腸の調子を整えることで便秘解消のほか、免疫力アップなど健康効果を上げる「腸活」。メディアに取り上げられることも多く、関連商品も次々と出てくることから興味を持って実践している女性はとても多い。一方で、間違ったやり方をしている人が増加、最悪の場合は病院行きのケースも。ついやりがちな8つのNG腸活を専門家に聞いた。
キケンな腸活をしている人が多い!
美容法や健康法としてすっかり定着した「腸活」。腸は食べたものの栄養を吸収するだけでなく、メンタルを安定させるセロトニンというホルモンをつくったり、免疫システムを制御したりして、全身の健康と関係していることが近年明らかになった。そのため、腸活をすることでさまざまな健康効果が期待でき、新しい腸活法やサプリなども次々に登場している。
ところが、「実は間違った腸活をしている人がとても多いんです」と語るのは、元便秘外来の看護師で、腸活に詳しい小野咲さんだ。
「本人は正しい腸活をしているつもりでも、間違ったやり方では効果は出ません。むしろ、腸の健康状態を悪化させることもあります」
小野さんが、かつて勤務していた便秘外来では、間違った腸活が原因で診察を受けにきた人たちもいたという。
「便秘がひどく、自然のものだから安全だと思って下剤効果のある植物性のセンナ茶を常用していた人もいました。最初はよく効いていたものの、だんだん濃く煮出したものをたくさん飲まないと効かないように。センナ茶に依存してしまい、便が自然には出ない体質になってしまっていました。
そのほかにも、便秘に効くと信じて食物繊維を多くとった結果、逆に便秘を悪化させたというケースもあります」(小野さん、以下同)
(吉田智子さん=仮名、30代女性)
以前から便秘ぎみだった吉田さん。「3日に1回やっと出るくらいで、形はバナナ状には程遠いコロコロの便。ずっとなんとかしたいと思っていました」
腸活を始めようと決心し、食物繊維をとることに。「食物繊維だったらキャベツかなと、毎日半玉、サラダにして頑張って食べるようにしたんです」
結果を信じて1週間続けたところ……なんと症状がさらに悪化!
「治るどころかコロコロの便すら出なくなっちゃって……。気分も悪くなり、思わぬ結果にパニックになりました」
腸が詰まって便秘が悪化、病院に駆け込むハメに。原因は食物繊維のとりすぎだった!
このような間違った腸活の原因は、古い知識や思い込みだ。すぐに効果が出ることにこだわりすぎると、一時はよくても、長い目で見たときに腸の健康状態を悪化させている場合も少なくない。
「腸を刺激しなくても自然にいい便が出るように整えていくことが本当の『腸活』です。便秘に悩んでいる人は、とにかく便を出すことばかり考えてしまいがちですが、気づかないうちに腸にダメージを与えるキケンな腸活をしてしまっているかもしれません」
では、キケンな腸活とは具体的にどのようなものなのだろうか。特にやりがちな8つの腸活について詳しく説明する。
【1】繊維質の多い野菜をたくさんとる!はNG
食物繊維がお通じを促して腸にいい、というのはもはや定説だが、大きな誤解がある。一口に食物繊維といっても実は2種類あり、どちらをとるかで腸に与える影響は大きく変わる。
「ひとつは不溶性食物繊維といい、これが一般的にイメージされる食物繊維のこと。例えば、さつまいもやごぼう、キャベツなどの葉物などに多く含まれます。便のかさを増やす食べカスを作ってくれます」
ところが、便秘ぎみの人がこればかりとると、腸がさらに詰まってしまうことに!
