「魚」と聞いてすぐに思い浮かぶ有名人といえば、さかなクン……という方が多いかもしれませんが、もうひとり忘れちゃいけないのがこの方、さかな芸人ハットリさんです。
ヒットソングを魚の名前だけで歌う「お魚替え歌」をYouTubeで発信し、“半年間 自分で捕獲した外来種で作った料理を毎日食べる生活〜1日1食外来種〜”など数々のチャレンジ企画を行うなど、まさに魚マニア。最近ではお笑いネタが注目されがちですが、福岡県の進学校を卒業し、早稲田大学に入学。合格率10%以下といわれる日本さかな検定(通称:とと検定)の1級に合格するなど、アカデミックな一面も持っています。
そんなハットリさんがなぜ芸人の道に進み、“魚”で生きるようになったのか。そのギャップが気になる人も多いかと思います。そこで今回は、ハットリさんに魚好きになった理由や、さかな芸人になるまでの経緯について伺ってきました。これまでの軌跡はまさに魚街道まっしぐら。魚づくしの人生をひも解いていきましょう!
魚にハマった理由は“山”リアル『ぼくのなつやすみ』を過ごした少年時代
──ハットリさんが魚を好きになったきっかけは何でしたか? やっぱり海とか?
「実は山スタートなんですよ。父が渓流釣りが好きで、気づけばイワナやアマゴを釣る生活が当たり前でした。少年時代は生き物全般が好きで、愛読書は恐竜図鑑、夏休みは祖父母の家に行ってカブトムシを採って渓流釣りをするのがお決まりコース。恐竜・渓流魚・カブトムシから成り立っているのが僕です(笑)」
──ゲームの『ぼくのなつやすみ』みたいな少年時代ですね!(笑)。お父様は生物系のお仕事とか?
「父は歴史研究者(服部英雄さん)です。釣りは完全に趣味で、生物の研究もしてなかったですね。僕よりよっぽどテレビに出ていますよ」
──てっきり生物学系の方だと思っていました。渓流釣りから始まって、次に魚と接するのが大学のスキューバダイビングサークルとのことですが、入部の理由はやはり魚ですか?
「いや、もうシンプルに大学生活を楽しみたかっただけです(笑)。高校まで男子校、柔道部だった自分にとって“スキューバダイビング=南の島で水着の男女がキャッキャする”、これはすばらしい! と(笑)。ただ実際にはそういうノリに入れなかったんですよ。でも、魚にのめり込むきっかけは、スキューバダイビングサークルでの経験でしたね」
──なるほど。どんな理由で魚にハマったんですか?
「のめり込んだきっかけは、水中で見たハゼです。ハゼって地味なイメージですけど、実はいろんな種類がいるんですよ。ダイビングの一発目に見た“ハナハゼ”に衝撃を受けました。幽霊みたいに透けているんですけど、そのビジュアルに“やべえ!”と興奮しましたね」
──きれい……!最初はビジュアルから入ったんですね。
「そうですね。厳密に言うとハナハゼはハゼ科ではないんですけど、他にもアケボノハゼを見たときは感動しました。水深40メートルくらいにいる魚で、ダイビングを始めて1年半後にやっと見られました。
あと、めっちゃハマったのがクロスズメダイの幼魚です。成魚は黒いクマノミみたいなのに、幼魚は白地に黄色と水色でかわいいんですよ。図鑑で見たハタタテハゼの仲間も3種類全部見たいと思って見に行きましたし。なんか色違いにキュンとします」
──昔から図鑑を見るのが好きだったとのことで、集めることへの快感もあったのでしょうか。
「そうかも。“○種類コンプリート!”みたいな感覚に近いですね。そんな感じでのめり込んでいた結果、気づけばスキューバダイビングの部内でいちばん魚に詳しくなっていました。子どものころから好きになるとのめり込むタイプでしたね」
きっかけはエミネム!? 苦肉の策で生まれた「お魚替え歌」
──芸人を志した経緯はどんなものでしたか?
「昔から人前で面白いことをするのが好きだったんです。中学時代に流行(はや)っていたエミネムの『Without Me』を全部カタカナに書き出したら歌えるようになって、高校時代に入った柔道部で披露したら“エミネム歌えるやつがいる!”と噂が広がって(笑)。それから他の歌系のネタをするようになりました。
芸人になろうと決めたのは高校時代。3年生を送る会で、古畑任三郎とジブリの細かすぎるモノマネをしたんですけど、これが結構ウケて。男子校でマンモス高だったんですが、歓声がドドドドッてもろに体感でき、それが忘れられなくて。“芸人としてもっとこの体験をしたい!”と思い、大学ではお笑いサークルに入りました」
──今の名物芸・お魚替え歌はいつ頃生まれたんですか?
「最初はピンでコントをしていたのですが、全然ウケなくて。替え歌が生まれたきっかけはダイビングサークルの余興です。OG・OBが集まる会で余興を頼まれネタを考えていたとき、たまたま聴いていた『スタンド・バイ・ミー』が“スズメダイ”と聞こえたんです。それで生まれたのが、ひたすら歌いながらスズメダイの絵を見せるネタ。替え歌ネタは、苦しまぎれに生まれたんです」
──聴くたびに思うのですが、当てはめる魚が絶妙ですよね。替え歌を作る秘訣をぜひ教えていただきたいです!
