『愛という名のもとに』や『妹よ』などの人気ドラマに出演し、「トレンディ俳優」として大ブレイクした唐沢寿明さん。それから現在まで、常に第一線で活躍し続け、その魅力は歳を重ねるごとに増すばかり!
そんな唐沢さんが主演を務める『連続ドラマW フィクサー Season1』が、4月23日から始まります。インタビュー前編では脚本家の井上由美子さんと4度目のタッグとして注目の本作について、演じる役や見どころ、また、昨今の日本のドラマ業界への思いなど 、ざっくばらんにお話しいただきました。
この作品は「大人として演じるべき作品」
――本作の脚本を手がけた井上さんとは、2003年放送の「白い巨塔」をはじめ4度目のタッグとなりますが、今回の脚本を読んだ感想から教えてください。
脚本としてはとにかく面白いので、これを映像にして見たときに、大人として演じるべき作品と思いました。最初に脚本を読んだときは、自分が演じる設楽拳一がどんな人物なのか、わかりやすい「悪い人」や「善悪みたいなものって何なんだろう」ということがよくわからなかった部分もあって、少し考えさせられました。
――唐沢さんが演じる設楽は、世の中を裏から操る「フィクサー」ですが、どんな印象がありますか?
実際「フィクサー」って、今の日本の政界や芸能界でもいるんじゃないかな? この作品の中でもちょっと褒めるとすぐ前に出てくる人がいるけど、そういう人ってたぶん操りやすいんですよ。俳優の仕事でも、自分たちはある程度その世界観の中で操られている部分があるから、褒めたら何でもやる人とかいるでしょう。自分はわりと冷静だし、簡単に操られるタイプではないですけどね(笑)。
――では、フィクサーという役どころを演じるうえで、どんなところを意識して撮影に臨まれたのでしょうか。
設楽は究極の裏方なので、あまり表に出てはいけないんです。なので、設楽が何かをしていることを注視するというわけではなく、彼によって周りの人たちがどう動かされていくのかを楽しむドラマになっていると思います。
――設楽はいろいろな人との駆け引きや腹の探り合いをしていくかと思うのですが、そういった心理戦を演じるうえでの面白さと難しさを、それぞれどんなところに感じますか?
たぶん世の中って、「駆け引きができる人」「できない人」と「それ以外の人」なんですよ。交渉能力があって人を引き込むことができる人は生まれつきできるし、そういう人に巻き込まれる人は生まれつきそういう人。世の中ってそういうもので構成されているので、たぶんそんなところを今回ドラマにしたんだと思います。
できない人って決して特別じゃない。そういう人は必ずいて、利用されていても「俺は利用されていない!」って言い張っている人たちが、世の中の9割ぐらいはいるんじゃないかな。そういうふうにしてこの作品を見ると面白いと思いますよ。
ありえない設定は劇画調でやったほうが面白い
――唐沢さんといえば、正義感の強い刑事役など、熱血漢を演じられている印象も強いですが、今回のように一歩引いて、周りの人たちを動かすような役どころを演じる面白さをどんなところに感じますか。
以前やった刑事ものや韓国のリメイク作品もありますけど、今作はまったく違いますね。ああいう作品って、現実的ではない設定じゃないですか。ありえない設定というのは、どこか劇画調のような感じでやったほうが面白いんですよ。普通の演技でやると、ありえないだろうということがもっとありえなくなってしまう。だから、劇画みたいな感じでやるほうが見ている側も見やすいんですよね。でも今回はそういう感じではなく、社会派な内容で「こういうのもいいな」と思いました。
「主役とそれ以外、という作り方はもうやめたほうがいい」
――本作は3シーズンにわたる大型シリーズとして展開されます。先ほど「まだよくわからない」とおっしゃっていた設楽の素性も少しずつ明かされていくのでしょうか。
結末を含め、僕もまだ全部を知らされていないので、最初に考えていたこととは変わっていくと思います。なので、自分たち俳優はその時その時を生き抜くしかないですよね。
――豪華なキャスト陣がずらりとそろい、クセのある方ばかりですが、特に気になる登場人物はいますか?