「便が腸内に長くあると水分が腸に吸収され、どんどん硬くなります。その状態で不溶性食物繊維を多く食べると、硬くて詰まった便のかさが増え、さらに苦しくなってしまい、逆効果です。
便秘の人には、もうひとつの水溶性食物繊維のほうが効果的。これは、ネバネバ、トロトロした性質で、めかぶ、アボカド、オクラ、モロヘイヤ、長芋、里芋などに多く含まれています」
水溶性の食物繊維は便に水分を与えるとともに、腸内の善玉菌のエサになるため、腸内環境が改善して便秘解消が期待できる。
【2】コーヒーや冷たい水を飲んで便秘解消する!はNG
「朝、冷たい水を1杯飲む」「食後にブラックコーヒーを飲む」などで実際にトイレに行きたくなる効果はある。でも、腸内環境が整っているわけではないので正しい『腸活』とはいえない。
「腸に刺激を与えて便意を促すのは、便を無理やり出すための手段。つまり、腸にとってはストレスでしかないんです」
本来の、“食べた分だけ自然に出る”という理想的な排便サイクルが失われていることが問題だ。
腸に無理に刺激を与える方法では、腸内環境が改善することはまずないそう。
「腸はとてもデリケートな臓器。ストレスや刺激を与えるのではなく、常温の水を1日2リットル目安で飲み、腸を冷やさずリラックスさせると、しだいに本来の蠕動(ぜんどう)運動を取り戻し排便が促されます」
【3】お茶やハーブのドリンクのおかげでお通じがいい!はNG
いざとなったら頼るしかないけれど、便秘薬を常用するのはちょっと抵抗がある……という人は多い。でも、生薬を煮出して飲むセンナ茶やハーブティーなら身体にやさしそうと思う人も多いだろう。
「その誤解、本当に多いです。センナ茶も、ハーブでよく飲まれているゴールドブッシュやキャンドルブッシュといったものも、下剤に使われる成分。薬はもちろんですが、これらのドリンクも、常用すると依存してしまい、それなしでは便が出なくなってしまいます」
薬ではないからと安心してセンナ茶やハーブを飲んでも、無理に出しているだけ。依存になるおそれもあるので、決して常用せず、飲まずに自然に排便できるように腸を整えることを目指すべき!
【4】発酵食品を積極的に食べる!はNG
発酵食品の中でも特に腸にいいイメージがあるのは、ヨーグルトではないだろうか。お腹の調子がすぐれない人が毎日食べてケアしているのはよく聞く話だ。
「誤解している人が多いのですが、ヨーグルトの菌が腸内に定着するわけではありません。ほとんどが腸に到達する前に死んでしまいます。死んでいても腸内細菌のエサになったりするので効果はありますが、食べれば食べるほど善玉菌が増えるというのは間違いです」
むしろ、加糖やフルーツソース入りの甘いヨーグルトを大量にとると、甘味料や糖分がエサとなり腸内の悪玉菌が増えてしまうことも。甘いヨーグルトを毎食のように食べ続けると、腸内環境が悪化するおそれすらあるのだ。
大切なのは、発酵食品を適量食べるだけではなく、腸内の善玉菌を育てること。それには善玉菌のエサをバランスよくとる必要がある。
「腸内環境を整えるには、発酵食品に加えて水溶性食物繊維などもしっかりとることがポイントです」
【5】市販の酵素飲料やスムージーをたくさん飲む!はNG
野菜が多く使われているスムージーや酵素飲料が、コンビニなどで手軽に手に入る。おしゃれなボトルに書いてある「野菜〇個分!」といった売り文句を見ると、いかにも身体によさそうな気が。
「野菜やフルーツが細かく粉砕されて消化しやすくなっていたり、手軽にとれるので、飲むこと自体はいいこと。でも、かなりの糖分や甘味料が加えられていることにも注意してほしいんです」
温かい飲み物と比べて冷たいドリンクは甘みを感じにくい。そのため冷たくても甘く感じる飲み物には多くの糖分や甘味料が加えられている。それらは悪玉菌を増やして腸内環境を悪化させるため、『腸活』的にはNG。
また、手軽に飲めるため、実際に野菜をとることが面倒になるデメリットも。
「あくまでも補完的に飲むのにとどめるのがポイント。3食を加工食品や外食にすると、腸内の善玉菌は急激に減るといわれています。便利な加工食品に頼りすぎず、できるだけ素材に近い食品をバランスよく食べましょう」