「基本的には、“歌詞にも聴こえるけど魚にも聴こえること”を大事にしています。韻を踏むことで歌詞に忠実に当てはめる方法もありますが、それをやりすぎると面白くなくなるので、その加減には注意しています。
例えば“会いたい”なら“アイ(アイゴの別名)タイ(鯛)”と組み合わせできますけど、あえて“アジタイ”にしたほうが、カタコトの日本語歌詞っぽく聴こえるし、“言われてみれば聞こえる!”となるので面白い。すごい早口で歌うときは違和感をなくしたほうがいいので歌詞に忠実に魚をチョイス。こんな感じで曲によって当てはめ方を変えています」
──なるほど、奥が深いんですね。ちなみに、ムチャぶりなのは承知なのですが……『fumufumu news』を魚で言い換えていただきますでしょうか!?
「そもそも『fumufumu news』が、「う」の音で韻を踏んでますもんね……。韻を踏むなら“フグフグフーグ”や“フグフグムーツ”。でも“news(ニュース)”の字余り感を出すなら、“フグフグメギス”のほうがそう聞こえるかなぁ」
──すごい! ありがとうございます! あえて“メギス”にするあたり、こだわりを感じます。
「それはよかったです(笑)。ちなみに今ネタとしてあたためているのが、『初音ミクの消失』という超アップテンポかつ早口の曲です。めちゃめちゃ速いのでもう1年くらいは練習したいですが、年内にはお見せできるかと!」
道が定まったギョウテンな出会い!? さかな芸人の道が本格スタート
──お魚替え歌以外にも“1か月間釣った魚だけで生きる”や“築地市場でネタを披露して投げ銭としてもらった魚だけで生きる”などさまざまなチャレンジ企画をされてきましたが、どのような経緯で始めることに?
「大学時代から所属していたお笑い事務所を辞めてフリーになったのですが、次の事務所も決まらずしばらく苦しい時期が続いていました。芸人を辞めようかと思ったんですけど、どうせ辞めるなら最後に他の芸人がしていないことをしようと思って始めたのが“1か月路上ライブして、バイトせずに投げ銭だけで生活する”の企画です。路上ライブの投げ銭報告をブログに更新していたらアクセス数がちょっと伸びたんですね。じゃあ、1か月しばりの企画を他にもしてみようと思い、いろいろやり始めました。“1か月間ひたすら北に向かって歩いてどこまで行けるか”のときは東京から青森の大間まで歩きました(笑)。
で、そのころはすでに替え歌は定番ネタだったんですが、昔から無人島生活に憧れていて、いつかオファーが来ないかなと思っていたんですけど一向に来ず。来ないなら自分でやろうと思って、千葉県の館山に行きました」
──千葉県の館山はさかなクンの地元ですよね?
「そうです。ある日さかなクンが館山でイベントをしていると聞き、行くことにしたんです。イベント終了後、ダメもとで楽屋に行ったら、そこにいた漁師さんが“もしかして、館山回って釣りしている芸人って君?”と声をかけてくれました。その方はさかなクンの親友で、そのままさかなクンに会わせてくれたんです。
そこでさかなクンに“何かの番組で館山を回っているんですか?”と聞かれて“自主的にやっています”と答えたら“じ、自主的に〜〜〜!?”とあのトーンで驚かれました(笑)」
──光景が目に浮かびます(笑)。
「その場でネタを披露したら面白いと言っていただけて、嬉しかったですね。それを機に芸名にしれっと“さかな”を付けました(笑)」
──なるほど(笑)。そのときから今の格好になったんですか?
「ちょうどそのころ、Twitterで変わった恰好の人がバズっている時期で、それに感化されて衣装もこだわろうと決めて今の姿になりました。これになってから釣り関係の仕事が増えて、チャレンジ企画も魚しばりになっていきましたね」
──チャレンジ企画の集大成が“300種類の魚を釣るまで、自分で釣って調理した魚以外、食べないチャレンジ”なのですね。
「そうです。その企画では、期間は最長7か月、北は北海道・知床から、南は沖縄・石垣島まで巡りました。最後に釣ったのは頭に付けているウスメバル。そもそもメバルは目が大きくて目立つからという理由で選んだのですが、だんだん愛着が湧いてきて、企画の締めは絶対にメバルにしようと決意したんです。釣り上げたメバルを頭に掲げたときはいろんな思いが込み上げてきて泣けました。本当に思い出深い企画です」
◇ ◇ ◇
魚への思いの深さと同時に、ハットリさんのひらめきやピンチをチャンスに変える力にはただただ脱帽。何をしても自分のものにして、必ずやりとげるサバイバル力ならどこで何をしてもやっていけると心の底から思いました。インタビュー第2弾ではハットリさんの博識な一面をご紹介。今問題となっている外来種についてや、発信者として心がけていることなどを語っていただきます。
(取材・文/阿部恭子、編集/FM中西)
【PROFILE】
さかな芸人ハットリ 1989年、神奈川県生まれ。福岡大学付属大濠高等学校、早稲田大学教育学部卒業。大学ではスキューバダイビングとお笑いサークル「早稲田寄席演芸研究会」に所属。2010年より芸人として活動スタート。2014年「日本さかな検定(通称ととけん)」1級に合格。その後再度受験し、2017年に同検定で全国6位に。同年10月に個人事務所「ハットリ水産」を設立。2021年『日本一魚好きな芸人の魚図鑑 さかな芸人ハットリが日本一周して出会った魚たち』出版。歌詞をすべて魚の名前にして歌う「お魚替え歌」や魚しばりのチャレンジ企画がSNSで注目を集め、『アメトーーク!』やイベントなど多数出演。