2022年、CDデビュー25周年となるKinKi Kidsの堂本光一と堂本剛。記念イヤーということで、7月はさまざまなテレビ番組やラジオ番組、新聞や雑誌、Webサイトで特別企画が準備されている。ただ、それらで紹介予定の楽曲の多くが、デビューから最初の5年間(1997〜2001年)に発売されたものに集中しているが、当然ながら2002年以降もカラオケヒット曲は生まれているのだ。今回は、2002年から2006年におけるカラオケ人気曲ランキング(JOYSOUND調べ)を見てみよう。
(1997〜2001年を分析した第1弾:KinKi Kids、CDデビュー25周年! カラオケランキング25年分から読み解く、華麗なる人気曲ヒストリー【#1】)
激戦のなかでもセールス30万枚台、年間順位20位前後をキープ
まず、この5年間の特徴としては、互いのソロ活動がより活発になっていったことが大きいだろう。
光一のほうは、2000年から出演していたミュージカル『SHOCK』シリーズを、2005年に『Endless SHOCK』として、自ら脚本・演出・主演を手がけるようになる。コロナ禍という荒波にも負けず、2022年には、同シリーズの上演回数1900回を達成。迫力ある“階段落ち”や、布をつかむ腕力だけで身体を支える“フライング”なども健在だ。
一方の剛は、2002年にシングル「街/「溺愛ロジック」の両A面シングルにて、作詩・作曲を手がけるシンガーソングライターとしてソロ・デビュー。以降、作風の変化に合わせて、アーティスト名もENDLICHERI☆ENDLICHERI、244ENDLI-x、剛紫、そして現在のENDRECHERIと変えている。また、性別にこだわらない独特なファッションセンスが注目されるようになったのも、このころだろう(2004年にはベストジーニストも受賞)。
そんな2002~2006年におけるKinKi Kids本体のシングルCDセールスは、全11作中、大半が30万枚台。平均では34.6万枚(オリコン調べ)と、ひところよりは落ち着いている。これは、前述のようにソロ活動が活発なぶん、グループとしての動きがどうしても不規則になったことや、後輩であるタッキー&翼のデビューも影響しているはず。加えて、国分太一と堂本剛によるトラジ・ハイジの「ファンタスティポ」や、亀梨和也と山下智久による修二と彰の「青春アミーゴ」といった、タイアップ映画やドラマ由来の企画ユニットが発足するなど、KinKi自身の成功によって男性デュオの選択肢が増えたことも一因だろう。
また、CDシングルの市場規模が1990年代後半をピークに縮小してしまったことも考慮すべきだ。その中でKinKi Kidsは、2003年ごろから通常盤にもオリジナル曲を追加収録するなど、初回盤にない魅力を打ち出して(この通常盤ならではの仕掛けも、KinKiは他のアーティストに比べてかなり早い)、セールス30万枚台、年間順位は20位前後をそれぞれキープしていた。
この5年間のカラオケ人気ランキングを見てみると、2002〜2005年の4年分で、その年、または前年に発売のシングルがTOP3に入っており、その年に出た新曲がほぼ確実に歌われていることが分かる。2006年は、前述の企画ユニットやタッキー&翼「Venus」のカラオケヒットにより、KinKi本体の新曲が見えづらかったのかもしれないが、それでもその年の新曲はTOP10入りしている。また、なんといっても「愛のかたまり」が徐々に浸透していったのもこの時期。以下、1年ごとに見ていこう。
’02年は堂島孝平とのタッグに注目、’03年は松本隆による名曲が1位に
まず2002年は、2位に「カナシミ ブルー」が登場。2人が出演するUCカードのCMソングに起用されたスリル感のあるナンバーで、作詩・作曲にシンガーソングライターの堂島孝平を起用。堂島はジャズやラテン、ソウル、さらに今話題のシティポップ風などをJ-POPに取りこむポップ・マエストロで、FMラジオ受けはよかったものの、それまで目立ったヒットがなかった。
だがKinKi Kidsサイドは、そんな彼の才能にいち早く目をつけた。堂島は2000年に発売のアルバム『D album』にて、ファンキーな楽曲「Misty」の詩曲を提供。それが評判となり、以降「カナシミ ブルー」、「永遠のBLOODS」、「Secred Code」などのシングル表題曲を含め作詩・作曲・編曲・演奏と、幅広い部分で20年以上にわたってKinKi Kidsの音楽面を支えている。
今では、それに事足りず(?)、シングル「KANZAI BOYA」のミュージックビデオではド派手な宇宙人メイクで出演したり、堂島自身が詩曲を手がけたシングル「アン/ペア」の初回盤映像でコンセントに扮して、プラグとなった光一や剛とイチャイチャしたり、今やKinKi Kidsの盟友と言えるだろう。
また、2002年の19位には「見上げてごらん夜の星を」がランクイン。同作は、シングル「Hey!みんな元気かい?」のボーナス・トラックに収録され、坂本九の名曲を剛がカバーしている。剛は、2013年のソロ・アルバム『カバ』にて、尾崎豊「I LOVE YOU」、DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」、ASKA「はじまりはいつも雨」、吉田拓郎「人生を語らず」などの幅広い楽曲を、寄り添うような優しい歌声でカバーしているが、2002年ごろは肩に力の入った濃密なボーカルが持ち味だ。「見上げて〜」がカップリングながらそこそこ上位なのは、マイクの持ち方から剛になりきって熱唱したファンが多かったのかもしれない。