ほかのキャストもすごくいい描かれ方をしているんです。例えば、要潤くんは口数が少ない役だけど、ものすごい存在感なんです。それはやっぱり、脚本の井上由美子さんがそこにいる意味をちゃんと書いているんですよね。
主人公を描くのはそんなに難しいことじゃないと思うけど、周りの人もちゃんと作品に書き込むということは難しいんじゃないかな。全体的なバランスも見て、その人なりの決着をつけなければいけないから。主役とそれ以外、という作り方はもうやめたほうがいいと思う。
――役柄とは別に、俳優として触発されたことはありますか?
今回の現場には、みんなすごい熱量で来ているなと感じました。やっぱり僕らもよい作品をやりたいんですよ。
俳優が脚本を読んで「面白くないな」と思ったら、その諦めが演技に出てしまうから、悪循環になってしまう。精いっぱい時間をかけてやりきって、観ている人に楽しんでもらおうという作品にしていきたいですね。
――役者さんにとって、自分が「面白い!」「やりたい!」という熱量を持てる脚本であるかが重要なんですね。
役者として脚本に惹(ひ)かれるかは、まずは絶対条件だと思います。最近は予算の問題とかでいろいろな制約が出てしまうので、よい作品を作りづらくなってきているとは思います。
――昨今はテレビドラマ以外にさまざまな動画配信サービスも出ていますが、海外の作品はご覧になりますか?
たまに見ますよ。単純に面白いじゃないですか。「なんでこれが日本でできないのかな」と思うこともあります。
NetflixとかAmazon Prime Videoとかが出始めたころは、クオリティの高い作品がたくさんあって、いろいろな作品を見ていました。最近の日本の現場は予算が制限されて、クオリティを保つことが大変な現場も多いと思います。
――良質な作品を作るためには、予算も時間も使うべきところにしっかりと使うべきだと。
才能のある人に何かしてほしければ、最低限のお金は必要だと思います。脚本だって、お金がないとちゃんとした人に書いてもらえない。
今の若い俳優はみんな映画に行っているじゃないですか。きっとやりがいを求めていくんだろうな。テレビは視聴率という数字でいろいろと評価されてしまうからね。だから、いろんな意味で変わっていくといいなと思う。
――本作は世の中を裏から操る「フィクサー」の暗躍と、金と権力に群がる人間たちを描いていますが、「表に出ない正義」や「悪」について、どうお考えですか?
「フィクサー」のような人っていうのも、世の中には必要だったりするじゃない。表の人ばっかりだと世の中が回らないから、そういう人がいなくなっちゃうと、それはそれできっとダメなのかもしれないですね。
たぶん、設楽にもやりたいことはあると思うんだけどそれが最終的にどんなことをやって、それによって何が解決するのかは、まだ自分もわからない。だって、自分が昔ハメられたことによるただの復讐劇だったら“チャンチャン”で終わってしまう。井上さんが描く作品なので、きっともっと深い「何か」があるんじゃないかな。
後編では今年還暦を迎える唐沢さんに、「トレンディ俳優」といったパブリックイメージを払拭するために挑戦した作品の思い出や、俳優として、また一人の人間として大切にしていることについて語ってもらいます!
(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、撮影/junko、ヘアメイク/松原美穂(Nestation)、スタイリング/勝見宜人(Koa Hole inc.))
【Profile】
●唐沢寿明(からさわ・としあき)
1963年6月3日生まれ、東京都出身。’87年、舞台『ボーイズレビュー・ステイゴールド』で本格的に俳優デビュー。映画デビュー作『おいしい生活』と主演作『ハロー張りネズミ』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後も、NHK大河ドラマ『利家とまつ 加賀百万石物語』をはじめ、山崎豊子原作のTVドラマ『白い巨塔』、『不毛地帯』など数々のドラマに主演。
【Information】
●『連続ドラマW フィクサー Season1』
監督:西浦正記
脚本:井上由美子
出演:唐沢寿明、藤木直人、町田啓太、小泉孝太郎、要潤、吉川愛、斉藤由貴、駿河太郎/ 西田敏行(特別出演) / 永島敏行 富田靖子 陣内孝則 内田有紀 小林薫
Season1:4月23日(日)初回放送&配信スタート(全5話)
放送:毎週日曜22時[第1話無料放送]【WOWOWプライム】【WOWOW4K】
配信:各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信 [無料トライアル実施中]【WOWOWオンデマンド】