(笑)。みんな “よっしゃやるぞ”って気分が上がっているんだよね(笑)」
──やはり、テレビなどの影響でみんなやる気になるのですね!
「あとはYouTubeの影響もめちゃくちゃ大きいなと思っていますね。今では完全に1つの媒体として認知されていて、受け取る側がそこに興味を示している。例えば格闘家でYouTuberの朝倉未来さんにしても、YouTuberを入り口として、格闘技の試合にみんな興味を持つ。そこから格闘技にハマるって人もいます」
──格闘技のどういう部分が、人を引きつけると思いますか?
「殴り合ったり、蹴り合うって原始的だし、判定がわかりやすいので興味を持ちやすい。MMA(総合格闘技)は、そこに組み技が入ってくるので、めちゃくちゃテクニカル。僕は総合はやったことがないので偉そうには言えないんですけど(笑)。でも非常に難しいっていうのは見ているだけでも感じる。そういう意味ではキックボクシングは非常にわかりやすい競技だと思いますね」
いいジムかどうかを見極める方法
──格闘技やキックボクシングに女性が興味を持つようになってきていますが、女性も戦ったりすることに向いていますか?
「僕は男性よりも、女性のほうがキックボクシングに向いているなって思うんです。例えば、ケガのしやすさでいえば、男性のほうがしやすい。なぜなら男って人の見ていないところでシャドーボクシングした経験がね、必ずあるんですよ(笑)」
──はい。ドラマや映画などで男性の登場人物がシャドーするシーンも多いですしね。
「男性は自己流のフォームが身についていて、殴る力はあるんだけれど、関節が殴られるショックに慣れてない。最初はそこまで身体ができていないので痛めちゃうんですよね。でも女性は基本的に、男性みたいに殴る動作っていうのをしたことがないから、フォームを教えるとめっちゃキレイにできるんですよ! 」
──そうなのですね!
「レクチャーすると、教えたとおりにやってくれる。女性はめちゃくちゃ伸びがいいストレートを打ったりできる」
──でも女性のほうが、普段から運動が苦手というタイプも多い気がしますが……。
「運動が苦手っていう人も、もちろん多いんです。でもそれが普通なんですよ。うちのジムに来る方も、9割ぐらいが未経験で入ってきます。
そういえば、いいジムかどうかを見極めるいい方法があるんです。例えば、“キックボクシングは身体をひねる動作が多いから、ウエストのシェイプアップに最適です”、みたいなことを言っているジムはあまりおすすめできないですね……。もちろん大きな意味で捉えれば合っているんですけど、ウエストを動かしたからといって絶対にウエストが細くなるわけではないんですよ。単純に運動量や消費カロリーが増えた結果、身体のどこかのぜい肉や脂肪が落ちる。でもどこの部分が落ちるかは人それぞれなんです」
──あからさまにダイエット目的をうたっているジムは、気をつけたほうがいいのですね。
「あと練習メニューですが、うちのジムでは常に会員さんの様子を見てるので、“ちょっとやりすぎてるな”とか“頑張りすぎてるな”って時は、“上がりましょう”って声をかけます。ジムの利用方法も、ストレッチだけして帰る方もいる。がっちりキックボクシングをやりに来ていますって人でも、1時間くらい。アマチュア選手とかになると2時間練習っていうのもありますけどね」
──思ったより短い練習時間でいいのですね。
「ジムに通っている人の悩みでよく聞くのが、“今からジムに行っても30分しか時間がないからなあ……”と言って、行くのをやめちゃうんですよ。でも30分あるんだったら行ったほうがいいんです。2回行けば1時間だし、3回行けば1時間半になるんです。それがね、1か月、2か月たってくると、めちゃめちゃ差が開くんですよ」
竹村さんのお話を聞いていると、実際にキックボクシングをやってみたくなりませんか? 後編では、fumufumuニュースの編集部員とライターが体験してみました!
(取材・文/池守りぜね 取材協力/TOKYO KICK WORKS)
《PROFILE》
竹村哲(タケムラ アキラ)
1971年東京都生まれ。1995年にスカパンクバンド『SNAIL RAMP』を結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行った。2021年にキックボクシングジム「TOKYO KICK WORKS」をオープン。