【6】毎朝、無理にでも排便しようと頑張る!はNG
腸に排泄(はいせつ)物をため込まないようにと朝の排便にこだわる人は多い。たしかに朝出るならそのほうがいいが、冬の朝の無理な排便は危険が伴う。
血圧は気温の変化に左右されるため、寒い冬は血圧が上がりやすい。また、朝、暖かい布団から寒いトイレに行くだけでも血圧が急上昇。命を落としたり、寝たきりになりやすい脳出血などのリスクがある。さらに無理に出そうといきむと、血管が収縮して血圧が上がるのでより危険だ。
「無理にではなく、自然に排便できるようにすること。起き抜けにコップ1杯の常温の水を飲むとやさしく刺激されて効果的です。朝食は抜かず、ビタミン、ミネラルやフルーツなどを中心に、軽くとるのがおすすめ」
また、前日寝る3時間前に夕食をすませれば、寝ている間に蠕動運動が起き、朝、便が出やすくなるそう。
【7】自分なりに“腸もみ”にはげむ!はNG
腸をマッサージするのは効果的だが、決して強くやる必要はない。便秘がひどいと、強くやるほど効果が出そうな気がするが実はその逆だ。
「強い刺激は腹部を緊張させ、腸がきゅっと縮み上がったような状態になります。それでは腸はなかなか動いてくれません。
腸が動き出すのは、心身ともにリラックスした状態。あおむけに横たわり、手のひらを下腹部に当てて温めるだけでも十分効果があります」
力で便を押し出すのではなく、やさしくマッサージすることで腸の蠕動運動を活発にして、自然な排便を促すのが腸もみの本来の目的だ。
【8】定期的に腸内洗浄している!はNG
腸内をきれいにするため、エステや自分で腸内洗浄をやっている人もいる。洗浄液などで腸内を洗い流すのがおもな手法で、いかにも効果がありそうだが、
「過激な方法で、腸へのストレスはかなりのもの。洗浄時には、同時に腸によい菌まで流してしまうリスクもあります」
という。施術後の食生活で腸によい菌が定着しなかった場合、むしろ一気に腸内環境が悪化しかねない。また、腸内に炎症や病変があった場合は、悪化する危険性も。
「もともとは、病院が必要に応じて緊急措置としてやる医療行為。腸内を傷つける危険性もありますので、少なくとも自分では絶対にやらないで」
【タイプ別腸活法】ホントにやるべきなのはコレ!
下の項目のうち、いちばん多くチェックがついたタイプがあなたの腸のタイプです。下のワンポイントアドバイスを参考にしてみて。
〈下がり腸タイプ〉
□ おへその下がポッコリしている
□ つい脚を組んでしまう
□ 食べるとおへその上あたりが出る
□ 立っているとついお腹が出ている姿勢になっている
□ 体幹の筋肉が少ないと感じる
〈冷え腸タイプ〉
□ 呼吸が浅いと感じる
□ 背中を丸めると違和感や痛みがある
□ お腹をさわると、手よりお腹が冷たいことが多い
□ 腰やお尻の上が冷たいことが多い
□ 冷たいものが好き
〈むくみ腸タイプ〉
□ 手脚は比較的細いのに、お腹が出ている
□ デスクワークや座った姿勢が多い
□ 猫背である
□ 日ごろから身体をねじることが少ない
□ 塩辛いものが好き
●下がり腸タイプ:下半身が太りやすい体質
骨盤の中に腸が落ち込んで折り重なっている下がり腸タイプ。水分や食物繊維の摂取量が少なく、食品添加物をとりすぎていると、ポッコリお腹になる。水溶性食物繊維やミネラル豊富な食材を意識的にとろう。
●冷え腸タイプ:疲れやすく虚弱体質
冷たいものやカフェイン、アルコールの摂取量が多いと、腸そのものが冷えてしまう。食事は温かいものからとる習慣を。食物繊維は水溶性と不溶性をバランスよく。
●むくみ腸タイプ:全身がむくみやすい体質
塩分や白糖類をとりすぎたり、水分摂取のバランスが悪いと腸内環境も乱れてしまう。水溶性食物繊維やカリウムを多くとること。お腹をねじる動きも効果的。
(取材・文/野沢恭恵)
《PROFILE》
小野 咲 ◎腸活ケア専門美腸ナース、元便秘外来看護師。腸活ナース。国立成育医療研究センターで看護師として勤務後、小林メディカルクリニック東京の便秘外来にて腸について集中的に学ぶ。2013年に日本美腸協会を設立。著書に『下がらないカラダ』(サンマーク出版)、『腸が変われば、人生変わる 美腸の教科書』(主婦の友社)など