『ラブライブ!サンシャイン!!』『プロジェクトセカイ カラフルステージ!』などに出演してきた声優の降幡愛さん。声優業のかたわら、2020年に始めたソロアーティスト活動では一貫して「80年代レトロ」にフィーチャーし続けてきた。書き下ろし楽曲とともに、当時の楽曲のカバーにもチャレンジし、2ndカバーミニアルバム『Memories of Romance in Driving』(9月28日発売)をリリースした。
平成生まれの彼女がなぜ、生まれる前の80年代に魅了されたのか? おしゃれなシティポップに彩られた「80‘s」の音楽の魅力をたっぷり語ってもらった。
子どものころは自分の声があまり好きではなかった
──まずは声優の道に進まれたわけですが、どんな動機があったんでしょうか?
「アニメにかかわる仕事でも最初はアニメーターや漫画家になりたかったんです。私の声は子どもっぽいってライブのMCでツッコまれたりもするんですが(笑)、中学生くらいまではむしろこの声にコンプレックスがあって。
でも友達に“可愛い声をしてるから、声優もできるんじゃない?”って言われて、確かに声優なら小柄な私でも、性別や年齢を超えていろんな役ができるかもしれないと思って、高校卒業後に声優の専門学校に進みました。そして卒業後すぐに役をいただけて、今まで続けることができました」
──声優デビューが2014年で、7年目の2020年からソロアーティストとしても活動を始めました。当初から80年代というコンセプトを前面に打ち出していましたが、イメージがガラリと変わることに不安はなかったんでしょうか。
「ソロだからこそ、今までのイメージを覆して自分の好きな音楽にこだわってみようと決めました。私の声や演じてきたキャラクターから、アイドル声優的なイメージで応援してくださるファンの方も多いと思いますが、声優の私とのギャップも楽しんでいただこうと。
ファンの方がついてきてくださるか不安もありましたが、シンガーとしてもデビューできるなんて声優を志したときは想像もしていなかった未来です。せっかくのチャンスなので私の“好き”を詰め込んで、ビジュアルや作詞にもこだわって降幡 愛という表現者のスタイルを貫いていこうと決めました」
──降幡さんが初めて80年代のカルチャーに接した体験はいつごろだったんでしょうか?
「小学生のころ、有料チャンネルでよく見ていたアニメがその時代の作品だったんです。高橋留美子さんの『うる星やつら』『らんま1/2』や、『きまぐれオレンジ☆ロード』など。もちろん再放送だったんですが、おしゃれに思えたんですね。そのころはアニメの内容を追うのに集中していて、音楽のほうは詳しくなかったんですが、大人になってから音楽面も自分でレコードを集めたりしてのめり込んでいきました。
アニメも中学・高校と上がるにつれ新しい作品も見るようになりましたが、原点は再放送で見たあの時代のアニメだったんですね」
──特に好きな時期などはあるんでしょうか?
「80年代の中でも後半の、1987年ごろから90年代にちょっと入ったあたりがいちばん好きです。あの時代は、楽曲ひとつ作るのにも当時のミュージシャンのみなさんが貪欲で。海外の最新のサウンドを追求してすぐに反映することがトレンディーだったし、今ほどDTM(※)も発達していない時代ですから曲作りに手間をかけていたところがゴージャスだなって感じます。
それと、当時のシティポップの歌に登場する女性の自立したカッコよさにも憧れますね。今よりもずっと大人びて見えます。トレンディードラマも最近見るようになったのですが、松下由樹さんが『オイシーのが好き!』で演じていたようなグイグイ肉食系な女性のイメージです」
※Desk Top Music(デスクトップミュージック)の略。パソコンを使って楽曲を作ること。
歌詞、メロディーから感じる「80年代っぽさ」とは?
──今回のミニアルバムでは『City Hunter~愛よ消えないで~』(小比類巻かほる)、『愛は心の仕事です』(ラ・ムー)、『プラスティック・ラブ』(竹内まりや)などをカバーしています。レコーディングのポイントはどんなところでしたか?
「選曲のテーマはタイトルのとおり“高速道路のドライブが似合う”でした。私の好きな曲ばかりにするとさすがにマニアックに寄ってしまうので、好きで聴いてきたものと一緒に『プラスティック・ラブ』などで定番のナンバーも押さえてみました。二名敦子さんの『Wonderland 夕闇 City』や、ラ・ムーも私のセレクトです。
レコーディングでは私が憧れる80年代の女性像を表現するために、低い音域を使って大人っぽくてしたたかな印象が出せるようにしました。もちろん原曲をアレンジしていただいているので、マネでもなく、でも自分のクセが出すぎず歌詞の世界に寄り添うようにしてみました。例えば『プラスティック・ラブ』のサビは編曲の本間昭光さんと一緒に考えて、パワフルに歌っています。
男性ボーカルの曲もカバーしていて、角松敏生さんの『AIRPORT LADY』はサウンドに引っ張ってもらってドライブに似合う、疾走感のあるムードが出せたかなと思います」
──カバーだけでなく、ソロアーティストとしても80年代風の楽曲を一貫して歌ってきましたし、ご自身で作詞もされていますね。当時のレトロ感を出すために考えていることはありますか?
