2022年、CDデビュー25周年となるKinKi Kidsの堂本光一と堂本剛。7月20日の23時50分には、開設されたばかりの公式YouTubeチャンネルから初の生配信を行い、東京ドームの客席から、ふだん通りにまったりとリラックスしたトークを展開。そして、デビュー記念日となる7月21日の0時0分を迎える瞬間をファンと一緒に祝った。
今年は、テレビ・ラジオでの特別番組、雑誌の表紙や巻頭インタビュー、さらには25周年を記念した企業CM出演(出演料なんと各社25円!)など、本人たちも「みんな力が入りすぎなのよ」(光一)、「ちょっとだけ力を抜いてくれてもいいのでは」(剛)と逆に心配するほど、大々的にメディア露出している。
’12〜’16年、シングルは6作のみだがオリジナルアルバムや作家陣を強化
これとは対照的に、デビュー15周年となる2012年は、ツアータイトルに“Thank you for 15 years”と盛り込まれた全国ツアーはあったものの、CDの記念リリースもなく比較的、淡々としていたように思える。ただし、2011年のアルバム『K album』にて“絆・軌跡・感謝・感動”をテーマに、過去にゆかりのある作家陣を起用し、初回盤にはそれまでの全シングルのミュージックビデオを集めたDVDを付けるなど、周年記念に近いものはリリースされている。
そんな2012年からの5年間は、シングルのリリースが6作(通信販売を除く)と少ない。しかし、この5年間は、シングル「変わったかたちの石」「恋は匂へと散りぬるを」「鍵のない箱」「夢を見れば傷つくこともある」「道は手ずから夢の花」とタイトルを並べただけでも何か意味深なものを感じさせるように、メッセージ性の高いものが多くなっている。これは、デビューから2006年までの10年間で、マイナー調の繊細なメロディーが光る“KinKi Kidsワールド”を確立したのち、2007年以降に歌詩、メロディーともにこれまでにない作風を大きく開拓した上で、光一と剛が「この時期にメッセージ性の高い楽曲を」と強く望んだのではないだろうか。
このころ、初回盤、通常盤の2種類で発売していた2012年の「変わったかたちの石」が初めてオリコンで15万枚を割り込み、2013年以降は映像付きの初回盤A、初回盤Bと、CD収録曲多めの通常盤の3種類を発売するようになっていった。
ただ、この時期の音楽市場全体を見ると、AKB48が“握手券商法”を確立させミリオンヒットを連発し、2011年から2017年にかけては年間シングルの1位から5位までを独占。ほかのアイドルグループもCDの発売形態をメンバーの数だけ増やすことなどが常態化している中で、「デビューからのシングル連続首位」というギネス記録を更新し続けるという大きな使命のあったKinKi Kidsも、その対抗措置を余儀なくされたとも言えるだろう。
しかしながら、そういった事情を抱えつつ、オリジナルアルバムは3作リリースし、作家陣も玉置浩二、矢野顕子、奥田民生、高見沢俊彦、吉井和哉、松井五郎とさらに広がっており、着実に音楽的には進化している。以下、1年ごとにカラオケヒット曲ランキングを見ていこう。
(1997〜2001年を分析した第1弾:KinKi Kids、CDデビュー25周年! カラオケランキング25年分から読み解く、華麗なる人気曲ヒストリー【#1】)
2002〜2006年を分析した第2弾:KinKi Kidsカラオケ人気曲ヒストリー【#2】名曲「愛のかたまり」が発売5年目で上昇、“打ちひしがれ事件”も懐古)
2007〜2011年を分析した第3弾:KinKi Kidsカラオケ人気曲ヒストリー【#3】シングル減の’07-’11年、ランキング上位を飾った楽曲の特徴は?)
