コアなファンが多く注目を集めるカルチャー偏愛ミュージシャン・タカハシヒョウリさんと、わるい本田さん、矢崎さん、池田ビッグベイビーさんからなるカルチャー解説YouTuber・おませちゃんブラザーズ。実は同じ大学の音楽サークルの先輩・後輩同士でもある2組。
対談Part1ではそれぞれの出会いからバンド活動、独立、そしてマルチな現在地にたどり着いた経緯を語っていただいた。
このPart2ではPart1のワイワイさから一転、「好き」を発信する際のこだわりや望む未来について真面目に話してもらった。
ゆっくりだんだん刺さるものが、一番刺さる
──おませちゃんブラザーズも、タカハシヒョウリさんも、語り口に押し付けるような不快感がないのが魅力だと思っているのですが、「カルチャーの魅力」を発信する際に意識していることはありますか?(編集担当、以下同)
わるい本田(以下、本田):僕は、たとえば映画を紹介するなら、僕らの動画を見た人が実際にお金を払ってその映画を見に行ってる場面を目の当たりにしたとしても、まったく心が痛まないものを選ぶっていう基準はありますね。
タカハシヒョウリ(以下、タカハシ):それは、僕も基本としてあるよ。やっぱりなにも引っかからないものは、さわれないし。でも、たとえば仕事としてそれをやる日が来たらどうする? YouTubeだったら、案件として映画を紹介してくれとか。
本田:それも、実際に映画を見せてもらってから決めると思いますね。
──ヒョウリさんはどうですか? 依頼があってのお仕事も多いと思うのですが。
ヒョウリ:根底に「好き」があるのはもちろんなんですけど、自分なりに伝えたい感情は「好き」だけではないのかなって思ってます。
たとえば映画を見て「なんかモヤっとするな」っていう感情も、単純に「つまんなかった」だけでは片付けられないものじゃないですか? それを自分なりに翻訳してみて、「あー! それだ!」ってスッキリする人もいるかもしれないし、「わたしはそう思わない」って人もいるかもしれないけど、じんわりと効く1つの価値はあるのかなって。
本田:あと「マウントは取らない」っていうのは気をつけてますね。「解説」っていうのがそもそも偉そうなんで。「教える」じゃなくて、同じファンの目線で共感できるようなワードを使うようにっていう。どんどん「解説」というより「感想」に近いものになってきてるのかなと。
ヒョウリ:そこは、おませちゃんのいいところ。僕も、「情報」を教えるっていうより、「見解」とか「価値観」を伝えたいっていうのは思う。自分より詳しくて的確に情報を教えてくれる人ってたくさんいるわけだし、自分はそこから生まれる価値観をちょっとでも面白く伝えられたらいいなと思う。
でも、それってある意味、スピードが遅い伝え方だよなーとも思う。いかに主観を排除して全体の情報を早く伝達するかっていう、ファスト映画とかの逆の伝え方だよね。
本田:だから時代に合ってないのかなって悩むとこもあるんですけど、時代に合わせすぎたら自分たちの個性もなくなって、つまんなくなっていくとも思うし。
でも、文カフェ(Part1で話題になった大学の食堂)で先輩が話してた時って、よくわかんない話とかめっちゃしてたと思うんですよ。それが、だんだんわかってきた時が、一番深く刺さるんですよね。そういう伝え方ってないかな?っていうのは思ってますね。
ただ、最近「倍速視聴」ってよく話題になるじゃないですか。僕は、倍速視聴は別に悪いことではないのかなってちょっと思い始めてますね。
ヒョウリ:僕も、倍速視聴が悪いとは思わないんだよね。「良い」というより、情報が加速していくのは「当然のこと」で、当然のことが当然のように起こっているっていう感覚。だって、昔のエンタメより今のエンタメのほうが、何倍もの情報量があるじゃん。その中で育ってきた人を、過去の価値観で縛り付ける必要はないと思うんだよね。
本田:その人に合ったテンポ感ってありますもんね。
ヒョウリ:そうそう。もっと言うと、僕はいずれ映画とか音楽といった「
で、そんな時代になった時に、
今も、「魅力を伝える」っていう意味ではちょっと意識していることかもしれないです。
YouTubeと他のメディアの違いは? 気持ちいいトークって?
ヒョウリ:ちょっと聞いてみたいんだけど、YouTubeの動画ってどれくらいの完成度をイメージして作るものなの?
たとえばミュージシャンだと、作品は100を目指してしまうという完璧主義的なところがあると思うんだけど、動画ってどんなイメージなんだろう。
矢崎:僕は、自分の中の完成度というよりかは、視聴者にとっての100を目指してますね。原稿を作る段階で、自分が言いたいことよりも、視聴者にわかりやすいかどうか、そこだけ考えてます。
逆に、自分がしゃべることに関してはあまり考えずに、自分の気持ちや熱をぶつけてる気がしますね。
本田:矢崎が一番パッションあるかもしれない。
ヒョウリ:日頃わりとクールな矢崎が、一番パッションあるっていうのが意外だよね。
矢崎:カメラが回ると、僕は変わるんです。
本田:僕は、編集してる時は100を目指すつもりでやってますね。
でも、ミスが多い人間なんでどうせミスるんですけど、そのミスをあえて残したりもします。YouTubeが他のメディアと違うのって、YouTubeは「ミス」が喜ばれる世界だってことだと思うんですよね。ラジオでトラブルがあったら、それは「事故」でめっちゃ怒られるわけですけど、YouTubeではトラブルがあっても一緒に楽しんでもらえるっていうか。
池田ビッグベイビー(以下、池田):僕も、固有名詞を使わないとか、意外とわかりやすさは意識してるんですよ。
矢崎:本当に意外だわ(笑)。
池田:そのうえで、YouTubeでは100%作り込まないのがいいんだと思います。
──ヒョウリさんは、しゃべる時に気をつけていることはありますか?