2003年は、「薄荷キャンディー」が1位に登場。シングルでは2年ぶりとなる松本隆の作詩曲で、剛が広末涼子と共演したドラマ『元カレ』の主題歌としてもヒットした。何気ない日常がつづられたバラードで、歌詩を読んでいると、2022年に松本が手がけた「高純度romance」に登場する、仲睦まじい2人にもつながっているような気がする。また、7位には「solitude ~真実(ほんとう)のサヨナラ~」が前年11位より上昇しランクイン。こちらは光一が深田恭子と共演したドラマ『リモート』の主題歌だ。光一自ら作詩・作曲を手がけつつも、先入観なく聴いてほしいという思いからK.Dino名義で発表したが、光一の大きな持ち味である繊細なマイナー調のメロディーゆえ、ファンはうすうす気づいていたのではないだろうか。
前年のアルバム曲や、数年前に発売された楽曲がランクインする年も
2004年は、DREAMS COME TRUEの吉田美和が手がけたラブソングの「ね、がんばるよ。」が3位。剛がファンということから楽曲提供が実現し、ドリカムの「MERRY ME?」に対するアンサーソングとなっている。こうした穏やかなラブソングが徐々にハマるようになったのも、2人の成長を感じさせるし、この曲が持つホンワカとした雰囲気も、KinKi Kidsらしさのひとつという感じがする。
また、注目は、23位の「Bonnie Butterfly」。前年のアルバム『G album -24/7-』収録で、ビートが強く鳴り響く中を2人がコーラスやラップを交えて駆け抜けていくようなアッパーチューンだが、こうしたLIVE映えしそうな楽曲がカラオケでヒットするというのも、アーティストとして認知されている証拠だろう。
そして、2005年では前年末に発売された「Anniversary」が2位に。シングル20作目の記念作ということもあり、デビュー曲「硝子の少年」のときと同様、シングルとアルバム『KinKi Single Selection II』が同一パッケージとなった。この影響もあり、シングルは2005年のオリコンヒット年間6位を記録し、3年ぶりにTOP10入りしたが、カラオケでもしっかり大ヒットしている。これも、「雪の華」などで知られるSatomiによる実直な歌詩と、織田哲郎によるスケール感のあるメロディーにKinKi Kidsの優しく包むような歌声が合わさってこそのことだろう。
さらに、「愛のかたまり」が発売5年目にして、ついにカラオケ9位に。シングルズ・ベスト『KinKi Single Selection II』の中で、カップリング曲ながら唯一収録されており、発売されたタイミングで音楽番組でも何度か歌われたことで、改めて名曲という認識が広まった。もともと、剛が作詩、光一が作曲したということも、ファンの思い入れが強くなるキッカケだっただろうが、それにしても意外と譜割りが複雑だったり、ブレスの位置が少なかったりする楽曲がカラオケでヒットしたというのは、実に感慨深い。
なお、2005年には10位に「ビロードの闇」がランクイン。カラオケ的には地味かもしれないが、当時、音楽番組『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)にて、光一が「僕らは一人で打ちひしがれるだろう」と歌詩を間違え(正しくは「眠れる夜に打ちひしがれる〜(中略)〜僕らは見ることさえ許されないだろう」と続く)、その即興詩に笑ってしまい、剛も仲よく間違えてしまうという、“ビロードの闇・打ちひしがれ事件”が起こった。これが今でも語り草になるほど、ファンの間では有名な楽曲なので、初心者の方はおさえておこう(笑)。
そして、2006年には「愛のかたまり」が5位とさらに躍進し、また2000年発売の「もう君以外愛せない」も2位と、ラブソングの上位入りがより顕著に。1位から5位の作詩は、順に松本隆、周水(Shusui)、松本隆、Satomi、そして堂本剛と四者四様なのに、“繊細であるがゆえに恋愛に不器用でも、相手のことを大切に思っている”という男性像が一貫している。これらのカラオケ定番人気曲から、“図書委員(※)が理想とする恋人像”が浮かび上がってくるのがとても興味深い。
(※ 「図書委員」=KinKi Kidsのファンネーム。剛が「おとなしくて図書委員みたい」と言ったことから浸透)
このように、前の5年間と比べると、やや地味に見えるかもしれないが、2002年からの5年間も名曲が次々と誕生している。また、互いのソロ活動による人間面での深化から、ピースフルな要素やファンキーな要素など、新曲により彼らの魅力が広がったのもこのころ。一方、彼らのカラオケ人気曲に登場する男性像は「硝子の少年」から一貫しており、ある種の美学も見えてきた。ここに、彼らが25年間(そして、これからも)愛され続けている理由があるのかもしれない。
《取材・文/臼井孝(人と音楽をつなげたい音楽マーケッター)》