2022年12月初旬にスタートした「メタばあちゃん」プロジェクト。85歳のおばあちゃんが、かわいらしい女子高生のアバターで深みのあるトークを繰り広げると、インターネット上でたちまち話題となった。
今回、そんな「メタばあちゃん」プロジェクトを手がけるOTAGROUP株式会社代表の下西竜二さんとひろこ(85)さんにインタビューを実施。第1弾では、ひろこさんが活動について感じていることや、下西さんが活動のアイデアを得たきっかけなどを伺った。
【第1弾→85歳の新人VTuber・ひろこさん。『メタばあちゃんプロジェクト』を立ち上げた孫へ「会社勤めをしてくれたら安心なんだけどねえ」】
第2弾となる本記事では、活動への反響やテクノロジーと高齢者の生きがいづくり、これからの日本に必要なことなどについて詳しく聞いていく。
雑誌にテレビ、SNS。大きな反響が、ひろこ(85)さんの生きがいに
──下西さんの祖母・ひろこさんが、VTuberとしてトークを繰り広げる「メタばあちゃん」プロジェクト。前回のインタビューでは、秋元康さんの言葉をきっかけにアイデアが生まれ、結果として大きな反響があったとお聞きしました。具体的にどのような反響があったのでしょうか?
下西:SNSやYouTubeでコメントをいただくのはもちろん、メディア出演依頼もひっきりなしにいただいています。例えば、先日はある週刊誌の企画で「今年“跳ねる”100人の主役」に選んでいただいて。五十音順に名前が掲載されたので、小説家の林真理子さんと映画監督・アニメーターの宮崎駿さんの間に「ひろこ(85)」が挟まれるという、とても貴重な経験をしました。人生は本当に何があるかわからないですね(笑)。
最近だと、テレビ番組の生放送にも出演しました。生放送はおばあちゃんも緊張してしまうし、本当はお断りしようかと思っていたんですね。でも、実際に当日を迎えてみると、おばあちゃんはいつもどおりだったのに、むしろ僕のほうが緊張してしまって。おばあちゃんとしては、大好きなお笑い芸人の錦鯉さんとお話できたのがとても楽しかったようです。最近も番組出演依頼があると、おばあちゃんのほうが即答で「出る!」と言っています(笑)。
──ひろこさん、VTuberとしての活動をとても楽しんでいらっしゃる(笑)。
下西:そうなんですよ。こういうインタビューの場では本人も恥ずかしがって「いやあ、よくわからんです」と話すことが多いのですが、僕が見る限り、この活動をいちばん楽しんでいるのはおばあちゃんですね。だから活動がない日は、「YouTubeにコメントは届いていないのか」とか「マシュマロ(※)で質問は来ていないのか」と、僕にいろいろ聞いてくるんです。活動がないと寂しいみたいです。
※マシュマロ:匿名メッセージサービスのこと。ネガティブな言葉はAIが自動で削除してくれる。
──メタばあちゃんプロジェクトの活動が、ひろこさんの生きがいにつながっているのですね。
下西:本当にそうだと思いますね。この活動を通じて、親戚はもちろん、家族以外の方との交流も増えました。もともとは親戚にも隠して活動をしていたのですが、おばあちゃんのほうから「みんなに伝えたい」と言い出して、今では掲載された新聞や雑誌の記事を親戚中に郵便で送っているほどです。
テクノロジーで、新たな高齢者の生きがいはつくれるのか?