ヒョウリ:う~ん、僕は細部にはあまりこだわってなくて、多少の専門用語なんかも無意識に使っちゃうタイプだと思うんですけど、トークの気持ちよさって細部にはないのかなって。つまり、人間って実は一つ一つの言葉や意味って、そこまで認識してないんじゃないかと思ってるんです。
本田:それはそうですね。
ヒョウリ:「気持ちいいトーク」って「構成」なんじゃないかと思うんですよね。テンションの流れというか、どこで盛り上がって、どこで落ち着いて、どこにカタルシスが来るかっていう、映画の構成のリズムみたいなものを人間は気持ちよく感じる。それがしゃべりの本質なのかなって、漠然と思ってはいますね。
本田:タカハシさんのしゃべりは、知識量ももちろんなんだけど、しゃべりのテンポ感、とにかくリズムがあって速いところが好きなんです。言葉の全部が的確で、それをとにかく速く言ってくれるから、よくわかんないけど脳が気持ちよくなってくるんです(笑)。
矢崎:庵野理論だ(笑)。
本田:とにかくカットがいらないんですよね、もう編集されたみたいなしゃべりをしてくれるから、すごい気持ちいいと思いますね。
矢崎:音楽をやっている人のリズム感だと思います。音楽をやっている人って、映像編集のリズムもやっぱり違うんですよ。
ヒョウリ:それはすごくわかる! やっぱり、1人の人間が持ってるリズムって1個しかないんだと思う。音楽を演奏しても、文章を書いても、しゃべっていても、根底に流れるリズムは一定なんだよね。
断絶された文脈を再接続して、仲間を増やしたい
──最後に、ご自身の活動でも、周りの世界でもいいんですが、今後どんな環境になっていったら面白いと感じますか?
本田:僕は、「悪口が多い社会」になってほしいです。建設的なことに限るんですけど、たとえば作品を語る時とか、もっと感情的でもいいと思うんですよね。もっとぶん殴ってほしいです。
ヒョウリ:みんなが、自分が好きなものや主張にアイデンティティを預けてる時代だから、好きなものを否定されると自分の人生や人格を否定されたように感じる。だから触れ合わないっていうムードはあるかも。それってつまり、「宗教の時代」だと思う。今って、コンテンツでも、アイドルでも、本当にものすごい数の神々がいて、それぞれの村が宗教を信仰しているような時代だと思う。
本田:それで、それぞれの村がすごい充実してる時代ですよね。武道館のライブスケジュールとか見てるとビックリするんですけど、本当に知らないアーティストがたくさんいて武道館を埋めてるんですよ。「誰もが知ってる大物」じゃないんですよね。だからメインが消失したから、サブカルチャーっていうのももう消失したんだと思います。
ヒョウリ:誰も、メインとサブの対立構造なんて考えてないよね。それこそYouTubeだって、最初は明らかにサブだったわけだし。自分にとってのメインを追い求める時代。だから、結局「宗教」を作るしかないんだと思う。本当に、それが求められている。
矢崎:そういう意味では、僕は、正直広いところにリーチして浅く伝える気はないんですよ。今に違和感を抱いてる人はたくさんいると思うから、そこにいる人たちで仲間を増やしたいとは思うんですけど。
本田:濃いところで関係性を作るっていうか。カルチャーを好きな人たちが集まって友達になれる、その最短距離を示してあげられるような環境を作れたらいいなと思いますね。友達しか来ないライブハウスでライブするような感じ。「見に行ってやるか」で集まってくれる、そんな関係性ですね。
ヒョウリ:僕は、2010年代にものすごい大きな断絶があったと思っていて。それは、ネットネイティブ世代が登場したことで、一部の「文脈」が断絶されて「なかったこと」になっているという感覚。自分たちはそのはざまの、過渡期に生きていたんだっていうのが最近わかってきたんだ。
だから、やっぱおませちゃんも含めて、僕たちは絶対にネットネイティブになれないんだよね。ネットにつながることに、1枚の壁があるんだと思う。
でも、だからこそできることもあるんじゃないかと思っていて、それは「断絶された文脈を再接続する」っていうこと。それこそ村と村の間に道を作るとか。大きなお世話なのかもしれないけど、アナログとネットのはざまで生きてきた僕らの世代にできることなんじゃないかって思ってますね。そして、それを刺激的だと思ってくれる仲間を増やしたい。
僕は選択肢の多さが豊かさだと思うので、そうやって無数の価値観がつながって共存してグレーになっていく、中庸な世の中がいいですね。
池田:極端なものにしかみんな惹かれない時代だからこそ、グラデーションの間もちゃんと見ていきたいと思ってます。
ヒョウリ:池田がまとめた!!
(構成/タカハシヒョウリ、編集/福アニー)
【Profile】
●タカハシヒョウリ
ミュージシャン・作家。ロックバンド「オワリカラ」のボーカル・ギター、作詞作曲家。さまざまなカルチャーへの偏愛と造詣から、コラム寄稿、番組・イベント出演など多数。
●おませちゃんブラザーズ
ニッチでおませなサブカルチャーを紹介するYouTubeチャンネル。クラスで2~3人しか知らない映画や音楽、漫画をわかりやすく伝える。