先日、fumufumu news編集部にて「あなたが気になるエレベーターのマナーは?」というアンケートを行ったところ、以下のような質問が読者から寄せられた。
「閉ボタンを押しながら降りる人がいるけど、あれは必ずするべき?」
「エレベーター前で来るのを待っているときに並ぶ場所は、右? 左?」
「社長と一緒のエレベーターに乗ったら、他部署のおじさんに嫌味を言われた。乗り込むのはマナー違反だったのか?」
「エレベーターに乗るとき、最初に乗った人から奥に詰めるべき?」
“開ボタンを押しておく”くらいであれば、筆者も何となく心がけていることだが、寄せられた質問は“そういえばどうするべきなんだろう?”と気になることばかり。
そこで本稿では、『ビジネスマナーの解剖図鑑』(エクスナレッジ)を始め、これまでに計9冊ものマナー本を出版し、新卒研修やビジネスマナー講習について14年以上ものキャリアを持つ北條久美子さんに取材を実施。エレベーターをはじめとするマナーの大原則を基に、寄せられた質問に対し、北條さんなりの視点で回答していただいた。
マナーに型はあるものの、いちばん意識するべきは安全面
──まず初めにお聞きしたいのですが、エレベーターマナーの基本的な心得はありますか?
「一番は、“安全に乗り降りする”を念頭に行動することです。お客様を先に通したいという思いから、扉を手で押さえながら中に案内することもあるようですが、何よりも “開くボタンを押して扉を開けておく”ほうが、乗客全員が安全に乗り降りできます。
エレベーターが“乗り物”である以上、安全を心がけることが大事になるので、例えばビジネスの場面でお客様と一緒にエレベーターに乗るときは、“先に失礼します”と言って中に入り開くボタンを押し、出るときも開くボタンを押して最後に出るようにするべきでしょう」
──マナーよりまずは安全を考えるべきであると。
「そのとおりです。マナーと聞くと、必ず守らなければならない作法があって、それを破ってはいけないように感じるかもしれませんが、基本はその状況に応じて臨機応変に対応するべきです。
例えばお客様とタクシーに乗る場面だったら、お客様に先に乗ってもらうのが正しいような気がするかもしれません。ですが、その人がタイトスカートを履いていたり、足腰がよくない方であれば、車の奥まで詰めるのは大変ですし、手前に座っていた方がありがたい場合がある。そういう場合は声をかけ、お客様が安全に乗り降りできるような気遣いをする方が相手のためになります。必ずしも“絶対にこうするべき”というわけではないんです」
“「閉」ボタンを押しながら降りる”は、する必要がない
── “安全に乗り降りする”ことが大前提という点をお聞きしました。読者からの質問で「閉ボタンを押しながら降りる人がいるけど、あれは必ずしなきゃいけない?」という質問があったのですが、こちらはいかがでしょう?
「これはマナー違反というよりは、する必要がないという回答が正しいと思います。恐らく心理として“先に降りるので、乗客の時間を取らせないように”という配慮だと思い、それ自体はよい気遣いです。ただ先ほども話したとおり、エレベーターが乗り物である以上はマナー云々(うんぬん)よりもまず、安全さを優先する必要があります。
エレベーターによっては、センサー式で自動で開閉したり、閉まるボタンを押したら扉が動いたりとさまざまで、古いエレベーターだと閉まるスピードがものすごく速い場合もありますよね? それが思わぬ事故につながる可能性もありますし“降りるときは閉ボタンを押しながら降りたほうがいいんだ!”と、小さい子どもがマネしてしまうと、降りるときに間に合わず、扉にぶつかって大ケガをしてしまうことだってありえます」
──確かに、大人であれば腕に扉がぶつかるくらいですが、子どもだと扉に巻き込まれる可能性もありますね。
「そうなんです。勢いがあるエレベーターもあるので、降りるときは速やかに降り、基本的に閉まるボタンは乗っている人が押す。どうしても降りるときに気になるのであれば、軽く会釈だけしておく。繰り返しになりますが、安全さを重視した行動をとるべきです」
エレベーターは奥に詰めるべき? 待つときの立ち位置は、右? 左?
──次に、「エレベーターに乗るとき、最初に乗った人から奥に詰めるべき?」という質問がありましたがどうでしょう?
