2022年で俳優デビュー27年目を迎えた藤木直人さん。20代には、『ナースのお仕事』シリーズや『ラブ・レボリューション』などの人気ドラマに出演し大ブレイク。’99年にCDデビューし音楽活動もスタートさせると、アイドル的人気を博した。それから現在まで常に第一線で活躍し続け、その魅力は歳を重ねるごとにますます増している。
そんな藤木さんが12月15日から、2年ぶりの舞台となる奏劇vol.2『Trio~君の音が聴こえる』に出演している。作曲家・岩代太郎氏が企画した新感覚の朗読劇として注目の本作について意気込みなどを伺った。さらに50歳を迎えた心境、人生の分岐点、いま大切にしていることなど、プライベートについても語ってもらった。
岩代さんとの約束が実現して嬉しい
──奏劇vol.2『Trio~君の音が聴こえる』について、まず、どんな印象を持ちましたか?
「奏劇と聞いても、新しい言葉なので最初はまったくイメージできませんでしたけど。説明を伺って、音楽と演劇が融合している岩代(太郎)さんらしい、面白そうな企画だなと思いました」
──岩代太郎さんとは、どんな関係性でしょうか?
「僕がデビューしてすぐのころにドラマでご一緒して、飲みに誘っていただいたのが最初です。それから、たまにお食事に誘っていただいています。“いつか一緒に何かやれたらいいね”と言ってくださっていたので、ついにこうやって形になるのは嬉しいですね」
──脚本を読んだ感想は?
「まず、外国人の役なんだなって(笑)。扱っているテーマが社会問題で難しい部分もありますが、観てくださった方が自分自身に置き換えるというか、何か考えるきっかけになってくれたらいいなと思いました。主人公たち3人の、お互いの心の中にあるものがぶつかり合っていくところが、見どころになるのかなという印象ですね」
『キネマの神様』『レッド・クリフ』など数々の映画音楽を手がけてきた作曲家・岩代太郎が、演劇と音楽による新たな舞台芸術を目指し、2018年に初上演した「奏劇」シリーズ。言葉では伝えきれないことを、ミュージカルやオペラのように歌で表すのではなく、あくまで物語をベースに、演じるように奏で、奏でるように演じる新しいカタチの朗読劇の第二作。バンドネオン、チェロ、そしてピアノのトリオで奏でられる音色と俳優が紡ぐ言葉がひとつになる物語。
【STORY】
サム(三宅健)は幼いころから周囲とはどこか違っており、自分の気持ちを言葉で表すよりもピアノを弾いて音楽で語りかける少年。人の悲しみ、喜びや痛みも「音」で感じ取り、ピアノを通して音で表現する。同じ施設で育ったトム(藤木直人)、キム(大鶴佐助)とは3兄弟のように慈しみ合う関係だった。
大人に成長したサムは、心理カウンセラーになったトムの手伝いをしている。トムのカウンセリングとサムが奏でるピアノの音色で人々は心を開き、癒されていくのであった。
そんなある日、自殺者が急増しているというニュースが飛び込んでくる。その中には、サムとトムがカウンセリングを行った患者の名前もあった。心を痛める2人の前に、数年ぶりにキムが現れる。幼少期を懐かしむ3人だったが、キムが戻ってきた本当の目的は……。
自分の声には劣等感しかなくて
──本作で藤木さんが楽しみにしていることは?
「単なる朗読劇ではなくて、生演奏があるというのはすごくゴージャスだし、しかも岩代さんが信頼する演奏家の方を集めたとおっしゃっているので、僕自身もすごく楽しみにしています。また普通の朗読劇とは違って、動きだとか、視覚的に見せる要素もきっと多いと思うので、より楽しんでいただける作品になると思います」
──共演の三宅健さんの印象は?
「V6さんとはデビューが1995年で同じなんですよ。デビューして間もないころに、健くん主演のドラマにゲスト出演させてもらったことがあって。向こうは当然、キラキラしていて大活躍されていたので、そのときは一方的に“あ、三宅健くんだ!”って、見ていましたけどね(笑)。昨年、久しぶりにWOWOWのドラマ『黒鳥の湖』でご一緒して。淡々としていて、ちょっと思考が人と違うというか……独特の雰囲気を持っていらっしゃいますよね。何回目かの撮影のときに、急に“舞台『海辺のカフカ』よかったよ”って言われて。会ってすぐするような会話だけど、今なんだと(笑)。稽古場でもどんな発言が飛び出すのか楽しみです」
──過去に朗読劇に出演や、Amazonオーディブルで本の朗読、ナレーションなどもしていますが、声の表現の面白さについてはどう感じていますか?
