最近、平成ドラマが激アツらしい。というのも、コロナ禍に地上波で放送された過去作品(『愛していると言ってくれ』TBS系列・1995年、『やまとなでしこ』フジテレビ系列・2000年など)が、若者にとっては新鮮で「内容がハードで韓国ドラマみたい!」と人気を博しているそう。
動画配信サービスでも『池袋ウエストゲートパーク』(Netflix)など、昭和生まれの平成育ちがむさぼるように観た作品が、次々にラインナップしている。観ているだけで気持ちは当時の年齢にタイムスリップ。あのころの気持ちが蘇ってくるというわけだ。
そんな時代背景にガッツリと乗っかるべく、平成ドラマを紹介していこうと思う。セレクションは私、小林久乃。ドラマオタク歴は30年以上、コラムニストとしてエンタメコラムを書き続けて10年以上。近著として『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)も出させてもらった。そんな筋金入りのドラマ好きが選ぶ作品とあれば、図々しくも自分で太鼓判を押させてもらおう。
まずは動画配信サービスで観られる、平成前期の3作品をどうぞ。
(※配信データは2023年7月22日現在)
『高校教師』 レイプ、近親相姦、自殺……今見たらホラー作品!?
《♪春のこもれ陽の中で……》
タイトルを見て、森田童子による主題歌が流れてこないだろうか。1993年にTBS系列で放送された『高校教師』は、今では放送が憚(はばか)られるほど、問題のオンパレードだった。ちなみにここから綴るのは、映画版、2003年度放送版(藤木直人、上戸彩主演)ではない。主演、真田広之と桜井幸子による連続ドラマだ。
羽村隆夫(真田)は大学教授の助手から、高校教師となったばかり。教授の娘との婚約も破談となり、腐った日々を送っていたところに飛び込んできたのが、生徒の二宮繭(桜井幸子)だった。「あたしが全部守ってあげるよ。守ってあげる!」と、天真爛漫な笑顔で、羽村の心を救っていく繭。教師と生徒という関係が禁忌であることは承知していながら、縮まっていくふたりの距離感。
あらすじだけを読めば、切なさと甘酸っぱさが交差するようだが、実はドロドロの物語。近親相姦、教師による生徒への性的暴行、自殺……と若者世代にとってはホラー作品とも言われそうな『高校教師』。そしてリアルタイムで観ていた世代は、苛烈な様子が地上波で流れていたことを思い出してほしい。そう、この世界観は残念ながら、終焉を迎えたのだ。
paravi、Huluにて配信中。
『古畑任三郎』 犯人が判明してから始まる、斬新さに惹かれた
主演の田村正和さんは惜しくも亡くなってしまったけれど、いつまでも名作に指定したい『古畑任三郎』(フジテレビ系列・1994年)。一話完結、毎回豪華なゲストが犯人となり、田村さん演じる刑事・古畑が解決まで犯人を追い詰めていく。脚本家の三谷幸喜さんが『刑事コロンボ』(1968年からアメリカ合衆国で放送された、人気刑事ドラマ)のオマージュとして書いたと言われている本作。オープニングから犯人がわかるという図式は斬新だった。
それまでの刑事モノといえば、誰が犯人なのかを探るのが一般的。私のように年がら年中、ドラマを見ていると演者の番手を見て、だいたい犯人の予想がついていたので、劇的な面白みがなかった。そんなナラティブを一気に覆したのだから、やはり『古畑任三郎』は偉大。
たくさんのゲストが出演していた。印象に残ったといえば、この作品の特徴でもあった、本人がほぼ本人を演じる回。まずはSMAP5人による『古畑任三郎 VS SMAP』(1999年 ※配信なし)。日本を代表するアイドルグループが殺人を犯すという設定、三谷さん以外に思いつく脚本家はいただろうか。マネジャー役の戸田恵子さんも、リアリティーがあってよかった。そしてあのイチローも『フェアな殺人者』(2006 ※配信なし)でほぼ本人として出演している。彼が俳優として地上波に登場したのは、後にも先にもこれっきり。貴重な瞬間を握っていた。
FODにて配信中。
『踊る大捜査線』 青島の愛煙アメスピを真似て、仕事に対する熱量を手本に
「……ねえ、日本人で観ていない人っている……?」と、言いたくなってしまう。1997年から連続ドラマとしてスタートした『踊る大捜査線』(フジテレビ系列)は、平成に放送された警察ドラマにイノベイティブを起こした。
サラリーマンから警察官に転職をした青島俊作(織田裕二)が配属されたのは、湾岸署。恩田すみれ(深津絵里)、真下正義(ユースケ・サンタマリア)ら同僚、定年間近の和久平八郎(いかりや長介)の大先輩。そして上司にあたる官僚の室井慎次(柳葉敏郎)に囲まれて、事件を解決していく。
それまでの警察ドラマといえば前述の“事件解決”がメインになる。ただ『踊る大捜査線』は警察組織内の階級による、キャリア組、現場組が存在するという実情も赤裸々に描いた。清廉で頼もしいイメージだったはずの警察にも、七面倒な人間関係が存在する。しかもそれらが、関係のない事件を左右することだってあると……。
でも青島は被害者のために動いた。室井に向かって自分の事実を伝え、被害者のためなら上司にも逆らった。出世よりも彼が選んだのは熱量の高い正義だったのだ。その描写がどれを見ても面白かった。
そんな熱量に視聴者も反応したのか、ドラマは映画化、スペシャルドラマ、日本では異例のスピンオフ企画と次々に記録を残した。繰り返すがイノベイティブだった。
私も青島にすっかり感化された。当時、会社員だった私も若く、下っ端ゆえに悔しいことも多かった。毎夜、同僚と苦虫を噛みつぶしたような表情で、上司の悪口を連呼していたものである。正面を切って逆らうことなんてできなかった。が、結果的な善悪は不明ではあるけれど、青島を見て、上司にも意見をはっきりと言えるようになった。そして自分の道を開拓し始めて、こんなコラムを書いている。もし、違うドラマに影響されたら、しとやかな人生を歩んでいたのだろうか……?
FODにて配信中。
(文/小林久乃)
《PROFILE》
小林久乃(こばやし・ひさの)
エッセイ、コラム、企画、編集、ライター、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。自他ともに認める鋭く、常に斜め30度から見つめる観察力で、狙った獲物は逃がさず仕事につなげてきた。30代の怒涛の婚活模様を綴った『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)を上梓後、『45センチの距離感』(WAVE出版)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)と著作増量中。静岡県浜松市出身