「詰めるべきとまではいきませんが、そういう心遣いはあったほうがいいです。電車でも同じですが、扉の前にずっと立たれると、乗る人も降りる人も不便ですよね。ただ、1階で乗ってすぐ2階で降りるという場合、あまり奥に詰めすぎてしまうと何回も乗客を動かすことになります。その場合は、操作パネルの近くや前方の場所で待機し、降りるとき邪魔にならないようにしましょう」
──自分の場合、新人のときのクセでどんなときも操作パネル側に行こうとしがちです(笑)。
「すごくわかりますよ(笑)。操作ボタンに誰も人がいない場合もあるのでそのほうが親切だと思います。原理原則はありつつ、相手がどう思うか? それは安全か? に気をつけておけば問題ありません」
──ありがとうございます。次に「エレベーター前で来るのを待っているときに並ぶ場所は、左? 右?」という質問がありました。こちらについてはいかがでしょうか。
「まず、添乗員の方がいたり、待機用の線がある場合はそれに従ってください。そして案内がない場合はケースバイケースです。
エレベーターは基本、建物の奥に設置されていることが多いと思います。そしてエレベーターから降りる人は、ショッピングモールであればお店側に、オフィスであれば執務室側に向かうことがほとんど。であれば、相手が降りる方向を予測して、その進行方向を妨げない場所で待機するのがベターです」
──エレベーターから見て左側が壁になっているのであれば、降りる人は右側に行く。であれば、待機するときはそれを邪魔しないよう、壁側にいたほうがいいというイメージですかね?
「そうです。ただ、エレベーターが複数あったり、車いす用のエレベーターだったり、降りたあとの目的地が多岐にわたる場合もあり、さすがにすべてを予測することはできないと思います。ですので、降りる人とぶつからないことを最優先に考え、進行方向を塞がないことを念頭に判断すれば問題はありません」
社長が乗っているから見送る……は、する必要なし!
──読者から「会社でエレベーターに乗ろうとしたら社長が乗っていた。急いでいたので会釈してそのまま乗ったら、後日、同乗していた他部署の人に嫌味を言われた。乗り込むのはマナー違反だったのか?」という質問がありました。自分も同じ状況だと乗らないほうがいいと感じそうなのですが、これはマナー違反にあたるのでしょうか?
「いえ、マナー違反ではありません。
会社に役員専用エレベーターなどがない場合、社長・部長など役職関係なく誰もが同じエレベーターを使いますが、ビジネスシーンにおいて、“社長が乗っているから次にする”という行為は“時間のロス”につながります。その行為は会社の経営活動において有益か? と考えればもちろん答えはNOですし、一刻も早くエレベーターに乗らなければいけない状況で、社長に気を遣って事業のマイナスになっては元も子もないです。
古い体質の会社で、それが掟(おきて)みたいになっているのであればそれに従ったほうが角は立ちませんが、いまどきそういう会社は少ないです。それに他の会社も入っているビルであれば、他の人からすると誰が社長かなんてわかりません。
ただ質問者さんが偉いなと思うのは、社長と気づいたときにしっかり会釈していること。相手への気遣いも出来ていますし、まったくマナー違反に該当しません」
──急いでいないときに「お先にどうぞ」という気遣いは問題ないですか?
「それはまったく問題ないですね。すでにエレベーター内に人がたくさんいる場合も同じで、急いでいるなら乗っていいし、配慮として見送ることも問題ない。ただ、“社長が乗っている=見送らないといけない”というルールはどこにもありませんし、嫌味を言われる所以(ゆえん)もないはずです」
相手への気遣いを形にするのが、マナーのあるべき姿
──冒頭で「安全かどうかをまずは考えること」が前提だと聞けたので、回答すべてに納得感がありました。
「エレベーターに限らず、みなさんが思っているほどマナーは意外と堅苦しいものではなくて、自分の中で失礼に当たらない最適解は何か? を考えて行動すれば大丈夫ですし、“人に優しくしたい気持ちを形に表すこと”がマナーの大原則です。
もちろん、名刺の渡し方や電話の取り方など、覚えておいたほうがいいベーシックな所作はあるので、まずはそれらを知ることは大事。そのうえで、その場に応じた相手への気遣いとして何が正しいかを考えられれば、堂々と行動することができます。ときにはアタフタしてしまうかもしれませんが、自分のできる限りの気遣いを心がけることが何よりも大事です」
(取材・文/FM中西)
【PROFILE】
北條 久美子(ほうじょう・くみこ) 東京外国語大学を卒業し、ウェディング司会・研修講師を経て、2007年エイベックスグループホールディングス株式会社人事部にて教育担当に。2010年にキャリアカウンセラー・研修講師として独立後、全国の企業や大学などで年間約2500人へビジネスマナーやコミュニケーション、キャリアの研修・セミナーを行う。現在はライフスタイリストとして「自分らしく笑っている人を増やす」ことをミッションにマインドフルネスや睡眠マネジメント、スゴすぎるストレッチ=スゴレッチなどをワークに取り入れ、自分らしく、かつ生き方(ライフスタイル)を豊かにすることを自らも目指し、それを広める場作りに力を入れる。著書に『ビジネスマナーの解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『心をつかむ! 新しいビジネスマナーの基本』(高橋書店)など。