「朗読劇は、リーディングドラマ『Re:(アール・イー)』(’12年)という作品しかやったことがないので、面白さを答えるのは難しいですけれど……。オーディブルは村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』3部作だったので、とてつもなく大変で修行のようでした(笑)。『Trio』のお話を先にいただいていたので、今年は朗読づいているなって思っています。ひとりの役だけの台詞を話す朗読劇とオーディブルの朗読とは違うものですけど、やっぱり声だけの情報で表現することは難しいですよね。ただ、今回は奏劇ということで、舞台で読んでいる姿に動きもついてくるだろうし。生演奏にも助けられながら、世界をつくっていくんだろうなと思っています」
──ご自分の声は好きですか?
「いや~、自分の声に対しては劣等感しかなくて。僕が子どものころは今みたいに簡単に動画が撮れて、自分の声を幼いころから客観視できているわけじゃないですから、カセットテープで録音した自分の声を聞いたときは驚きました。俳優デビューしてからは自分なりに努力してきたけれど、声も顔と一緒で、変えられない部分は変えられないじゃないですか。でも今は自分のちょっと特徴のある声は、それはそれでオリジナリティなのかなと思えるようになりました」
──藤木さんの声は、渋さと爽やかさがミックスされていると勝手に思っています(笑)。
「ハハハハ。でも難しいのは、それが言い訳になりやすいじゃないですか。自分の演技とかも、これが自分らしさだって言えたら楽にはなれるけど(笑)、そうじゃなくて、やっぱり求められることっていうか、表現しなきゃいけないこともあるような気もするし。お芝居って、本当に難しいですよね。
昔、広末涼子さんが何かのインタビューで、“演技も点数が出ればいいのに”って発言をされていて。すごいこと言うなって思ったんです(笑)。スポーツが潔いのって、例えば100メートル走だったらタイムが必ず出て、その結果に対して足りない部分や補わなきゃいけない部分がはっきりわかる。
リアルな数字を突きつけられるって、すごく過酷ですよね。それが演技にはないから、僕は今までやってこられたのかもしれないし。だけど、点数がないから曖昧(あいまい)だったりもするじゃないですか。“今のはどうだったんだろう?”って。その繰り返しですよね」
──採点されたいと思ったことはありますか?
「いや、思わないですよ。もしも陰で点数がつけられていたとしたら……いい点数なら教えてほしい(笑)。すごく低い点だったら見たくもないし(笑)。でも、見たほうが諦めがつくのかもしれない。“やっぱり俺には、俳優は向いていないんだな”って。そういうのがないから、まだしがみついているのかもしれないですね(笑)」
(取材・文/井ノ口裕子)
※インタビュー記事の後編はこちら→藤木直人がデビュー時からのスタッフと離れて得た、新しい視野と気づき「今はフラットな自分でいられる」
《PROFILE》
藤木直人(ふじき・なおひと) 1972年7月19日、千葉県出身。早稲田大学理工学部在学中に映画『花より男子』花沢類役に抜擢され、1995年デビュー。以降、フジテレビ系『ナースのお仕事シリーズ』、日本テレビ系『ホタルノヒカリ』シリーズなど数多くの話題作に出演。舞台では2008年に初舞台を踏み、その後出演した蜷川幸雄演出の『海辺のカフカ』ではワールドツアーを経験。蜷川氏の最後の演出作となる舞台『尺には尺を』では主演を務めた。1999年にシングル『世界の果て~the end of the world~』でCDデビュー。俳優活動と並行して音楽活動も精力的に行う。全国ツアーでのライブ本数は250本以上を数える。2022年7月には50歳記念のライブツアーを行い多くのファンが駆けつけた。そのライブを収録したDVD/Blu-ray『NAO-HIT TV Live Tour ver13.0~L-fifty-~』が12月21日発売予定。近年の出演作は、【ドラマ】『恋なんて、本気でやってどうするの?』(’22年)、連続テレビ小説『なつぞら』(’19年)、『グッド・ドクター』(’18年)【映画】『夏への扉-キミのいる未来へ-』(’21年)【舞台】『グッドバイ』(’20年)、『魔都や曲』(’17年)など。ラジオ『SPORTS BEAT supported by TOYOTA』(土曜10時~10時50分/TOKYO FMほか)メインパーソナリティ。
●公演情報
奏劇 vol.2 『Trio~君の音が聴こえる~』
【原案/作曲】岩代太郎
【脚本】土城温美
【演出】深作健太
【出演】三宅健 大鶴佐助 黒田アーサー サヘル・ローズ 藤木直人
【演奏】三浦一馬(バンドネオン) 西谷牧人(チェロ) 岩代太郎(ピアノ)
【日程・会場】2022年12月15日(木)~12月24日(土)よみうり大手町ホール(読売新聞社ビル)