「あの時代って、カタカナが目立つんですよ。カタカナ語と日本語を混ぜて日常であまり聞かない言葉にして“おっ!?”と思わせるタイトルが多いのかな、と。作詞のために、ふと思いついたフレーズはストックしています。
これは松本隆さんの曲で顕著に感じるんですけど、歌詞にはストーリー性があって、しかも聴き手に(歌詞の中の)経験がなくても共感できてしまう言葉選びのセンスが巧みだなって思います。ほかにも面白いと思うのは松任谷由実さんの『真珠のピアス』ですね! 彼の浮気を疑ってわざとベッドの下に真珠のピアスを残して、引っ越しのときに気づくでしょうと目論(もくろ)んで別れる、1曲の中で物語が展開できてしまうのがすごいです」
──ジャケットのデザインもアーティスト写真も、さらにはMVまで80年代っぽく、デビュー1年目からカセットテープや7インチレコードをリリースするなど、徹頭徹尾こだわり抜いていますね。
「80年代のものなら当時のロゴやフォントも好きで、ジャケットのデザインにも取り入れています。クリエイティブ志向というか、子どものころの漫画家やアニメーターへの憧れの影響もあるんでしょうか(笑)。1stシングルの『ハネムーン』(2021年)は夏っぽい曲にしたのですが、これもあの時代になんとなく夏のイメージがあったので。大磯ロングビーチの水泳大会とかのですね。
本間さんをはじめ、80年代当時に現役だった方と音楽制作ができるので、このチームで始めるならレコードもカセットも出そう、となりました。いい写真を撮るカメラマンさんをインスタで探してしまうほどこだわりグセがある私ですが、多才なスタッフのみなさんにアイデアをブラッシュアップしていただいて、レトロなアーティストイメージをつくってきました」
──サウンド面で好きな音楽クリエイターの方はいますか?
「林哲司さんですね。私がこれ好き! と思うシティポップがほとんど林さんの楽曲だったり、大好きな菊池桃子さんのソロ曲にもラ・ムーにも作曲でかかわってらっしゃるんです。私にとって林さんのサウンドが80年代を象徴してくれているのかもしれませんね」
80‘sを通じて、海も超えて交流を広げたい
──声優として今の音楽シーンらしい楽曲も歌っていますが、80年代と現代のポップスの違いを分析するとどうなるんでしょうか?
「ひとつは歌の世界が外に向くか内に向くか、でしょうか。今は世の中に自分の思いをぶちまける曲が流行(はや)ったりもしますが、80年代は失恋でもほかの何かでも、個人的な体験を歌詞に込めて、歌の中でそのドラマが完結する印象があります」
──そう聞くと、昔のポップスは私小説的なのかもしれません。
「それと、2020年代の曲はフレーズが長いんです! 説明的というか。それに比べて80年代は同じサウンドやフレーズを繰り返して刷り込むようにリスナーに迫ってきます。世の中に受けるキャッチーさも変わってきていますね」
──声優界の中でもなかなかユニークな路線を選んだと思いますが、ソロデビュー後に変化はありましたか?
「収録の現場でも話題にしてもらえるようになりましたし、ソロアーティストの武藤彩未ちゃんとは80年代好き同士で仲よくなってライブで共演したり、歌詞を提供したりする仲です。ほかにも当時の楽曲をリミックスしている韓国のプロデューサー兼DJのNight Tempoさんとも知り合えたり……交友関係が広がって80年代オタクのオフ会みたいなコミュニティーができています(笑)」
──近年、海外で80年代のシティポップがブームになって、そこから日本国内でもシティポップが脚光を浴びるようになりました。降幡さんの音楽活動にも追い風が吹いているように思います。
「海外のアーティストの80年代愛もすごいんですよ。インドネシアのIkkubaru(イックバル)や、アメリカのジンジャー・ルートなど、シティポップにフィーチャーしたバンドが活躍していますから、そういった方々とレトロカルチャーを介してご縁があればなと。
あとはやはり……菊池桃子さんが憧れなので、私のこの80年代愛が届いて、お会いできるとまたひとつ夢が叶(かな)ったといえるかも。80‘s カルチャーを共通語にして、みなさんとつながって、可能性を広げていきたいです」
(取材・文/大宮高史)
《PROFILE》
降幡愛(ふりはた・あい) 2 月 19 日生まれ、長野県出身。 2015 年に『ラブライブ!サンシャイン !!』の出演が決まり、黒澤ルビィ役で本格声優デビュー。同作品のスクールアイドルグループ・Aqours のメンバーとして活動し、‘18 年には東京ドーム 2Days のライブにて、国内外ライブビューイングを含め 15 万人を動員。’19 年には、自身初となる写真集『降幡愛写真集 いとしき』を発売する。‘20 年 9 月 23 日にデビューミニアルバム『Moonrise』をリリースし、レーベル「Purple One Star」よりソロアーティストデビュー。’22 年 4 月には初のカバーミニアルバム『Memories of Romance in Summer』を発売し、同年11月にはライブツアー『3rd Live Tour ~愛はハイテンション~』を大阪・東京で開催予定。
公式サイト furihataai.jp
Twitter @furihata_ai