2000年のアルバム曲「欲望のレイン」が後輩に歌い継がれることでランクイン
まず2012年を見ると、同年発売での最高位は30位の「変わったかたちの石」。以前なら、1月発売のシングルであれば大抵はその年のカラオケ人気曲T
その反動なのか、9位の「青の時代」、10位の「雨のMelody」、23位の「欲望のレイン」と、2000年までの初期作品が大きく上昇している。特に、23位の「欲望のレイン」は2000年のアルバム『D album』収録のアップテンポなナンバーだが、その後、山下智久&生田斗真コンビなど、代々ジャニーズJr.たちに歌い継がれていることでランクイン。
ジャニーズには、ほかにも少年隊「星屑のスパンコール」(アルバム『翔 SHONENTAI』収録)、近藤真彦「アンダルシアに憧れて」(シングル、オリコン最高9位)など、後輩たちに歌い継がれていることで、当時のオリコン1位シングル曲よりも有名になっている曲が少なくない。しかも、この「欲望のレイン」も「硝子の少年」や「雨のMelody」が好きな人ならハマりそうな同系列の、雨の日の失恋ソング。むしろ、 “安パイ”に思われてしまうのを避けるため、
同じCDに収録の「恋は匂へと散りぬるを」「まだ涙にならない悲しみが」が健闘
2013年も、TOP10の中では2004年の「Anniversary」が最新曲となるほど初期の数年間に出た名曲が固まっているが、20位台では、「恋涙」「シンデレラ・クリスマス」「Kissからはじまるミステリー」「恋は匂へと散りぬるを」と、アルバム収録曲やシングルの両A面曲(CD2曲目収録)の上昇が目立つ。特に「シンデレラ・クリスマス」と「Kissからはじまるミステリー」はともに作詩:松本隆×作曲:山下達郎コンビによる作品で、やはりふたりともこうして10年以上歌い継がれる曲を目指していたことが実証されている。
「恋は匂へと散りぬるを」は、雨と失恋をモチーフにしたマイナー調のアッパー・チューン。2000年代からコンサートのバンドマスターを務める吉田建が作詩・作曲・編曲を手がけたからこそ、彼らの得意とする路線を踏襲しつつ、ソロギターが鳴り響くなど生演奏の魅力を盛り込んでいるのもうまい。
2014年は、前年34位だった「まだ涙にならない悲しみが」が急上昇。出足は、そのカップリング曲だった「恋は匂へと散りぬるを」が先行したが、テレビの歌唱やVTRで紹介されることが多いことで「まだ涙にならない悲しみが」がより伸びたようだ。こちらは、作詩:松井五郎×作曲:織田哲郎×編曲:亀田誠治による流麗なポップス。失恋ソングながら颯爽とした雰囲気があり、これも新たなKinKi Kidsワールドを形成したと言える。
「愛のかたまり」がついにトップに、「薔薇と太陽」も次々と話題を呼ぶ!
2015年は、7年連続2位だった「愛のかたまり」がついに1位に! これは前年のアルバム『M album』にバラード・バージョンとして収録され、また2014年末の『ミュージックステーションスーパーライブ』(テレビ朝日系)でも歌唱されたこと、さらにはジャニーズJr.のみならず、Hey!Say!JUMPの山田涼介、A.B.C-Zの橋本良亮、ジャニーズWESTといった後輩がメジャーデビュー後もテレビでカバーしたり、名曲だと語ったりしたことも大きいだろう。
なお、『M album』収録のスローなバージョンは、カラオケ人気曲32位となった。『M album』には、イントロに雨音をフィーチャーしラテン風にアレンジした「雨のMelody」も収録されているが、この効果もあって同曲も前年から2ランクアップし、8位となった。
そして2016年は、同年7月発売の新曲「薔薇と太陽」が12位に初登場! この5年間では最も高い順位であり、ファンにとっても会心の一作だったのではないだろうか。
本作の作詩・作曲はTHE YELLOW MONKEYの吉井和哉が手がけ、彼が得意とする退廃的かつ妖艶な世界観を、KinKi Kidsが得意とする歌謡ポップスにうまく落とし込んでいる。編曲に歌謡界の大御所、船山基紀を起用したことも大きい。また、ジャケット撮影は俳優の斎藤工が担当し、モノクロ調の味わいある写真も話題を呼んだ。
さらに話題だったのは、ふたりによるTVパフォーマンスで、剛のほうがバンドメンバーと一緒に激しくギターを奏でつつ、光一はダンサーたちと激しく踊りつつ、その上でふたりで歌うという、ジャニーズのみならず、J-POP界全体を見渡しても有り得ないスタイルでその音楽性を体現した。このインパクトの強さから、カラオケで歌ってみたいと思った人も少なくないのではないだろうか。また、この影響からか、2001年の「情熱」や1999年の「やめないで,PURE」など、「薔薇と太陽」同様赤いイメージのギラギラしたアッパーチューンも伸びている。
こうして見ると、活動が少ないと思えたこの時期さえも、KinKi Kidsワールドを広げた作品が確実に出ており、また、それに伴って旧来の楽曲も再評価されていることが分かる。その甲斐(かい)あって、2016年にはファン待望のNHK紅白歌合戦に初出場を果たし、デビュー曲「硝子の少年」を披露した(1999年にコーナーゲストとして「フラワー」を歌唱した出演もあるが、正式では初)。
以前のコラム(『KinKi Kids、ギネス記録に隠れがちな堂本光一と堂本剛の“本当にスゴイ部分”』)でも書いたが、タレントパワーランキング(名前や顔を知っている“認知率”と、見たい・聴きたい・知りたい“誘引率”を掛け合わせたスコア)の調査結果を10代から60代まで幅広く見ると、KinKi Kidsはジャニーズの中でトップレベルで、なおかつ今年は各メディアで大きく盛り上がっているので、6年ぶりの出場を大いに期待している。
《取材・文/臼井孝(人と音楽をつなげたい音楽マーケッター)》