──ひろこさんのように、高齢期でも新たな生きがいを見つけて 暮らせるようになるのは、これからの日本社会に必要なことではないかと思います。
下西:僕もそれは強く感じていて、このプロジェクトを通して高齢者に新たなつながりや生きがいをつくり出せればいいなと思っています。先日、フードコートで食事をしていたら、井戸端会議をしているおばあちゃんグループの中で「家に帰りたくない」と話している方がいたんです。その方は旦那さんが亡くなり、子どもたちも巣立って、家に帰るとひとりになってしまうそうで。寂しいから、なるべくここにいたいと切実に話している姿が印象的でした。今の日本には、この方のように孤独や寂しさを抱えている高齢者も多いのではないでしょうか。
僕のおばあちゃんも「どんな人でも、会いに来てくれたらうれしい」と話していました。この活動が家族やそれ以外の方との交流を生み出し、日々を生き生きと暮らせる高齢者が増えるきっかけになれば、プロジェクトを立ち上げた意味もあるのかなと思います。
──高齢者の生きがいをつくるうえでは、やはり今回の「メタばあちゃん」プロジェクトのように、新たなテクノロジーも大きな役割を果たしていくのでしょうか。
下西:高齢者を根気強くサポートすることができれば、テクノロジーを使って新たな生きがいを生み出すことは可能だと思います。僕たち若い世代はどうしても、“高齢者はテクノロジーについてくるのは難しい”と考えがちです。でも、使い方を2~3回ほどレクチャーして何度もトライしていくことで、壁を乗り越えて基本的な使い方をマスターする方も多いんですよ。70~80代の方がメタバース空間で打ち合わせをするといったことも、不可能ではありません。新技術を使った高齢者向けのサービスはまだ少ないですし、発展の可能性を秘めた分野だと考えていますね。
それこそ、TikTokでは昔流行した曲が急にバズることもありますし、おじいちゃんおばあちゃんがスターになっていく世界も往々にしてあるんだろうなと思います。SNSやYouTubeが使えれば、活動のフィールドは日本だけでなく世界に広がる。もしかすると、日本の高齢者の活動が海外で流行(はや)る事例も出てくるかもしれません。実際、「ひろこ(85)」の動画も台湾の方の登録が全体の15%を占めています。歳をとってから世界でスターになる、まさに一発逆転のようなストーリーが生まれる可能性もあるなと思います。
──非常に夢の広がるお話ですね。
下西:そうですね。僕としてはこの活動で高齢者の生きがいを創出するだけでなく、社会構造の変化も起こせるのではないかと期待しています。今回のメタばあちゃんプロジェクトで出た収益は、僕の利益にするのではなく、僕がお世話になった若手クリエイティブプロデューサー育成塾や若者を支援するNPO法人などに寄付しようと考えています。高齢者と若者はよく対立構造で語られることも多いのですが、僕たちがやっているような高齢者によるクリエイティブ活動が増えれば、高齢者が生み出した収益を若者に還元する構造も生まれるのではないかと思います。
“豊富すぎる経験” 人生そのものが、エンターテインメントになりうる
──メタばあちゃんプロジェクトでは、新メンバーオーディションを開催していましたよね。改めて、今後どのようなメンバーを迎えたいとお考えですか?
下西:オーディションの募集要件にも書いたとおり、75歳以上の方で「キラリと光る一芸をお持ちの方」に来ていただけたらうれしいですね。一芸の中身は、日本舞踊でも、楽器の演奏でも、何でも構いません。この活動を通じて生きがいをつくってみたいと考える方に、ぜひ応募していただけたら。
──応募状況はいかがでしたか?
下西:本当にさまざまな方から応募いただいています。定年退職してからジャズシンガーとして活動を始めた方や、華道・茶道の師範の資格をお持ちの方、病気をしてこの先の人生と向き合い「最後にひと花咲かせたい」と考えた方など、多様な方が集まっていますね。中には応募要件に満たない75歳未満からの応募もあります。そういった方からの応募には「早く75歳になって、メタばあちゃんに入りたいです」というメッセージがついていることも多くて。メタばあちゃんの活動が、今後多くの高齢者に夢や希望を持ってもらうきっかけになればと改めて感じました。
──メンバーが決定した後は、どのような活動を考えているのでしょうか。
下西:活動としては一般的なVTuberと同じように、「歌ってみた」動画の投稿やオリジナルソングの発表を中心に考えています。あとは集まったメンバーの特技次第ですね。日本舞踊が得意な方がいれば、メタバース空間の中で踊りを披露してもらうのも面白いなと想像しています。
──ぜひメタばあちゃんプロジェクトを手がけている下西さんのご意見を伺わせてください。これから高齢者の数がどんどん増えていく日本社会に必要なことは何だと思いますか?
下西:「高齢である」ということをポジティブに捉えるマインドと視点が必要なのかなと思います。今回、メタばあちゃんプロジェクトを手がけてみて、高齢者は人生経験があまりにも豊富なので、ネタが尽きないなと実感したんです。その人の人生がまるごとコンテンツになりうる。もちろん、長く生きていることで、本人が経験の中身を忘れていることも多いのですが(笑)。
でも、歳をとるということは、経験値が貯まっていくことと同義だと僕は思います。だからこそ、高齢者が増えるということは、経験豊富な方がどんどん増えていくんだと捉えていくことが必要なのではないでしょうか。高齢者を保護する、ケアする対象として見るだけではなく、仕事も含めてその方にできることを担ってもらおうという視点もこれからは大切になる気がします。高齢者の方にはぜひ、新しいことに積極的にチャレンジしていただきたいです。
メタばあちゃんプロジェクトはまだまだこれからなので、ぜひ今後の活動に期待していただけたら嬉しいです!
──ありがとうございます! 最後にひろこさん、ぜひ読者へのメッセージをひと言いただけないでしょうか。
ひろこ:じゃあ、若い人に向けてね。これから元気を出して、くよくよせずに、自分の思ったことをどんどんやってみてほしいなと思います。
(取材・文/市岡光子、編集/FM中西)